第47話「文学少女、放送室の機材に“読み上げ用の隠し原稿”を置いていた」
今回は“放送室の詩”。
声に出してこそ意味を持つ言葉たち、詩音先輩はちゃんとその魔法を知っていました。
聞こえた瞬間に、空気がやわらぐような言葉って、ありますよね。
「放送当番、今日こよりでしょ?」
「うん、昼の放送。お弁当紹介と今日のひとこと読むだけみたい」
昼休み、こよりは生徒会室の一角にある放送室に向かった。
扉を開けると、そこには古いマイクとスピーカー、そして、引き出しに雑然と詰められた紙の束。
「……ん? これ、“放送原稿”?」
取り出して見てみると――
その中の何枚かに、“しおん”の署名がついた詩が混ざっていた。
『マイクは小さな窓です
でもそこから誰かの昼に
言葉がそっと入り込むなら
それはきっと、いい昼休みになる』
「これ、詩音先輩の……」
他にも何枚か、原稿として書かれていた詩があった。
『今日も何もない日です
でも、それは“無事だった”っていうすごいことです』
『お弁当のふたを開けるように
言葉もそっと、開けてみてください
中身はあなたの想像力でいっぱいです』
思わず読み上げたくなる、やさしい詩。
その横には小さくメモが書かれていた。
「読んでくれてもいいし、読まなくてもいいです。
でも、マイクの向こうに誰かが笑ってくれたら、それが一番うれしいです」
昼の放送時間。
こよりは、予定されていたメニュー紹介のあとに――
ほんの少しだけ、そっと原稿を読んでみた。
「……えっと。最後に、こんな言葉を見つけたので、お届けします」
『あなたのお昼が
ほんの少し、やさしくなりますように
笑っても、寝ても、食べすぎても
どれも素敵な昼休みです』
放送後、廊下を歩いていた後輩たちがこんなことを言っていた。
「今日の放送、なんかすごくやさしかったよね」
「うん。なんか、あったかくなった」
まな「……ついに放送電波にまで詩を混ぜてたか……」
ゆい「いやもうそれ、学校全体が詩の中にいる状態だよ……」
そして、放送室の原稿棚の一番下には、
封筒に入った**“最後の詩”**が残されていた。
『ここに残した言葉たちが、
いつか誰かの声になるなら、
それがわたしの、いちばんの願いでした』
文学は声になり、校舎の隅々まで届いていた。
それは、**音になった“やさしいやらかし”**だった。
今日の一句:
「昼の声 詩に変わって 届く先」
次回、第48話「文学少女、校庭のベンチの裏に“春待ち詩”を刻んでいた」
最後の季節がやってくる。詩音先輩が残したのは、春の入り口にそっと置かれた一行だった――。




