第33話「文学少女、購買部のおばちゃんに贈った詩が壁に貼られていた」
今回は、詩音先輩が“購買部のおばちゃん”に贈った詩の話。
生徒だけでなく、学校の“影の支え手”にもちゃんと敬意を伝える詩音先輩の姿勢に、ほっこり&しみじみ……。
昼休み、焼きそばパンを求めて購買部に並んでいたこより。
ふと、レジ横の壁に目をやって、あるものに気づいた。
「……あれ? 詩が貼ってある……?」
そこには、A4サイズの紙が丁寧にラミネート加工され、額縁に入れられていた。
筆跡は、見覚えのあるまっすぐな万年筆の文字――
『いつもレジの奥で
誰かの“おなかすいた”を
そっと受けとめてくれる
あなたの笑顔は
毎日通う あたたかな物語』
「……詩音先輩の……字だ……」
後ろに並んでいたゆいも気づき、目を丸くする。
「ちょっと待って、詩音先輩、購買部にも詩残してたの!? 範囲広すぎじゃない!? 人文衛星!?」
まなも驚きながら言った。
「てか、おばちゃんもよくこれ保管してたな……」
そのとき、購買のおばちゃんがにこにこと話しかけてきた。
「ああ、それ? 卒業のときにもらったのよ~。
“いつもごちそうさまです”って、あの子、最後までちゃんと詩だったのよ。
嬉しくてねえ……捨てられなかったの」
「それで……ラミネートまで……」
「もちろん。雨がかかっても、汚れないようにね。
わたしの宝物なんだから」
一同、言葉を失う。
詩音先輩は、最後の最後まで誰かのことを見ていたのだ。
教室だけでなく、廊下でも、図書室でも、購買部でも。
“詩がある場所”は、詩音先輩にとって“誰かがいる場所”だったのだ。
こよりは、レジで焼きそばパンを受け取るとき、そっと言った。
「……ごちそうさまです」
おばちゃんは優しく笑って答えた。
「また明日、おいで」
詩は残る。
たとえそれが、購買部の壁の片隅であっても――
今日の一句:
「パンよりも 心あたたか 昼の詩」
次回、第34話「文学少女、放送室で録音した“秘密の詩”が流れる日が来る」
放送室に残された未公開音源!? 校内放送でついに“声の詩”が蘇る!




