第32話「文学少女、卒業アルバムの寄せ書きに仕込んだ詩が後輩の心を撃ち抜く」
今回は、寄せ書きを“構成詩”にしてしまう詩音先輩の最終兵器回。
読んでいるうちに、まるで自分の言葉までもが詩になっていく――
そんな感覚が、後輩たちの心を深く揺さぶります。
ある日の放課後、職員室で先生から呼び止められたこよりは、一冊の卒業アルバムを手渡された。
「これ、去年の卒業生の予備分なんだけど、詩音先輩のページ、ちょっと見てみてくれる?」
「え、また何かあったんですか?」
「ああ……うん。なんていうか、“仕込まれてた”みたいで……」
言われるがままにページをめくるこより。
詩音先輩の寄せ書きページは、ぱっと見、ごく普通に見えた。
“ありがとう”とか“お元気で”とか、“詩、好きでした”とか――
でもその文字をじっくり読んでいくと、ふと、気づく。
「……これ、もしや……全部の寄せ書き、詩になってない!?」
なんと、寄せ書きの内容を順番通りに読むと、一つの長い詩になっていたのだ。
『きみの書く言葉が好きでした
それはときどき、わたしの気持ちみたいで
たぶん、わたしには書けないけど
でも、わたしも何かを残せたらいいなって思った』
こよりは思わず背筋がぞくっとする。
「自分のページに寄せられた言葉に、“詩の構成”させるなんて……!!」
実はこの詩、卒業前に詩音先輩が寄せ書きをお願いする際に、暗黙の構成指示をしていたことも判明。
・最初に「あなたの詩が好きでした」と書いてください
・その後に「わたしは〜」と続けてください
・言葉に迷ったら「残す」「届く」「書けない」のどれかを入れてください――
つまり、他人の寄せ書きの“断片”を繋げて一つの詩にするという、前代未聞の“寄せ書き文学”を実現していたのだ。
まな「なにこの、他人の言葉を使った共同詩プロジェクト!? まるで詩音先輩が編集長じゃん!!」
ゆい「もはや文学版“ブラックボックス作品”。見抜いた人だけが泣けるやつ……!」
最後の行に、詩音先輩の書いた返答だけが、小さく残っていた。
『ありがとう。
この詩は、みんなとわたしの共同制作です。
ずっと大切にします。
きっと、未来でも。』
静かに本を閉じたこよりたちは、黙って目を閉じた。
誰かに言葉をもらい、誰かに言葉を返す。
それもまた、詩音先輩の“やらかし方”だったのだ。
今日の一句:
「書き残す 誰かの言葉も 詩になる日」
次回、第33話「文学少女、購買部のおばちゃんに贈った詩が壁に貼られていた」
地味に購買部にも侵食!? しかもおばちゃんが感動してラミネート加工!?




