第29話「文学少女、文化祭の屋台看板に名もなき詩を残していたことが発覚する」
今回は文化祭という活気ある舞台に、そっと灯された詩の話。
派手な看板の裏で静かに語りかける言葉は、どこか遠い日の優しい記憶のようでした。
秋の風が校庭を渡る頃、文化祭の準備は佳境を迎えていた。
こより、ゆい、まなもそれぞれ屋台の設営に追われる中、ひとつの噂が教室中に広がった。
「ねえ、知ってる? 去年の文化祭の屋台の看板に、詩音先輩の詩が隠されてたらしいよ」
「え、まじで? どんな詩?」
「誰も気づかずに毎年使ってる看板に、小さな文字で詩が書かれてて、それがすごく綺麗なんだって」
興味津々のこよりたちは、当時の屋台看板を探しに文化祭実行委員室へ。
「うわ、これだ……」
古びた木製の看板には、さりげなく小さな文字が彫り込まれていた。
そこに刻まれていたのは――
『笑い声が波のように揺れて
焦げた匂いが時間を染めていく
祭りの夜は、いつも少しだけ
寂しさを隠している』
「うわあ……これ、すごく情景が浮かぶ」
「屋台の熱気も、遠くの夜空も、全部見えるみたい」
「しかも、なんだか知らないけど胸がきゅんとする」
さらに探ると、看板の隅には小さくこう書かれていた。
「名もなき詩人より」
「まさか詩音先輩……名乗らずに詩を残してたのか!」
「この人、もう何でもアリすぎて怖いよ!!」
文化祭当日。
来場者は無意識のうちにその詩に触れ、ふと立ち止まり、そして笑顔を増やしていた。
こよりはそっと言う。
「詩ってね、こうやって誰かの心に静かに灯るものなんだ。
名前がなくても、それはちゃんと伝わるんだなって思った」
ゆいも頷く。
「文化祭の喧騒の中に、静かな文学の火がずっと灯ってる感じ。
詩音先輩の詩は、見えないけど確かにそこにあるんだね」
まなは感慨深げに締めくくる。
「いつか私たちも、誰かにそんな灯りを届けたいな」
そんな風に、詩音先輩の“名もなき詩”はまた一つ、
学校のどこかで誰かの心に寄り添っていた。
今日の一句:
「祭りの灯 言葉の影に 詩宿る」
次回、第30話「文学少女、卒業生からの手紙が後輩に届く」
卒業しても続く縁、文字に込められた想い。後輩たちに渡る最後の詩のバトン――




