第24話「文学少女、卒業式で送辞の代わりに詩集を朗読する」
今回はついに卒業式。
普通の送辞ではなく、自分の詩集を朗読するという前代未聞の“送り方”を選んだ詩音先輩。
でもその言葉は、儀式を越えて“心の卒業式”になりました。
卒業式当日――。
体育館は緊張と静けさに包まれていた。
こより、ゆい、まなも、式の手伝いで来賓席の端に並んでいた。
「ついにこの日が来ちゃったね……」
「先輩たち、みんな旅立っちゃうんだなぁ……」
「ってか詩音先輩、“送辞”担当になったのほんとすごくない?」
だが、次の瞬間。
壇上に立った詩音先輩の手元には、一冊の分厚い本。
「これは……原稿じゃなくて……本!? 詩集!?!?」
そして、詩音先輩は静かに言った。
「送辞として、わたしがこの3年間で綴ってきた詩を、いくつか朗読させていただきます」
ざわめく場内。
「送辞って、“卒業生へのメッセージ”じゃなかったっけ……?」
「というか詩集て……でも、なんか聞きたい……」
朗読が始まる。
『さよならは 終わりじゃなくて 境目で
名前のない一歩が その先にある』
『校舎の窓に 映っていたのは
未来ではなく わたしのまなざしだった』
『制服の袖に にじんだインク
書きかけの想いが いま風になる』
体育館の空気が、次第に静まりかえっていく。
誰もが、心のどこかをそっと撫でられているような、そんな感覚。
「言葉って、こうやって響くんだ……」
「“伝える”じゃなくて、“共鳴する”ってこういうことかも……」
涙を流す生徒も、静かにうなずく先生もいた。
そして、最後に読まれたのは――この日のために書かれた一篇。
『卒業という名前のない季節
歩き出す君の背中に
何も貼らずに見送るために
わたしは詩を選びました』
一瞬の沈黙のあと、拍手がじわりと広がっていった。
それはいつものように一斉に起きる儀式の拍手ではなく――
“心に届いたからこそ”自然に湧いた拍手。
こよりは思う。
「やっぱり詩音先輩は、最後の最後まで……
“やらかしてる”けど、すごい人だったな……」
まなもうなずく。
「これ……あとで詩集コピーしてもらおう」
今日の一句:
「さよならも 言葉しだいで 贈りもの」
次回、第25話「文学少女、卒業後に伝説扱いされ始める」
校内の掲示板に“残された詩”、昇降口には“花言葉”――残していったものが多すぎて、詩音先輩が伝説になる!?




