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ヘルファイヤ・クラブ~名門貴族の若様と若きギャングスターの華麗な冒険~  作者: ヨシオカセイジュ


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悪夢を手放せ、と白猫は囁いた part1

「この栄光あるウォルズリー家長子、ハワード・ウォルズリーがーーいや、聖剣の騎士『銀仮面の亡霊(シルバー・ゴースト)』が、この世界からおまえを消除する」


 銀仮面をつけた若者ーーハワードはジャックにそう告げると、デスクの下に隠していた剣を抜き、顔の前で構えた。


「てめえ、あの晩の変態仮面かよ!!」

 ハワードの持つ剣はレイピア(※1)並みの細身ながら力強さに溢れ、グリップに施された精緻な装飾は芸術品と言いたいレベルで、思わず見惚れてしまうほどの美しさであった。


「お、おい、ちょっと待てってーー」

 ジャックが話し終える前に、ハワードは薙ぎ払うように切りかかってきた。

「あぶねええっ!!」

 刃の切っ先が、とっさに飛び退いたジャックの首元を間一髪かすめるように通過していった。

 ジャックは素早く扉に駆け寄るとノブに手をかけたが、外側から鍵がかかっているようでびくともしない。


「いったい何だってーー」

 二の句を告げる間もなく、宙を飛んだかと思えるほどの速さで距離を詰めてくると、今度は連続した突きが襲いかかってきた。

 ジャックは床に尻餅をつく様な格好で、転がりながら何とか逃れ続ける。

「どうした?逃げているだけか?」

 ハワードが挑発するように呼びかける。


「ふざけんなよ!」

 そう叫んで腰の辺りに手を回すが、当たり前のように自慢の二丁拳銃はもちろん、肌身離さず持ち歩いている隠しナイフもなく、ジャックは室内で何か武器になるようなものを必死で探した。

『畜生、何かねえのか!』

 とっさに本棚の側にある木製の脚立を取り身構えたが、ハワードが剣を振るうと切られる感触すらなく、あっという間にバラバラに寸断されてしまった。

『あの化け物の時もそうだったが、なんて切れ味だ……いや、剣だけじゃねえ!あいつの剣技、動きが人間技とは思えねえほど速いんだ!』


 ガタッ。

 気がつくとジャックは壁際にまで追い詰められていた。


「それでお終いか?残念だな」

 じりじりと近づくハワードから何とか逃れようとするジャックの視界に、部屋の隅にある帽子や上着をかける背の高いポールハンガーが飛び込んできた。

『……あれだ!』

 飛びついて手に取り、掛かっている帽子やコートを振り払うと、ハワードの胸元を狙って大きく踏み込んで突き出した。

「狙いはいいが、遅すぎる」

 ハワードは憐れむようにつぶやくと、瞬間的に後方に大きく跳躍し、長いハンガーのひと突きを避けた。だがーー


「そうかい、じゃあこれならどうだ!」

 ハワードの動きを予測していたジャックは、ハンガーを素早く絨毯の下に突っ込むと、着地のタイミングに合わせて大きく巻き取った。

「なに⁉︎」

 足元が沈むほど毛足が長い絨毯によって作られた"うね"に足を取られ、仰向けに転倒したハワードの手元から剣がこぼれ落ちた。

「くっ!」

 手を伸ばすハワードよりいち早く、ジャックはポールハンガーの尖った先端部分を剣のグリップに引っ掛かけて、見事手元に回収して見せた。


「さあて、形勢逆転という訳だな」

 仰向けのハワードののど元に剣を突き付け、荒い息のジャックが告げた。

「今度はこっちが聞かせてもらうぜ。なんで一度は助けた俺を殺そうとするんだ?」

 先ほどまでとは違い、銀仮面越しのハワードの目は元の色に戻っているが、何を考えているかは読み取れない。

 自分を見下したようなその態度に、苛立ちと共に胸の中に黒い影が広がっていく。


『ジャーック、いつもの事じゃねえか……俺たちみたいなもんをまともに扱ってくれる奴なんかいねえんだよお……』

『そうとも、ジャック。こいつも世間のやつと一緒だ……お前を馬鹿にして見下しているのさ……』

『かまうこたあねえよ、ぶち殺すんだジャック!!』

 膨れ上がった憎しみがすべてを飲みこみ、そして、遂にーー

 口元を歪め小さく笑った後、ジャックは低い声でつぶやいた。

「もう、いい。死ね」


※1…細身で先端の鋭く尖った刺突用の片手剣。切ることも可能だが、基本は、相手を突くこと。

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