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目覚めてからも覚めない夢 part3

 廊下の突き当りの一室の前で二人は立ち止まり小さく咳払いをした。そして改めて背筋をしゃんと伸ばすと丁寧にノックをした。

「お客様をお連れいたしました、若様」


 ゆっくりとドアが開いた。


 室内はジャックが想像していたよりずっと広く、高い天井にはクリスタル製の巨大なシャンデリアが輝き、壁には巨大な幾枚もの肖像画が飾られている。大きな書棚には、古めかしい革装丁の本がぎっしりと並べられている。

 歴史を感じさせる重厚な造りのデスクでは、金髪の青年が何かの書類にペンを走らせていた。彼の周囲には使用人たちが直立不動で、静かに控えている。


『ここは……あの兄ちゃんの書斎ってワケか。それにしてもこいつは豪華な部屋だな。この絨毯、足が沈み込むほどフカフカだぜ!』


「あのさあーー」


 一歩踏み出して話しかけようとしたジャックに対して、最も年配の使用人が唇に人差し指を当てて小さく首を振った。

『ちっ、なんだよ、随分値打ちをつけるんだな』

 小柄な体型であり、柔らかな仕草ながら有無を言わせない男の圧力に、ジャックは舌打ちをしながら我慢した。


 時間にすれば十分足らずだが、ジャックにとっては永遠とも思わせる沈黙の果てに青年はペンを置いた。


「これまでにしておこう。皆、下がってよし」


 その言葉に先ほどジャックを制止した使用人以外が退室したのを見て、青年が声をかけた。

「フォレスト。おまえも下がってよい」

 一拍の間の後、フォレストと呼ばれた年配の男は小さく会釈をすると、ジャックの顔を値踏みする様に見つめた後、静かに退室した。


「えーっと…… 俺を助けてくれたのはあんたって事でいいのかな?」

 ジャックの問いかけに答えず、青年は本革性の椅子から立ち上がると、移動式の脚立を使い本棚の一番上の棚からボロボロの古い一冊の本を抜き出して、デスクの上に置いた。


 立ち上がったその青年の姿にジャックは内心驚いていた。


『コイツ、背の高さが自慢の俺より少なくとも2インチ(約6センチ)は高いじゃねえか!畜生、やっぱりガキの頃からいいモン食ってたんだろうな。いや、そんな事はどうでもいいんだ』


「なあ、あんた人の話を聞いてるのかよ」

「ジャック・レスター。アイルランド、ダブリン出身」

「は?」

「現在はロンドンの下町を根城にした新興ギャング組織のリーダー。両手使いで銃の名手である事から仇名は〝トゥー・ハンド“。また、荒っぽい手口で他の組織をターゲットにしてテリトリーを広げてきたことから、別名〝ギャングキラー“とも呼ばれている」

「おい、ちょっと待てよーー」

「なるほど。その趣味の悪い服装も納得だな」

「な、何だとてめえ!」

「おまえに聞きたいことは、ニつ」

「は?」 

「一つ。どうしてあいつの正体に気付いたんだ?」

「一体何の話だよ?それより何で俺のことをーー」

「二つ。おまえの背後にいるのは誰だ?」

「待てってば!何の話か、わからねえぞ!」

「返答によってはーー」

 そう言うと、男は本を開いた。驚いたことに本の中身はくり抜かれており、その中にはあの銀仮面が収められていて、男は下を向いてそれを装着すると顔を上げた。


「この栄光あるウォルズリー家長子、ハワード・ウォルズリーがーーいや、闇を打ち払う聖剣の騎士『銀仮面の亡霊(シルバー・ゴースト)』が、この世界からおまえを消除する」


 ジャックを見つめるその目は、今にも激しい炎を噴き出さんばかりに赤く染められていた。

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