目覚めてからも覚めない夢 part2
「なあ、すまねえって言ってるだろう?脅かすつもりはなかったんだよ」
おそらく自分と同じ二十歳前後と思われる、ふくよかな体つきにまんまる顔と、細面に小枝のようにきゃしゃな、好対照な二人のメイドに連れられて通路を歩きながら盛んに頭を下げているのだが、今のところ謝罪を受け入れてもらえる気配はない。
『まいったな、どうも。しかし、すげえな……』
まる二日間眠りっぱなしで、主人の所へ案内するとだけ聞かされたジャックだったが、通路に面した窓から広がる風景に心を奪われていた。
巨大な噴水を中心にシンメトリーに広がる庭園。どこまでも果てしなく続くなだらかな丘陵地と林や森。そしてその間を縫うように流れる美しい小川ーー。
『この広大な土地すべてが領土って訳か。それだけじゃねえ、この通路のあちこちに無造作に置かれている花瓶や飾られている絵画。どれも千ポンド(現在の貨幣価値で数千万円)は下らねえ値打ちものばかりだぜ……。持ち主は一体何者なんだ?まあいいや、退散する時にいくつか失敬するとしようか……』
二人組の後ろを歩きながら、ジャックはポジティブで建設的な思考ーー間違った使い方ではあるがーーを巡らせていた。そのためにも、このメイドたちからもう少し、情報を引き出しておかないとーー。
「なあ、可愛い仔猫ちゃんたち。そろそろここがどこか教えてくれてもいいんじゃねえか?」
可愛い仔猫、という響きに丸顔の方がきゃあ、と小さな悲鳴を上げて振り返ったが、細い方は耳まで真っ赤にして下を向いてしまった。
「あなた、そんな汚い言葉遣いしたら叱られますよ!」
「へえ、叱られるって、誰に?」
「そりゃあ、ご当主様や奥様、執事のフォレストさんにメイド長さん、みーんなに!」
「そいつはおっかねえ、小便もらしそうだ」
「もう!また汚い言葉!」
『ご当主様に執事さん、か。なるほど、ここはどこかの貴族のお城ってことか』
「……ノーラ様にも、よ。フローレンス」
細い方が、消え入りそうな声で囁いた。
「そう、よく言ってくれたわ、メリッサ!あなたねえ、ノーラ様にぶっ飛ばされても知らないわよ!」
また新しい登場人物か、とジャックは思った。
「ノーラ様?そいつはアレかい、筋肉もりもりの大女か何かなのかい?」
「ノーラ様はねえ、それはもうーー」
「あんまりお喋りだとまた怒られるわよ、フローレンス」
廊下の突き当りの一室の前で二人は立ち止まり、ドアを丁寧にノックした。
「お客様をお連れいたしました、若様」
ゆっくりとドアが開いた。