チェイス オブ テムズ・タイドウェイ・トンネル part2
「おい、おいおいおい!!」
絶望が喉元を締め付けるように叫んだ。
「ウソだろ!行き止まりになってるじゃねえか!」
恐らく地図が古かったんだろう、俺がたどり着いたの下水道内に最近新設された貯水槽だった。各地区から流れ込む下水を一時的に溜め込む、まさに地獄のような場所だ。
中央に巨大な円形の水槽があり、その周囲を取り囲む水路からは、絶え間なく汚水が注ぎ込まれる。浮かぶのはゴミ、汚物、そして動物の死骸。腐臭が鼻を突き、目を覆いたくなる光景だ。
高い壁が逃げ道を塞ぎ、水路には頑丈な鉄柵がはめ込まれている。叩こうが蹴ろうが、びくともしない。必死にこじ開けようとする俺の背後から、豚の咆哮が地鳴りのように響く。あの角を曲がれば、奴が目の前に現れるのは時間の問題だ。
「あー畜生!どうにかできねえのかよ!」
絶望が胸を締め付ける中、ふと目に留まったのは貯水槽に浮かぶ犬だか豚だかよくわからない動物の死骸だった。
水路に鉄柵がはまっているのに、何でこれはここまで流れ着いているんだ?ひょっとすると、漂流物が詰まらないように、鉄柵と水路の底はすき間があるんじゃないのか?もしそうなら、下からくぐれるんじゃーー』
だが、それを確かめるには、この地獄のような汚水に飛び込むしかない。もし鉄柵が床まで打ち込まれていたら、その時点でジ・エンド。一か八かの大博打だ。
躊躇していたその時、足元を一匹のドブネズミがすり抜けていった。その瞬間、遠い日の苦い記憶が脳裏をよぎる。
『よう、汚ねえガキ共。おまえらはゴキブリやドブネズミみたいなもんなんだよ。くたばってもだーれも悲しまねえ、道端の小石ほどの価値もない存在だ。だからな、ジタバタしねえで大人しく観念するんだよーー』
ああ、畜生!クソ野郎!!あの男のニヤついた顔、あの笑い声。忘れたことなど一度もねえ!!怒りと憎悪が身体中を駆け巡り、血が沸騰する。手が震え、視界が真っ暗になる。
「ふうーっ」
俺はあらためて深呼吸をした。腐った空気が肺を満たし、吐き気を催す。それでも、少しだけ気持ちが落ち着いた。さっきまでの絶望と弱気が消え、代わりに口元に皮肉な笑みが浮かぶ。
「……まったく、馬鹿野郎が。忘れてんじゃねえよ、ジャック。汚ねえ真似をしてまで生き抜いてきたのは何のためだ?成り上がって、この世の全てを手に入れて復讐するんじゃねえのか。どのみちもう、俺には獣の道しか残されてねえだろうが!オッケー、わかった!この勝負、ありったけのチップを張ってやるぜ!」
背後で化け物の叫び声が響く中、俺は汚水に飛び込んだ。