争いはアフタヌーンティーの後で part3
さかのぼる事、約2時間前ーー。
ジャックは下町の路地裏にひっそりとある、小さな古物商を訪れていた。
「よう、ジェレミーの親父。調子はどうだい?」
ホコリを被ったカウンターの向こうから、傷だらけの顔の小柄な老人がゆっくりと現れた。
「……久しぶりだな、小僧。手下がみんな殺られちまって、おまえも行方不明だし。こりゃあもう終わりだと思ったが、まさか生きているとはな。驚いたぜ」
「へっ、そう簡単にくたばりゃあしねえよ。まだまだやらなきゃいけねえ事もあるしな」
「一丁前の口を聞くじゃねえか。今日はどうした、銃のメンテナンスか?」
「今の銃は問題ねえ。あんたが手掛けてくれただけあって最高だ。だがな、俺の欲しいのはもっと破壊力のある銃なんだよ」
「破壊力?」
「ああ。熊ぐらいあるデカブツの頭を一撃で吹っ飛ばせる様なやつだ」
ジェレミーと呼ばれた老人はジャックの顔をじっと見ると、カウンターの裏側にあるドアを開けた。
「ついてきな」
ドアの向こうには地下室へと続く細長い階段があり、降りながらジャックは呟いた。
「ここには何回も来たが、地下は初めてだな」
「ここは常連の中でも、特殊な連中ーー手に入れた銃を一分一秒でも早く撃ちたくてたまらねえ、イカれたガンマニアの奴らのために用意したのさ」
ジェレミーが分厚いドアを開けると、その向こうにあったのは十五ヤード(約13メートル)ほどの奥行きを持つ射撃場だった。
周囲は発射音が響かないように分厚い土壁で覆われ、的の向こう側には跳弾を防ぐための土嚢が積まれていた。
「こいつだ」
ジェレミーは室内のテーブルに南京錠付きの箱を置いた。蓋を開けると、中には鈍い光を放つ銃弾が生物学の標本のようにきれいに納められている。その内の一つをつまみ上げると、ジャックに手渡した。
それは、普通の銃弾と較べると明らかに異様な形をしていた。
薬莢は長く、窪みのついた弾頭には十字に切れ目が入っていた。
「何とも奇妙な形だな。本当に使えるのか?」
「ちょっと待っとけ」
そう言うとジェレミーは人型の標的を退けて、土嚢の上に直接ひと抱えもある様な巨大なカボチャを置いた。
「こりゃまた立派なカボチャだな。『ジャック・オー・ランタン』に使えば近所のガキどもも大喜びしそうだ」
ジャックの軽口にジェレミーは顔をしかめた。
「けっ、今の若い連中はハロウィンと言えばカボチャだと思ってやがる。米国人でもあるまいし!本来、ジャック・オー・ランタンと言えばカブなんだよ。おめえもアイルランド生まれなら、その辺りは忘れるんじゃねえよ」
「そんな昔のこと、知らねえな。とりあえず試してみるか。残りの弾くれよ」
ジャックは中折れ式の銃の弾倉に弾を込めながら、ジェレミーに手を差し出した。
「一発で充分だ。撃ってみな。女を抱くときみたいに、両手でしっかり銃床を握っておいた方がいいぞ」
「ハッ!自信たっぷりだな。この『恐れ知らず』のジャック様が、そんなダサい撃ち方ができるかよ」
ジャックは片手で銃を構えると、巨大なカボチャに照準を定め、ゆっくりと引き金を引いた。
ドオン!!という落雷のような腹に響く爆発音が轟き、それまで経験したことのない強い衝撃に腕は天井に向けて跳ね上がり、ジャックはそのまま後ろにひっくり返った。
それと同時に、直撃されたカボチャは木っ端微塵に砕けちり、土嚢が破れ大量の土砂があふれ出した。
ひっくり返ったまま呆然とするジャックに向かい、ジェレミーはニヤリと笑った。
「どうだい、熊とは言わず、象でも一発でぶっ倒せるぜ」
「なんだこれ……いったいなんて破壊力だよ!」
「こいつは通称、ダムダム弾。元々は軍が機関銃用に開発した弾だ」
「軍隊が?」
「ああ。切れ目を入れた弾頭は敵にブチ当たるとその衝撃で開展て、どデカい風穴を開けるって寸法さ。我が大英帝国に仇なす蛮人どもを、女王陛下の名の下に一掃するのにうってつけって訳だ」
ジェレミーはそう言うと、銃弾を片手に滔々と語り出した。
「だがこいつはそれだけじゃねえ。普通の弾に較べ、薬莢を極限まで薄く、弾倉に収まるギリギリまで長くし火薬を割増しにしてある。ウチの常連で、ボーア戦争*に従軍する奴に頼まれて、そいつの軍用拳銃ーーおまえの持っているのと同じーーウェブリー・リボルバー用に特別にこしらえた代物だ」
「たまげたな……それで、そいつはどうなったんだ?」
「どうもこうもねえ。赴任した初日に、ご自慢の銃を使う間も無く味方の流れ弾に当たってくたばりやがった。おかげで手間ひまかけてこさえた弾だけが、売れ残ったって訳だ」
そこまで語ると、ジェレミーは肩をすくめ、半ば呆れた口調でつぶやいた。
「あまりにも殺傷能力が高いため、もうすぐ製造禁止になるって噂が流れたから、慌てて大量に作ったってのによ。まったく戦争ってもんは、俺たちみたいな善良な市民にとっちゃあ屁の役にも立ちゃしないぜ」
「買った!」
ジャックはそう叫んで立ち上がると、胸元から小切手帳を取り出した。
「小切手はダメだ、ジャック。おまえは金貸しのユダ公や優雅な貴族様じゃねえんだ、信用ならねえよ。欲しけりゃあ現金を用意しな」
「馬鹿野郎、よく見な!」
ジャックは小切手をジェレミーの鼻先に突きつけた。
「こいつは国王様も驚きの天下の大貴族、ウォルズリー家の小切手だ!これなら文句ねえだろう!
ここにあるだけ全部、言い値で買い取るぜ!」
*ボーア戦争…… 19世紀末から20世紀初頭にかけて南アフリカの支配をめぐってイギリス人とボーア人の間で行われた帝国主義戦争。




