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ヘルファイヤ・クラブ~名門貴族の若様と若きギャングスターの華麗な冒険~  作者: ヨシオカセイジュ


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争いはアフタヌーンティーの後で part2

 ゴシック調の装飾が施された入口から姿を現したのは、明らかに上流階級の出身を思わせる気品とオーラをその身にまとった、ひとりの貴婦人だった。


 美しくまとめられたプラチナカラーの髪の上に乗った帽子には優美な装飾が施され、精緻なフリルやレースがふんだんにあしらわれた白いブラウスとゆったりとしたスカートは、最上級の生地ならではの柔らかなドレープを描き出している。

 それとは対照的に、紫色の小ぶりな色眼鏡が近寄り難い神秘的なムードを醸し出していた。

 

「何か、問題でもあるのかしら?」

「い、いえ、そういう訳ではありませんが……。あのう、こちらのお二人の……お連れ様でいらっしゃいますか?」


 その気高い美しさに気圧された支配人の問いかけを無視し、二人に声をかけた。


「何をしているのですか、二人とも。行きますよ」

「「は、はい!?」」


『ねえメリッサ、この方、いったいどこの方なのかしら?』

『私にもわからないわ、フローレンス。ウォルズリー家の親族の方々の中でも見た事がないし……』


「あ、あの!申し訳ありませんが、お代をまだいただいておりませんーー!」


 支配人の呼びかけに立ち止まった貴婦人が、振り向きもしないまま何やら詠うように二言三言口ずさむと、支配人の動きがぴたりと止まった。


 ……暫くの後、我に返ったように目をパチパチとさせると、支配人は何事もなかったかの様に店の奥へと戻っていった。


 湧き上がる疑問を抱えたまま、貴婦人と共にティールームを後にした二人が階下のグランドフロア(地上階)へと続く階段へと歩を進めていると、小脇に荷物を抱えたジャックが下から駆け上がってきた。


「いやあ、悪い悪い!遅くなったな、お二人さん!」


「もう、ジャックさん!どこ行ってたんですか!大変だったんですよ!」


 頬をいっそう膨らませたフローレンスが抗議する。


「いやまあ、ちょいと野暮用でね。ところでどうだった、この店のアフタヌーンティー。結構いけるだろ?以前、(オンナ)にせがまれて来たことがあるんだよ。まあ、俺は茶の味なんかわかりゃあしなかったんだがね」


 二人の機嫌を伺うように軽快に話すジャックだったが、二人と共にいる謎の美女の存在に気がついた。


「おっと……こちらのご婦人(レディ)は?」

「こちらの方は、私たちが困っているところを助けてくれたんです」

「そうですよ、ジャックさんからもお礼を言ってくださいな」


「えーっと、どうも俺の連れがお世話になったようで、申し訳ない。……それにしてもお姉さん別嬪(べっぴん)だねえ。どうだい、今から二人で一杯出かけない?女性でも入れる秘密のパブがあるんだけどさーー」


 ジャックの言葉にメリッサとフローレンスは仰天した。


「ジャックさん、何言ってるんですか!結婚している訳でもない男女がお酒を飲みに行くなんて!」

「そうですよ!そんなふしだらなこと、許されませんよ!」


「ふふん、君たちわかってないなあ。これだから世間知らずのお子様は困るんだ。いいかい?古今東西、大人の女性ってのはスリルと秘密とちょっぴりの背徳行為ってのが、大好物なんだよ」


「まあ、何て破廉恥な!お城に戻ったら、ノーラ様に言い付けますからね!」

「へん、好きにしなよ。化け猫が怖くて恋ができますかってーの!」


 二人の言葉を鼻で笑うと、自信満々にご高説を述べたジャックだったが、次の瞬間、貴婦人の平手打ちが飛んできた。

 後方に飛んで間一髪でかわしたジャックだったが、気がつけばすぐ後ろに階段が迫っていた。


「おいおい何するんだよ、もう少しで落っこちるところじゃねえか!しかし何か?俺の知らない間に、世間じゃいきなりビンタするのが流行ってんのかーーって、え?ええ?」


 振り向いたジャックの前で、貴婦人はゆっくりと長いスカートを捲り上げた。


 ストッキングに包まれた美しい脚線が露わになったかと思うと、まるでバレエダンサーの様に片脚を高く上げ、目を白黒させているジャックの胸につま先を押し当てた。


「え、え、え、ちょっと待って、ダメだって!あ、ああ、ああああああああ!」


 そのまま軽く押されると、悲鳴を上げながらジャックは階段を転がり落ちていき、放り出され宙に浮いた荷物は女性の腕の中にすっぽりと収まった。


「ジャックさんーー!」

 慌てて駆け寄った二人の目に映ったのは、階段の下で伸びているジャックと、悠然と微笑む貴婦人の姿だった。

「調子に乗って、このあたしに向かっていっぱしのドンファンを気取るのは百年早いのよ、ガキが」


「もしや……」

「まさか……」


 顔を見合わせ呆然とする二人に向かい、貴婦人が色眼鏡を少しずらしながら話しかけた。

「城へ戻るわよ、二人とも」


 色眼鏡の下から現れたのは、深い海のような青い右目と真夏のひまわりのような黄金色の左目の、美しいオッドアイであった。


「「ノーラ様!?」」


 薄れゆく意識の中、メリッサとフローレンスの息のあった叫び声を聞きながらジャックはボヤき続けていた。


『何だよ……人間にも化けれるのかよ……フザけんなよ……もう何でもありかよ……』


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