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ヘルファイヤ・クラブ~名門貴族の若様と若きギャングスターの華麗な冒険~  作者: ヨシオカセイジュ


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悪魔召喚 part1

「随分と遅かったじゃないの。何油売ってんのよ、従者の分際で」

 チャーチルと別れ、書斎に戻ったジャックにノーラがキツいひと言を放った。

「おい、まだ決めた訳じゃねえからーーって、なんだこれ!一体どうなってんだ⁉︎」


 広い書斎内にはいくつもの机が運び込まれており、ロンドンをはじめとするイギリス国内の主要都市の地図が広げられている。

 ハワードはテーブルに両手をつくとじっと地図を見つめ、その側には執事のフォレストが影のように寄り添っている。

 

 ーーそれだけならどうと言うことはないのだが、ジャックが驚いたのはそこではなかった。


 「うわわわっ!」


 バサバサっと羽音を立てながら頭上を小型の猛禽類が飛びまわり、数十匹ものネズミが足元を駆け回る。

 二羽の大鴉が新しい地図をふわりとテーブルに落とす。


「ええ?ん?ぎゃあああ!」


 何かの気配を感じて足元を見ると、毒々しい色のヘビが足の上にとぐろを巻いて鎮座し、天井の梁には逆さにオオコウモリがぶら下がるーーという具合に、部屋中に大小様々な動物が集まっていたことだった。


「静かにするんだ、ジャック」

 右肩に鷹、左肩に大鴉をとまらせたハワードが地図に視線を走らせたままピシャリと言い放った。

「あ、あんたなんで平気なんだよ!」

「この子達は、ノーラの眷属だ」

「……けんぞく?」


「あたしの使い魔よ。全員、集合!」

 ソファーに悠然と座り、お茶を飲みながらくつろぐノーラが一声発すると、動物たちが大急ぎで整列した。

「はあー、大したもんだな」

 ジャックが感心していると、最後尾のネズミたちがこちらを振り返りいっせいに鳴き声を上げ、それを聞いたノーラが笑い出した。

「ジャック、この子たち、『おまえも早く並べ!』って言ってるのよ。あんた、序列で言うとネズミの次ね」

「ふざけんなよ!」


「ノーラ、動物たちの報告は?」

 大鴉が持ってきた地図をじっと眺めながら、ハワードがたずねる。

「今のところ、連中に動きは無いわ。チャーチルの持ってきた残りのリストのメンバーも監視対象に加えないといけないわね」

「ふうむ……少し揺さぶりをかける必要があるかな」


「ちょっと待ってくれ!それだ、あんたたちの言ってる『連中』って何なんだよ!」

 ハワードはテーブルを離れ、自分のデスクに座るとフォレストが用意したティーカップを持ち上げ茶葉の香りを嗅ぐと、ゆっくりと口をつけた。

「うむ」

 満足げなハワードにフォレストが頭を下げて静かに退室したのを待って、ハワードが口を開いた。


地獄の炎倶楽部(ヘルファイヤ・クラブ)』だ」

「はあ?」

 ノーラがソファーから地図が置かれたテーブルへと、ふわりと飛び乗った。

「ヘルファイヤ・クラブ。元々は十八世紀に存在した秘密結社。悪魔を崇拝し、夜ごと怪しげな儀式を行っていた反社会的な組織よ」

「悪魔崇拝の組織って……そんな物騒なもんがあったのかよ!」


 ノーラがくすくすと笑い出した。

「……あんた、いっぱしのギャングを気取っていても、まだまだお子ちゃまねえ。そんな訳ないでしょ。おどろおどろしい謳い文句を付けてはいるけど、実際は暇を持て余した上流階級の人間が集まった悪趣味な社交クラブよ」

「悪趣味って?」


 ノーラは地図上のマークしてある一点を指した。

「ある大富豪の貴族が、廃墟となっていた古い修道院を買い取って改装し、秘密の社交場としてオープンしたの。

 そこには高い口止め料を払って集められたシスターの衣装を着た娼婦がいて、貴族や政治家、芸術家といった普段はとりすました社会的地位の高い連中が人目も気にせず不道徳で退廃的、反社会的な乱痴気騒ぎが存分に楽しめたのよ。クラブは大いに賑わったけれど、主催していた貴族が政府の要職に就くのをきっかけに解散。馬鹿騒ぎも終了したってわけ。


……と、ここまでは、表向きの話」


「また何か裏があるのかよ」


 うんざりするジャックに、ノーラは衝撃的な事実を告げた。


「酒や女で馬鹿騒ぎしているだけなら良かったのに、連中は遊び半分の座興で禁忌の魔術ーー黒魔術に手を出した。そして、本当に悪魔を召喚してしまったのよ」

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