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カイリーと緑のトンネル  作者: アズ
第1章 百年後の新時代(ディストピア)
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龍の巣

 暫くして、港では警備ロボットとロボット兵、更にテロスまで集まっていた。そして、そこにカイリー達にエイドス行きの荷物の場所を教えた男が連れて来られた。騒ぎを駆けつけた人や他の種族達による人集りができる中、警備ロボットは規制線を引く。そして、その中に入るよう言われた人間の男は素直に従った。カイリーの読み通り、彼はカイリー達を売ったのだ。それで通報を受け騒ぎになっていた。現在はロボット兵が船内と荷物をくまなく調べている。だが、どんなに待っても男が証言した人間の女達は一人として見つかることはなかった。徐々に男の顔色が悪くなる。そこに一体のロボット兵が軍服姿のテロスに近づいた。

〘船内の調査が完了しました〙

「それで?」

〘人間はおりませんでした〙

「そんな!」と男は叫んだ。テロスは無視して話しを続ける。

「他の監視映像はどうだ?」

〘オークション会場の監視映像には確かに男に近づいた女達四名を確認しております。また、逃亡中の奴隷と顔認証で一致しました。その後、港へ向かっているのを確認しておりますが、それ以降はカメラに映っていませんでした。また、エイドス行き船内全てをチェックしましたが、カメラには映っておりません。映像に映らず貨物フロアから消えることは現実的に不可能です〙

「結論は?」

〘エイドス行きの船に四名は乗船しておりません〙

「いや、ちょっと待って下さい! 僕は確かに聞きました。連中がエイドス行きに向かうって確かに言っていました」

〘オークション会場の映像によると、確かに彼女達はそのように発言しております〙

「だが、乗っていなかった。どう思う?」とテロスはロボットに訊ねた。

〘港町から出ていないこと、港町全域を調査しても見つからないこと、それらから考えられる結論は他の船に乗った可能性が一番高いかと思われます〙

「そうだろうな。つまり、四人はこの男が裏切ることを考慮してひと芝居打ったということか。中々人間のくせに頭が回るじゃないか」

 男はなにかを言おうとした。それが謝罪の言葉か弁明かは知らない。その前にテロスの持つ銃が火を吹いてしまったから。銃声が響き、男は眉間から血を流し、目を見開いたままうつ伏せに倒れた。

「処分しろ」

〘畏まりました〙

「それと、四人と言ったが残りの二人は見ていないのだな?」

〘はい〙

「別行動をとったのか……まぁ、いい。ついさっき出港したのはヒュレーの船だったな。その船を領海から出る前に止めろ! それから調査に協力してくれたエイドスの船員にお礼とお詫びの謝礼わ渡すように」




 だが、ヒュレーの船を止めるには遅すぎた。ヒュレーの船は止まることなく領海を出て、ヒュレーの領海へと向かった。その船は燃料で動く巨大な大型船。カイリー達は貨物フロアの荷物に身を隠していた。




◇◆◇◆◇




 四人の逃亡奴隷が国外に脱出は直ぐに『黒城』へと届いた。そして、対策本部長代理のテロスは直ぐ様ヒュレーに暗殺部隊を送った。

 そして、通信機を使って任務の部隊長に最後の通信をする。

「よいか、ヒュレーで大きな事件なんて起こすなよ。どうでもいい命が四人分消えるだけだ。それぐらいは出来るな?」

《はい》

「なんとしても我々の技術が漏れ出るわけにはいかない。ヒュレーは妙な錬金術士がいるというから気づかれるなよ」

《はい》

 対策本部長代理がいう錬金術士というのは素材の『特性』と『属性』を理解し新たな物に変換してしまう魔法みたいなことが出来るヒュレーのことだ。元々はエイドスが独自に生み出した技術であり、その専門職の名が錬金術士だった。それが今ではヒュレーが扱い、一方でエイドスでは錬金術が衰退していった。今は機工士という専門職がエイドスで生まれたようだ。ともあれその錬金術士なら、テロスが人間の奴隷にどんな生物兵器としての研究をしていたのか、その原理を知られかねないからだ。

 それは部隊長も分かっていた。だからこそ、この任務失敗するわけにはいかない。




◇◆◇◆◇




 一方で別の場所。名は『動く要塞島』

 機械と煙突が覆い尽くす人工山を中心とした島で、エイドスとも呼ばれた。蒸気によるエネルギーと、沢山のパイプが特徴的なその島の本当の正体は『玄武』の背中だった。そして、時々機械の音に混じって獣の鳴き声が響く。それはエイドスが飼い慣らしている『白虎』だった。

 その中枢の議会でエイドスの各大臣は今日テロスがエイドスの貿易船の出港を止めたと聞き、緊急会議をまさに開いているところだった。

「船を止めた理由がテロス側の奴隷が逃亡し我が国の船に紛れ込んだかもしれないということだが、たかが奴隷の為に何故そこまでするのか。人間ならいくらでもいるだろう。妙な話しじゃないか」

「つまり、テロスにとってはどうでもよくない事情があると見るべきでは」

「可能性は高いな。テロスに送り込んだスパイからの報告を待とう」

「そのスパイはちゃんと役立つのか? 人間だろ所詮」

「人間だから簡単に潜入できる」

「ナンバーは?」

「ナインだ。人間の名ではアンジェリー」




◇◆◇◆◇




 場所変わってヒュレーの国、『龍の巣』と呼ばれるその国は絶壁に囲まれ、円形の地下にヒュレーの住民が住んでいた。いわゆる地下都市だ。その地上には『青龍』が寝息をたてている。地下都市はどこまでも深く地下に続き、そこには大量の資源が眠っている。

 かつて、四種族が一つだった時、この地でヒュレーが資源をとり、エイドスがかたちにし、テロスがそれを使って人間を倒し、エルフは人間以外の動物を逃し避難させた。それがバラバラになり、それぞれ担っていた分野以外の技術を持ち、それぞれが自立を目指した。ただ、エルフだけは相変わらず変わろうとしなかった。そして、その当時のエルフの長はそれぞれの種族が独立したのを含めてこの結果に対し後悔した。

 まるで我々は人間だと。



 ヒュレーは必要以上に資源を掘り自然を破壊


 エイドスは大量生産でゴミを増やし


 エルフは『愛』を忘れ無関心になり


 テロスは目的を見失っている。



 神が我々を誕生させたのは人間と協力させることではなかったのか。

 だが、その長は後に裏切り者として仲間だったエルフに捕らえられ地下牢に幽閉されている。

 ヒュレーの『龍の巣』は今の始まりでありの場所であり、歴史上重要な場所となる。

 そこにカイリー達を乗せた船が近づいた。




 『龍の巣』は断崖絶壁に囲まれている為、船は壁に鉄の分厚い扉のある東西南北にそれぞれある入口から入る必要がある。分厚い扉は監視モニターの映像で確認後内側の動力室にて操作され、すると扉が開く仕組みになっていた。その分厚い扉が開くと、船はゆっくりとその中へ進んだ。大型船も入れる程の入口から中心部まで進むと、そこが港になっていた。船はそこにとまると、人間の奴隷達がやって来て、貨物フロアから荷物を運び始めた。カイリー達はその積荷の中に入ったまま運び出され、船を出た。

 荷物はリフトによって移動し、巨大な貨物エレベーターまで運ばれる。勿論、カイリー達は暗闇の中揺れるだけで外の様子は全く分からない。

 大型の貨物エレベーターに乗せれるだけ積荷を乗せると、エレベーターは扉が閉まり降下を始めた。地下へは空気を送り込む通気口がある。

 相当降下すると、エレベーターは止まり扉が開いた。下で待機していた奴隷がエレベーターの開閉の下にある延長ボタンを押してから積荷を一つ一つおろしては運び出した。

 それからどれくらい経っただろうか、長い長い通路を通った後に荷物を置かれて、静かになった。

 レインはゆっくりと木箱の蓋を開けて外の様子を見た。

 すると、箱の直ぐ外で顔を覗かせていた白髪にシワシワの顔をしたおうなとレインの目が合った。

「ぎゃあああああああ!!」

「ぎゃあああああああ!!」

 二人は同時に叫んだ。

 嫗は驚いて尻もちをついた。


 ギクッ!


「こ、腰がぁ!」

「今のうちよ」私はそう言って箱から出ると、メアリーもボニーも続いた。

「ま、待ちな!」腰を痛めながらデカい年寄りがそう言った。

 よく見れば体が大きいだけでそれ以外は年老いた婆さんだ。

 レインも箱から出てカイリー達を追いかける。だが、そこで全員が立ち止まった。そして、周囲を見渡す。中央に火のついた大きな鍋、周囲は棚に囲まれ、本や怪しい瓶、変な生き物の死骸、綺麗な石が並んだ物があるが、肝心の扉がなかった。

「この部屋出口がない!?」私は驚いた。

「そうさ。この部屋に扉はないよ」

「え、でもどうやって出入り」

「そりゃ教えるわけないね。それより、どうやってこの木箱に入り込んだ? 妙なことをすれば監視が気づく筈……となるとお前さん達テロスからやって来たのか」

「私達を閉じ込めてどうするつもりだ」とレインは言った。

「どうもしないよ」

「は?」

「むしろ、ここにいた方がいいよ。外は監視カメラと警備兵で見張られてるからね」

「てことは、ここはヒュレーの国ね」と私は言った。

「そうさ、ここは『龍の巣』の地下深くにある地下都市さ」

「『龍の巣』?」

「『青龍』の巣さ。地上には青龍がいる」

「せ、青龍!? あの伝説の?」

「そうさ。そして守り神でもある」

 すると、レインはデカい婆さんに訊ねる。

「私達を警備に差し出さないで私達を守ってくれるのは何で?」

「私の仕事を手伝って欲しいからだよ」

 そう言いながら婆さんは立ち上がった。

「よっこらせ」

 そして、立ち上がった婆さんのデカさはなんと3メートルを越えていた。

「で、デカい……」

「アハハ、人間が小さいだけさ。私なんてヒュレーの中では小さい方さ。将軍なんか5メートルは越えるよ」

「ご、5メートル……」とボニーは驚いた。

「それで仕事って何?」私は訊いた。そこへレインが「ちょっと信用するつもり?」と言った。

「どっちにしろヒュレーに来たら仕事を探す予定だったでしょ」

「そりゃそうだけど……」

 すると、ヒュレーの婆さんは言う。

「なに、手伝うのは調合に必要な材料を指定したように刻んだり、すり鉢ですり潰したりする程度だよ」

「何するの?」

「私はヒュレーの中でも古い『錬金術士』なんだよ」

「錬金術士?」

 錬金術士と突然言われ、もう一度ヒュレーの婆さんを見た。見た目は紫色のローブを着ていて……「魔女みたい」

「魔女じゃない! 錬金術士だ。あんな品性の無い魔女と一緒にしないでくれ」

「魔女って品性無いの?」

「そりゃ男を誑かし、食べるんだから」

「食べるの?」

「それか魔法の材料にされるか」

「錬金術士は違うの?」

「お前は錬金術士をなんだと思ってるんだ。錬金術士というのはな、素材の『特性』を理解し『属性』を考える。例えば鉄があるとしたらその『特性』は硬いだ。分かるな? もし、その鉄から『特性』を抜いたらどうなる?」

「え?」

「鉄は柔らかくなる。錬金術は『特性』を変えたり、逆に他の素材に付与したり出来る。さっきの鉄の例えなら、鉄という硬い『特性』と柔らかいという『特性』の人形を入れ替える。すると、人形は鉄のように硬くなり、鉄は柔らかくなる」

「な……」

「硬いオリハルコンを加工したい時には『特性』をいじってやることで、オリハルコンを使った武器を生み出せるってわけさ。で、本来のオリハルコンの強度に戻す。逆に薄い紙一枚をオリハルコンの強度にしたきゃ出来る。ただし、どちらにせよオリハルコンという素材は必要になるけどね」

「なら『属性』は何?」とレインは訊いた。

「『属性』は色々ある。分かりやすいのが火や水、分かりにくいのは色系の黒や白かね。火を付与すれば火を宿した武器になる」

「でもさ、結局は素材次第ってことでしょ?」と私は言った。

 それを聞いたヒュレーは「ほぉ」と片眉を上げ、その見開いた目でカイリーを見た。

「ん? お前の体……」

「私の体?」

「いや、なんでもない。それより面白いことを言うじゃないか。確かにお前の言う通り、錬金術は素材に依存する。だが、この土地にはそもそも素材は幾らでも集まる。そんな心配はここでは無用だよ」

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