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カイリーと緑のトンネル  作者: アズ
第1章 百年後の新時代(ディストピア)
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港町

 港町が見えてくると私達は早速連棟住宅が見える場所へ急いで向かった。何故そこに向かったのかはそこに人間の労働者達が住んでいると分かっていたからだ。というのもテロスがこんな狭い部屋に住む筈がなかったからだ。そして案の定、家の外には無防備にも洗濯された服が干されてあった。私達はそれを幾つか奪うと、木陰で服を着替えた。それから奴隷で着ていたつなぎ服は土を掘りその辺に埋めた。私達の今の格好はファストファッションの低品質で捨てられる寸前のような服だ。だが、それを着るのが今の人間の姿。埋め立て処分か誰かが着るしかない。

 ともあれこれでなんとか港町の中を歩ける。

 港町には木骨煉瓦造の造船所があったり起重機があったり、魚市場があったり、とにかく色々あった。その中でも一番注目すべきは貿易で遠い地から運ばれてきた珍しい品が売りに出されるオークション会場だろう。そこでは通貨『ノナ』を使ってやり取りされる。因みに奴隷もここで売りに出されたりもされ、そこで万が一この国の奴隷がエイドスや他の国の貿易商に買われたりでもしたら、二の腕にその国のシンボルが新たに焼印されることとなる。そんな光景は見たくもないけど、そこには色んな職業、色んな種族が集まるのは確かだった。

 例えばエイドス。私は初めてそれを見て知ったが、エイドスは髭に太眉に丸い頭に赤い顔はまるでダルマのようで、体型は太っている。エイドスは皆そうだった。だから多分エイドスという種族の特徴なのだろう。多分だけど。そして全員太った腹を出している。その腹のヘソに近い部分にボタンのPEG(胃瘻)があった。全員だ。まさか、そこから栄誉を流して生きているのか!? 更にエイドスの一番の特徴は頭と首にが二つあることだった。頭二つで2人分の頭脳……まさかね。

 エイドス……噂では生物上最も獰猛な生き物『白虎』を従えているらしい。そして、資源の宝庫と呼ばれる土地を持っていることで、それを上手く活用できる設計を得意とし、それによって大量生産を続けそれを産業にしているのだとか。

 かつては、エイドス、ヒュレー、テロス、エルフの種族が揃った時、既にあった人間社会を軽く越えて四種族が人間の上に立った。エイドスはその中でもあらゆるものを発明をし、それはテロスの国のその後の技術にも影響した。四種族が目的を果たすと、その後はテロスの独断が続き、残りの三種族はバラバラとなった。ただ、エイドスとヒュレーだけは最後まで関係が続いていたようだけど…… 。

 今ではエイドスは大量生産で沢山の通貨を手にしている。一方で有り余る生産量はファストファッションのようにゴミ寸前となり、それを私達人間が皮肉にも着ている。でなければそこらじゅうがエイドスのせいで物が溢れ埋め立て地だらけになっていただろう。テロスがエイドスと手を組めばそんなこともないだろうけど。




 オークション会場にはもう一つの種族が混ざっていた。それがヒュレーだ。ヒュレーは全身の皮膚にダイヤに埋め込みキラキラさせたヤバい見た目の種族。まるでダイヤ人間だ。そして特徴的なのはその大きさだ。頭が二つとか頭が大きいとかでなく、体全体が大きい。それに比例して脳も大きい。その体はキラキラしてるけど。

 ヒュレーは今はダイヤの採掘に熱心になっていて、宝石ばかり集めている。

 こうして見るとなんだか皮肉に思える。それに負けた人類はいったい…… 。

 でも、ふと思うことがある。それは人間がそんなに劣っているのかということだ。テロスは肉体労働を嫌うから、建築はロボット以前は人間が行っていた。だからそれを造れてしまうということは、建築に関してはそれなりに技術があるってことだ。だから、人間は思ったより負けていないんじゃないのか? そう思ったりする。

 他にオークションはテロスや警備ロボットがいたりした。私達はオークションの様子を見ながら、会場の職員として雇われている人間に話しをかけた。

 その内容をまとめると、



・最近港の警備が厳しくなった

・テロス側からの輸出が最近遅れている

・逆にアダマント石とオリハルコンの輸入が二倍以上増加している

・人間に対する取り締まりが強化された気がする

・今日のオークションは異常



「異常? なにが異常なの?」とレインは18くらいの男に訊いた。

「いつもより盛り上がっている気がする。値もいつもより高値がよくつくよ」

「今日が特別品が良かったからとか?」

「そうかな? 正直、俺には価値が分からないよ」

「因みに、今日の出品リストとかあったりする?」

「あるよ」

 男はそう言ってリストを渡した。レインがそれを受け取ると私も横からリストを覗いて見た。

 リストには芸術品やアクセサリーが多く、後はよく分からない金羊毛や人間に奴隷も出品リストに入っていた。

「芸術品系がいつもより高値がついてるってこと?」

 男は頷いた。

「ありがとう」

 レインはそう言って男にリストを返した。

 話しを聞く限りでは心当たりがあることは幾つかあった。例えば人間に対する取り締まり強化は私達が逃亡したことが影響しているかもしれないし、施設襲撃事件で警備が厳しくなっているのかもしれない。だが、それでもきな臭い感じがするのは気のせいだろうか。

「取り締まりが強化しているなら気をつけた方がよさそうね……」レインはそう言った。確かに、あまりこの町に長居しない方がいいかもしれない。

「いっそ、この国を出てみるとかは」私はそう提案した。

「私達はどこに行っても逃亡奴隷でしょ? 国を渡ればその心配はなくなる」

「確かにね」

 レインは頷いたあと、先程の男に訊ねた。

「ねぇ、これからこの国を出港する外国の船があったりする?」

「あるけど」

「それじゃその船教えてくれる?」

「海外に行くのか? 人間はまず船を乗せてもらえないよ。もし、船に乗って海を渡りたいなら」

「忍び込むしかないってことね。了解」

「もし、見つかったらただじゃ済まされないよ」

「分かってる」

「それで、どの国に行きたいの? ヒュレーの船もエイドスの船もどちらも船が出るよ」

「ちょっと待って。皆に訊くから」

 そう言って男を待たせると、レインは皆に訊ねた。

「ということで、皆はどっちがいいと思う? 多数決ね」

 ボニーは「エイドス」と答え、メアリーもそれに頷いて、私は「どちらでも」と答え、レインは「エイドス」と答えた。

「それじゃエイドスに決まりね」

「分かった」

 男はエイドス行きの船を私達に教えてくれた。




 オークション会場を出た私達は一旦背伸びをした。そして、それから男が教えてくれた船の積荷のある場所へと向かった。積荷に紛れれば船には乗れるかもしれないとのことだった。ということでそちらへ向かうと、本当に積荷の山があった。大きなコンテナの山が出来ており、他には木箱や乗客が乗る荷物等の山があった。積荷はロボットがスケジュール通りに作業を休まず続けている。警備ロボットではないから武装はないけど、トラブルを起こせば3秒以内に警備ロボットがやって一瞬で囲まれてしまう。

 私達はロボットの隙を盗んでその運ばれる荷物に近づき紛れようとした。その時、私はその隣にある山に目がいった。ヒュレー行きの荷物だ。それは木箱やコンテナに記されてあるシンボルで分かった。

「レイン、少し私の話しを聞いて欲しい」

「何?」

「あの男だけどどこまで信用できると思う?」

「どういうこと?」

「あの男がもし金目当てに私達のことを売ることだって考えられるでしょ?」

 人間の貧しさから金に対する執着、貪欲さは理解しているつもりだ。だからこそ、あり得ない話しではない筈だ。

 レインはそう言われ少し考えた。

「確かになくはないわね」

「あそこにヒュレー行きの荷物がある。私達はエイドスに行くフリをしてヒュレーに行くの」

「分かった。皆もそれでいい?」

 レインがそう訊くと、二人とも頷いた。

「それじゃ作戦実行ね」

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