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カイリーと緑のトンネル  作者: アズ
第1章 百年後の新時代(ディストピア)
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新しい家族

 私達は林を突っ切りそのまま『タルス』という街の外を出た。かつて炭鉱で栄えた街、しかし今は病院同様にすっかり住宅群もゴーストタウン化し、ロボットの修理や製造工場ぐらいしかない街とはおさらばし、林の外、目の前にある古びた三連アーチ橋の前で止まった。ルナが言っていたように、私達は街の外までは一緒に行動するという約束だったが、街を出た今その約束は果たされたことになる。

「さて、これからのことだけど」とルナは言い出す。

「目の前の歩道橋を渡って真っ直ぐ行けばエイドスがいる街に辿り着ける。もしくは川沿いを西に向かって進めば西の海に接した港町がある。あなた達はどうする?」

「あなたはどうするの?」と私は訊いた。

「私はアンジェリーと一緒に行くことにした。あなた達とは別行動をとりたいから、先に選ばせてあげる」

 私はえ? と驚いてメアリーを見たが、メアリーも聞かされていなかったのか同じく驚いた顔をしていた。

「てっきりメアリーもあんた達と一緒に行くのかと思ったけど違うの?」とレインは訊いた。

「まさか。ガキのお守りなんてゴメンよ。私達が一緒だったのはたまたま同じ部屋だったから。それだけよ」

 それを言われショックだったのかメアリーは涙目になった。

「どうしてそんなこと言うの? 仲間だったんじゃないの?」

 すると、アンジェリーも前に出た。

「なにアツくなってるわけ? 私達だって同じ人達を簡単に囮にして見捨てたばかりじゃない。自分達の命を優先して他人を見捨てれる、そこに大層立派な正義があると思うわけ? ないよね」

「……」

 レインは私の肩に手を置いた。

「確かにこいつらの言う通り私達は仲間じゃなかった。私達はただ脱走する為だけに一致団結しただけ。それ以上は望んでないわけね」

 ボニーは泣いているメアリーに近づき彼女を抱きしめた。

「それでもね、言い方ってもんがあるでしょ!」

 レインは怒号をあげた。

「アンジェリー、それぐらいにしましょう。時間の無駄よ」

「そうね。それじゃさっさと決めなさい」

 レインは私を見た。

「で、どうする? メアリーは私達と一緒に行くとしてどっちのルートがいいと思う?」

「港町なら海に出る船があると思うし、外との交流があれば情報も手に入りやすいと思う」

「分かった」

 レインは一言そう返事をするとルナ達の方へ振り向き答える。

「私達は港町へ向かう」

「分かった。それじゃ私達はこのまま真っ直ぐ行く」

 そう言うと本当に二人だけで真っ直ぐ街へ歩き出した。

 レインはメアリーに近づきそっと慰めた。私は遠くで見守っていたからレインが何を言ってメアリーを慰めていたかまでは聞いていない。でも、こういうのはレインの方が上手いと思う。私じゃ多分慰めにはならない。




◇◆◇◆◇




 その頃、支柱で支えられている空中都市の中心、国全体の政府中枢にあたる場所『黒城』の『国防棟』にて、施設、兵器・ロボット生産工場が何者かによって攻撃を受けた重大事件に関連する対策本部の設置が行われていた。その責任者、国防大臣の代理である副大臣が現在その対策本部長代理として指揮をとっていた。テロスの特徴である長く大きい頭部は他のテロスと同じだが、顔に深い切り傷がある。更に眼光は鋭く、黒い髭を生やし、黒の軍服を着用している。その対策本部長代理は会議室の奥の席に座り、他の者は手前から階級の高い者順に会議の席に着席した。

 『黒城』といっても城というより黒い物質の何かで出来ており、軍や国が機密とする物質を使用している為に存在は不明。その見た目は古臭さは無くむしろ得体の知れない漆黒でスリット窓が外から見えるだけで中の様子や想像はつきにくい巨大な城。夜になればブルーのライトがその城を照らす。

 その内部、『国防棟』会議室では煙草臭が漂っていた。ほとんどが葉巻で、後方になるにつれそれは紙煙草に変わっている。

 前で葉巻を吸っている対策本部長代理は灰皿にそれを押しつけ火を消すと苛立った様子で全員を睨みつけた。

 報告では襲われた施設は真っ先に電気システムを攻撃され、監視映像の記録が何も残っていないことと、エルフの矢と遺体が転がっていること、六人の逃亡奴隷が未だ見つかっていないということだった。ここまで聞くと推測はエルフによる襲撃になるが検証チームはそれを断定しなかった。むしろ、エルフや他の種族は『衛星タコ』による監視では怪しい動きはなかったという。

「では見えない敵が我々の軍事施設を攻撃したというのか。その前の報告では数日前からロボットがエルフの矢によって破壊されたとあるじゃないか」

「しかし、AI『ゼウス』の答えはエルフである可能性は低くとのことです」

 そう答えたのは検証チームのリーダーのテロスだった。彼は首にサポーターをつけていた。テロスは人間より頭が大きい分、首が弱かった。

「では、どの種族だと言うんだ」

「その……『ゼウス』の答えは人間だと」

「人間だと?」

 一気に会議室がざわついた。

「人間は『衛星タコ』で唯一監視から外れていますし、施設の場所や内情が詳しいのも説明出来るかと」

「成る程な。噂に聞くレジスタンスとやらか……」

 すると、他のテロスが発言をする。

「しぶといゴキブリはいくら叩いたところで中々絶滅しないどころか連中はあちこちに出ては目障りにコソコソと動き回る。連中には国がありませんから此方が攻撃をしたら直ぐに身を隠せる。厄介な相手です」

「あの最弱種族をわざわざ奴隷として生かしてやっているというのにな」

 すると、検証チームのリーダーが「あの」と言った。

「AI『ゼウス』は人間にも土地を与え、そこに住まわせる提案が出されていますがいかが致しま」

 言い終わる前に他のところから怒号が飛んだ。

「連中の欲は底が知れない! 此方が了承しなくても連中は勝手に住処をつくる。収容所もパンクしているから大部分は権利を与え労働者として使ってやっているが、それでも人間は勝手に増えていくばかりだ」

 すると、他の席から「ならば産めない体にすればいいだろう」と案が出た。

「どうやって? 全ての人間を管理しているわけじゃない」

 すると、科学チームのリーダーが立ち上がった。

「そのことですが、現在人間だけを殺せる化学兵器の開発が本日から最終段階に入りました」

「ほぉ? それで?」と代理は訊く。

「あと半年以内に最終テストを終える予定です」

「三ヶ月以内だ。それまでに完成させるんだ」

 それは有無を言わせない絶対の命令。はいと答える以外になかった。




◇◆◇◆◇




 場所変わってカイリー達はルナ、アンジェリーとわかれ川に沿って歩き始めてから一時間が経過していた。メアリーはすっかり泣き止み、私達と共に行動している。歩き始めて暫くは気まずい沈黙が続いたが、今ではずっとレインが一人で長話を一方的に続けている。彼女の生い立ちからテロスの悪口まで色々だ。よく、ネタが尽きないものだと感心すらする。特にテロスの悪口は笑えた。あの頭を人間と同じサイズに切ったらテロスも人間になるのか? あの見た目で? これは最高に笑った。勿論、テロスにとってはブチ切れ確定だが、私達には関係ない。逃亡奴隷というだけで即処刑という身だからだ。

 勿論、港町にもテロスはいる。私達はまず服装を手に入れ身分を隠す必要がある。それから港町で情報を得る。金になる仕事があるならそれを受けて生活してもいい。海を渡り他の土地を目指すのもいい。不運は続いたが、永遠ではない。運は私達に今向いている。

「それじゃ今度はボニーね」

「え?」

「え? じゃないよ。私ばっかに喋らせないでよ」

「あ、うん。でも、何を話したらいいか」

「家族とか施設に来る前とか」

「親はもういないの」

 私はレインの腕を肘でつついた。

「ごめん」

「ううん、いいの。私は家族と海を出てエイドスに渡ろうとしたの」

「それって資源の宝庫と呼ばれる土地だよね」

 ボニーは頷いた。

 エイドスは種族エイドスが住む国。エイドスとはまだ会ったことがない種族だ。ただ、そこでも人間の扱いは基本的に変わらないと聞いていたが…… 。

「でも、その途中で大猪に襲われて」

「そう……なんだ。ありがとうボニー」

「気まずい空気になったんだけど」

「悪かったな。次はカイリー」

「私?」

「なんとかして」と耳元で言われ私はため息をもらした。

「私も家族はいない。メアリーは知らないと思うから話すけど、私には唯一弟がいた。けど、住んでいた場所でロボットに仕事を奪われて、職探しに信用できるポーという人と一緒に街を回って仕事を探してた。でも、その途中でいきなりテロスが現れて、その人と弟を殺した。私は弟だけは殺さないで欲しいと懇願したけれど、むしろ逆効果だった。そのあと、そのテロスに捕まって奴隷」

「……」

「私は復讐を誓った。弟を殺したテロスを皆殺しにするって。だから、レジスタンスに入るのも考えた。でも、少し迷ってる。昔の私なら迷うこと無くレジスタンスに入って復讐して、テロスを沢山殺すって言ってたと思う。でも、本当の私は臆病で生きたいとも思っている。私は弟の為にも長生きすべきか、復讐すべきか……正直どうしたらいいか分からない」

「カイリーはさ、自分はどうしたいの?」

「分からない。昔なら自分で考えて決断も出来た。弟の為にって……でも、私のかけがえのない弟を失ってから私は自分のことについてはあまり考えてこなかったなって。そんな余裕がなかったから」

「復讐なんてやめたら? というか私達でさ、新しい家族にならない? 血は繋がってないけど」

 するとボニーは「嬉しい」と答えた。メアリーもボニーの横で頷いた。

「あんたは?」

「私は……」

 私はボニーとメアリーとレインの顔を見た。

「うん。それ、いいね」

「じゃ、決まりね。今から私達は家族」

 皆で「うん!」と返事をした。

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