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カイリーと緑のトンネル  作者: アズ
第3章
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冥界の風

 この地で起こっていることの最大のテーマが「失踪」になっているのは間違いない。ただ、それが吹雪による遭難なのか、神隠し的なのかは意味合いとしてだいぶ違う。そして、案内役の運転手は前者であると決めつけている。調査員が行方不明になった点においては急な悪天候による遭難と言っても不自然さはあまりない。影の存在も吹雪の中で何かを見たという発言事態信憑性が怪しい。しかし、調査員でない街にいた人達までもが行方不明になるのは不自然だ。まさか、なにもない雪原に向かったというのか? 何故? その答えはカイリーが思うに私達が向かっている先にあるとみた。そう思う根拠は闇のエネルギーを向こうから感じとれるからだ。それは霊的なもの、それも強いエネルギーだ。

 多分、沢山の霊があの山を越えた先にあるのだ。

 すると突然天候が悪化し、外は酷い吹雪となった。前もろくに見えない。左右の窓も打ちつける雪と太陽を隠す分厚い雲のせいでまだ日中だというのに夜のように暗くなっていた。

 もし、ここでこの専用車が身動きとれなくなったら吹雪が止むまで救出は来ない。そして、外に出れば寒さだけで体力は浪費し、低体温症となるだろう。レインの火のエネルゲイアで暖をとれても、この外ではレインの属性は相性が悪く燃費は早く尽きてしまうだろう。だが、この悪天候事態霊的な闇のエネルギーによって引き起こされているなら、僅かに近づいただけでこの有様だということだ。なにが言えるのかというと、こっから先は本当に危ないかもしれないということだ。引き返せるなら今のうちだ。

 既に外は雪原だ。

 だが、山は遠くにある。それも吹雪で視界が悪く微かにしか見えない。

 運転手はアクセルを踏み続けた。

「この天候なら雪の上でも移動出来る『多脚砲台』でもひっくり返って身動きとれなくなるだろうな」

 多脚砲台はテロスが最初に生み出した戦争兵器だ。遠隔による無人の戦車に六本足を取り付け移動範囲を広げたものだ。更に足の底に車輪をつけ移動スピードを向上させた『多脚戦車』がある。中に入れるスペースもあるので自動化から手動に切り替えも可能だ。彼が言いたいのは、そんなものはこの嵐のような吹雪では風にあおられてしまうだろうということだ。それだけの強風で、この専用車も安全とはあまり言えない。そして運転手にはこの先には行けないと直感していた。

「ドローンを飛ばしても突然の悪天候で、突風にやられドローンは墜落してしまうんだ。もういいだろ、見ての通りこれ以上は危険だ」

「どうする?」とレインはカイリーに訊いた。

「あの山を越えた先から強い闇のエネルギーを感じるの」

「無理だ。あの先は何もない」

 まるで、この天候が私達の行く手を遮って邪魔しているみたいだ。

「……分かった」

 運転手はそれを聞いて直ぐ様ハンドルをきる。大きくUターンしてから専用車は来た道を引き返した。

「本部には悪天候で調査が難しいと伝えよう」

 カイリーがそう言った時だった。ボニーが突然叫び声をあげた。

「どうした!?」とレインが言うと、ボニーは窓の外に向け指を差した。

「いた……見えたの私! 影を見たの!」

「影!? 本当か? でも、見えないぞ」とレインは指差した方向を何度も目で追う。

「見間違いじゃないのか?」

「ううん。見たよ、間違いないよ」

 レインはカイリーの方へ振り向いた。

「何か感じた?」

「うん……突然、現れた。でも、おかしいの。山の向こう側からはまだ強いエネルギーを感じる。さっきまでこの近くでは感じなかったの! でも、いる……ポツポツとこの近くに増えていってる」

 それを聞いたレインは運転手に向かって叫ぶ。

「スピードをあげて!」

「もうやってる!」

 専用車はスピードをあげた。だが、霊はどんどんこの雪原から増え始めている。でも、何で? この土地に霊的な繋がりがあるなら既に自分は気づいている筈だ。なのにいきなり沢山の霊に囲まれた! 

 霊は既にカイリー達が乗る専用車を取り囲んでいた。

 そして、専用車は突然急ブレーキがかかる。その衝撃で私達は前のめりになる。シートベルトをしていたおかげで前方へ飛ばされずに済んだ。

「なにやってるんだ!」とレインは怒鳴りつけた。だが、運転手は顔を青ざめていた。

「俺じゃない! アクセルを踏んでるのに急に止まったんだ。今だってアクセルを踏んでるさ!」

 車外ではタイヤが確かに回転し続けていた。なのに、車は全く進まなかった。スリップではない。

「俺じゃない!」

 そう、これは悪霊の仕業だ。

 その時、空から何かの鳴き声が聞こえてきた。

 運転手以外皆、空の気配を感じた。とてつもないエネルギーの塊が空を飛んで回っている。

「なんでこんな場所にいるわけ……」カイリーはそう呟いた。運転手は何のことかわけが分からずカイリーに訊ねる。

「なにがいるって言うんだ」

「多分だけど、私達の真上に伝説の生き物が飛んで回ってる」

「飛んで回って……朱雀かっ!?」

 朱雀、伝説の生物として玄武、青龍、麒麟、白虎に並ぶ空を飛ぶ化け物、それが朱雀だ。

「それじゃ、この事態を引き起こしてるのは朱雀だって言いたいのか」

 この世に未練を残した霊が諦めきれずに冥界から不完全なかたちで蘇る死者達。そいつらが今、私達を取り囲んでいる。朱雀にもし死者を操る力があるならこの状況は分が悪かった。

「カイリー、あんたしかいない!」レインは言うとカイリーは頷いた。

 サイコキネシスを纏いだすと、霊は直ぐに反応した。闇の力を。霊は直ぐ様カイリーをターゲットに取り憑こうと蠢きだした。

「私は既に取り憑かれてるんだ。何を今さらあんたらも全員私の力になれ!」

 カイリーは悪霊達を取り込みエネルギーに変換しようとした。だが、それを感じとったのか朱雀が鳴き声をあげる。

「悪霊を留めることは出来ても朱雀まで相手には出来ない!」

 カイリーがそう叫んだ時、突如悪霊が取り囲む雪原に神々しい光が北からあらわれた。

「今度はなんだ」と運転手は叫ぶ。

 その光から現れたのは伝説の生物を狙うエルフの元王だった。




◇◆◇◆◇




 元王は既に傷を負っていて鎧の下は包帯の巻かれた肉体だった。

 元王は麒麟を追って運良く麒麟を一日に二度見つけることが出来た。幸運に感謝し、麒麟に挑んだ元王は麒麟を甘くみていた。実際、玄武程ではないと思っていた。だが、現実は違った。麒麟は素早いだけでなく百獣の長としての力を持っていた。恐らくは伝説の生物上最強になるだろう。元王はそれを知らなかった。そして返り討ちにあい、足の速い麒麟からテレポーテーションでなんとか逃げ出したのだ。しかし、深手を負った元王はそれから暫く身動きがとれなくなっていた。

 洞窟の中で長い期間傷を癒していた時、雪原の空から高エネルギーを感じとった元王はその場所へテレポーテーションで急いだ。

 麒麟の前に朱雀をこんな場所で見つけることが出来たのも、麒麟から生き延びたのも、まだ幸運が続いているということなのだろうか。

「俺の悪運も悪くない」

 光の斬撃を手に持っていた剣を振り放つ。朱雀はそれに気づき急降下して回避する。そして、そのままスピードをあげながら元王に向かった。

「そうだ、かかって来い! そしてそのままその首を俺に寄越せ!」






 その頃、砕け海面が顕になった氷の大地だった場所、その海面の上に立つ麒麟の姿があった。麒麟は海の底から放たれる冥界の空気、それは猛毒で人間にはガスのようなものに捉えられるが、それを麒麟は大量に吸い込み体内に蓄積させていく。そして、その麒麟の目が徐々に恐ろしい獰猛な目へと変化していった。




 伝説の生物にはもう一つの口伝がある。しかし、それは忘れられ誰も知らない語り。それをヒュレーの『占い師』が言い当てていた。伝説の生物は封印の守護者でありながら、その封印が破られ冥界の風に触れた時、それは世界に驚異をもたらす怪物と変化し、それは世界を駆け回り、この地上を冥界の地へと変えてしまうというもの。地上と冥界の境界線が失われた時、この世は破滅へと向かう。つまり、神は守護者に封印させながら失敗した時に世界をリセットする指令システム的なものを伝説の生物に遺伝的に埋め込んでいた。

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