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カイリーと緑のトンネル  作者: アズ
第3章
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 レイン達は北半球に現れたという影の情報を得る為まず戸籍情報から北半球に住んだことのある国民をリストアップし、その人達に片っ端からリモート通話をかけた。ほとんどは影の存在や行方不明者について具体的な情報を持ち合わせてはいなかったが、一部の北半球にいた人間の学者達が影の存在を知っていた。その学者が言うには最初はテロスが北半球の調査団を派遣したことが始まりで、そこに奴隷として同行した人間数名を含めた一団がまず北半球に向かった一回目の調査からとされた。その調査団が北半球に到着した時からの記録はテロスが持っていた。記録によれば一団を待ち受けたのは一面に広がる雪原だったそうだ。調査は早速難航され急な吹雪に襲われ長時間の調査が困難とされた。そこでテロスはロボットと雪でも走れる専用車を用意し、調査を継続させた。その時、ロボットの反応が突如吹雪の中消えた。最初は悪天候で反応が悪いだけだと思われたが、後から本当に消失していることに気づいた調査団はロボットは諦め専用車で自分達だけでも北へ進むことにした。その時、調査員の誰かが吹雪の中動く影を見た。見間違いでなければ知る限り最初の目撃になる。それから調査員は北へ進んだ。悪天候は一日中続いたが、翌日には吹雪は晴れ、太陽の光に照らされギラギラに光る雪原の上で調査団は一度止まった。というのもこの雪原の先には山があり、空からドローンを飛ばして山の先をまず調査することにした。宇宙からではその先の映像は常に分厚い雲が邪魔して地上の様子が見れないようになっていたのだ。ドローンは雲の下を通った。山を越え、調査員はドローンからの映像をタブレットで確認する。すると、そこに映し出されたのは氷の世界だった。ここでは生物は存在しない。学者は直ぐにそう判断した。氷の世界で生きられる生物なんて聞いたことがないからだ。それから氷の大地をどう調査するか話し合われた。正直、氷の大地は国土としては役に立たない。それが学者達の結論だった。そんな時、ある学者が氷の下に何があるのか知りたくはないかと言い出した。長らくここは氷で張られていて、もし、氷の下に何かあるのだとしたらそれはかなり古いものになるだろう。学者達の間で興味が注がれた。だが、そこに同席していた人間達は嫌な予感がした。それは興味本位で掘り出していいものなのかと。学者達は早速本国に通信を送り必要な機材を送るよう伝えた。しかし、その通信に割って入ったのはAI『ゼウス』だった。『ゼウス』は直ちに調査を打ち切り帰還するよう調査団に命令した。なんでも氷の下には有毒ガスがあるかもしれないと。ガスマスクを着けて調査をしても良かったが『ゼウス』は無駄な労力だと断言した。調査団は『ゼウス』の言う事だからと氷の大地の調査はそこで終えることになった。ドローンによる映像解析が『ゼウス』で解析を終えたのなら調査団は早いとここの極寒の地から離れようとした。だが、そんな時アクシデントが起きる。氷の大地の上を飛行していたドローンとの通信が急に途切れたのだ。ドローンの遠隔操作も出来なくなり、ドローンの回収が不可能になった。調査団は山を越えドローンを回収すべきか、それともドローンを破棄し帰還するか決断を迫られた。調査団のリーダーは最終的に団員の命を優先しドローンは諦めると決断する。一部は氷の大地を少しだけ見て行かないかという意見もあったが、それは『ゼウス』が認めなかった。妙なのは『ゼウス』が何故そこまでして氷の大地を危険視しているのか分からなかった。防寒完全装備のスーツを着て行けば凍え死ぬことはない。だが、団長もその時氷の大地にはなぜだか何か嫌な感じがした。

 調査団を乗せた専用車が出発を始めると、直ぐに吹雪が専用車を襲った。それはとてつもない嵐だった。それが本国との通信の最後となった。調査団は救難を求めた為、直ぐ様捜索隊が編成され北へ送られた。だが、その後調査団の行方は見つかることはなかった。最後、調査団との通信の中でひたすらに「影が来る!」という声がしていた。調査団が見たという影とはいったい何だったのか? 影の噂はそこから始まる。

 それから二回目の調査が行われるのに長い年月の時があいた。調査団の目的は氷の大地を震源とした地震を探知した為だ。もしかすると氷の大地が地震によって亀裂が生じたかもしれない。それを確認する為の調査とされた。調査団は一回目と同じ専用車を使用。メンバーの数も同じ。違うのは一回目と違い今度は山を越える。だが、調査団に恐怖はなかった。むしろ余裕そうだった。というのも一回目は事故という認識が彼らにあったからだ。影の存在は勝手に熊にでも遭遇したのだろうと決めつけていた。そんな調査団を乗せる専用車に再びあの時と同じように吹雪が襲ってきた。そこから空気は一変した。その調査団の中でも「影を見た」と言う者が現れたからだ。

「この吹雪でどうやったら影が見えるんだ。お前の気のせいだ。だから冗談でも二度とそんなこと言うな!」

 ピリピリした空気に包まれる中、専用車は遂に身動きがとれなくなった。

「おい止まるなよ! 走らせろ」

 誰かがそう言ったが、専用車はびくともしなかった。結局、調査団は救難を本国に送った。そして、その調査団もそれを最後に連絡が途絶えることとなる。





 カイリーはレイン達が集めた情報を組織が用意した船の中で聞いた。船はその不吉とされる北の大地へと向かっていた。

「どう思った?」レインはカイリーに訊いた。それに対しカイリーは正直に答える。

「一回目はともかくとして、二回目の調査団は一回目に見た影について、吹雪の中で影を見たという印象を事前に持っていた。その上で実際二回目の調査団は吹雪に襲われた時に無意識的に一回目の調査団が見たエピソードが再びこの地で繰り返されると錯覚を起こし影を見たと思い込んだだけかもしれない。団員の一人の恐怖心がそう錯覚を生み出し、それが逃げ場のない閉鎖され空間でパニックが広がったと考えられなくもないと思う。一回目の調査団の影を見たのを単なる見間違いとすればだけど」

「成る程ね。まぁ、それが現実的か。私もそう思うよ。そうなると神隠しはなくて単なる遭難になるね」

「そう思いたいけど……そう仮定したらルナはどうして消えたのかが分からない」

「そこなんだよね。調査団以外にも行方不明者が出ているのが説明つかない」

「やはり、北に何かあるのか?」

 単なる見間違いが語り継がれてここまでに至るなら自分の出番はない。それは単なる嘘で終わる話しだ。でも、そうでないとしたらそれは怪奇現象だ。ルナはそれに巻き込まれた。

「厄介ね」




◇◆◇◆◇




 その頃、エルフに捕われの身である黒髪の女は恐怖していた。今度は隣の囚人のように自分も殺される。だが、不思議と恐怖心とは別に知りたいという要望も混在していた。

 死を恐れない始末屋はいない。でも、死を恐怖してばかりでは一歩も踏み出せない。

 女はあの元エルフ王のことを、伝説の生物のことを、エルフ族のことを知りたくなっていた。何故、元エルフ王は掟を破ったのか、何故伝説の生物を狙うのか。

「教えてよ」

「なに?」

「教えてくれるんでしょ? なら、聞かせてよ」

「囚人がいい気になりやがって」

 その時だった。足音が響いてきた。誰かが来る。それも複数。看守は黙りその足音を聞き分けた。そして、誰の足音か判明するとハッと驚く顔をした。それもその筈だった。現れたのは現エルフの王だったのだから。

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