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カイリーと緑のトンネル  作者: アズ
第3章
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新たな任務

 カイリー達は人間国首都にあるバーでとにかくアルコール度数の高い酒を注文しそれを一気に飲み干していた。といっても飲酒はカイリーとレインだけでボニーとメアリーは違う飲み物を飲んでいた。レインは直ぐに酔っ払い愚痴をこぼし始める。

「なんなのあの上官。ムカつくんだけど!」

「レイン、実は酒弱い?」とボニーが言うとレインはカッと睨みつけボニーは体を小さくし口を閉じた。

 どうしてこうなったのかというと、それは数時間前に遡る。





 人間国首都の高層ビル群のような街並みは圧迫感があってカイリーはあまり好みではなかった。そもそもこのような街並みになったのも人口が人間国にどっと押し寄せたからだが、それだけでなく一度は四種族によって人間は戦争に負け、その時にあった文化も破壊されほとんど残っていないからでもあった。だから文化的で国の個性を主張出来ず、新しい国の始まりがビル群というかたちになったのだろう。その中にある本部にカイリー達は入り、無駄に広いロビーから受付のカウンターへ向かい、そこにあるモニター画面にカイリーは喋りかけた。受付に人はいない。全て機械だ。人間はこの上のフロアからそれぞれの与えられた役割を務めている。例えばビルには研究するフロアやサイバー関連のフロアといった単なる情報機関ではなく、国を維持する為に活動する機関となる。

 受付を終えると、エレベーターが動きドアが開く。エレベーターは遠隔で操作され、カイリー達が乗り込むとエレベーターは扉が閉まりボタンを押さずとも勝手に動き出した。こうして辿り着いたフロアで最初に待ち受けたのはスーツ姿の女性だった。輪郭は丸く体格は小柄、童顔だから余計に幼く見えるが彼女はとっくに成人年齢を越え今はカイリー達の上官になる。上官とは任務を言い渡される時に一度だけリモートで会っていた。後はこの上官に報告をしたら私達はようやく解放される。そう思っていた。

 だが、まさかの上官に告げられたのは新たな任務とそれまでの休息期間だった。つまり、私達は約束を反故されたのだ。




「あなた達のような人材をみすみす逃すほどこの国は人材に余裕がありません……だから何? 知るかって!」

 レインは怒声をあげ、ボニーはそれを宥めた。

「それでどうするよリーダー」

 カイリーはグラスを置いた。

「断れるならあの時断ってたよ。でも、あの様子じゃ私達を逃さない」

「クソー騙された!」

「ただ、気になるのがその任務の内容よ。北半球にいたレジスタンス達の捜索。行方不明なんでしょ? その原因は不明。それにそこにいた人間も次々と失踪している。それっておかしいでしょ? それに行方不明者リストを後で確認したら驚きの名前があったの」

「誰よ」

「ルナ」

 その時全員の表情が固まった。ルナとはかつて私達がテロスに捕われ働かされていた時に同部屋だった女だ。だが、そこから脱走した後で私達はアンジェリーとルナの二人と別々になった。それからどうしているかは知らなかった。

「あいつ、北へ行ってたのか……それで、リーダーはルナを探しにその任務を受けるってこと?」

「ルナだけじゃない。他の皆もだよ」

「……しゃあねぇか。でもよ、メアリーはいいのか?」

 訊かれたメアリーは頷いた。

「私も良いよ」とボニーも賛同する。

「それじゃ決まりね」

「なら早速だけどいいか?」

「なに、レイン?」

「捜索をやるのはいいがなんか変じゃないかこの任務。うちらに依頼が来る前に調査団を既に派遣したけど成果はなかった。だからうちらに回ったんだとしても正直うちらのメンバーに人探しに役立てる能力者はいないだろ。なら、ロボットでも派遣したらいいじゃないか。アレなら寒さ関係なく遠くまで捜索四六時中出来るだろ?」

「それは私も思った。でも、あの土地には妙な噂があるの」

「影の話か?」

 カイリーは頷いた。北半球にいたことがある者なら影の噂くらいは誰もが知っているが、その正体を見たという者はいない。

「もし、影の存在が本当なら多分悪霊あたりかもしれない」

「成る程。だとしたらカイリーが適任になるのも納得だな」

「でも、もう少し情報は欲しいかも」

「そこはうちらに任せてよ」

 レインが言うと他の二人も頷いた。

「うん、それじゃお願い」




◇◆◇◆◇




 その頃、黒髪の人間の女はエルフに見つかり捕らえられると木製の川舟に乗せられ、エルフの森にある人間がかつて建てた古城、現在は牢獄として使われる場所に送られ、地下牢にぶち込まれていた。

 正直、捕われて直ぐに拷問が待っていると思っていたが行われずに済み、とりあえず女は安堵した。無論、油断は出来ない状況に変わりないのは心得ている。

 捕われている地下牢は冷たく薄暗く異臭が漂っていた。場所は古城の塔内部、螺旋階段を降りていった先となり、松明だけが通路を灯していた。軽装備のエルフが交代で見張り、巡回しており、囚人の飯も時に配って回るがそれはいつも同じ野菜が入ったサンドだった。

 牢には基本一つの檻に一人の囚人のようで、隣の囚人は壁で様子は伺えないが物音で判断は出来る。ただし、囚人同士の会話は勿論独語も厳禁だった。看守との会話も禁じられ、受け答えも返事も駄目という徹底ぶりだ。このルールのせいで囚人は孤独を強く感じる。

 だが、この地下牢は鉄壁ではなかった。まず、脱獄に成功した者がいる。それが元エルフ王だ。元エルフ王がどのようにこの場所から脱獄出来たかは知らないが、少なくとも元エルフ王は光のエネルゲイア使いだということは分かっている。どこかに脱獄出来るヒントがある筈だ。それともう一つ、この地下牢は古城なだけあって監視システムは古い。監視カメラやハイテク機能があるわけではない。問題なのはエルフの地獄のような鼻と耳だ。あれは異常だ。自分でも想像つかなかった。実際それで今捕われているのだから。

 壁と床を触って分かったのは空洞らしきものは音を立てて反響を調べてもなかったということ。鉄格子は頑丈で壁を破壊して脱出も出来そうにない。

 女は座り込み深いため息をついた。

 ああ、まずいまずい。まずいことになった。これ、本当に出れそうにないじゃん。あの元王どうやってここから脱出したって言うの?

 その時だった。看守が巡回で通り過ぎたのを境に隣から男の声が響いた。 

「脱獄を考えてるなら諦めることだな」

「誰?」

「おや、隣にいたのは女だったか」

「元エルフの王はここから脱出出来たんでしょ? 誰だか知らないけど何か知らない?」

「あの王のことか。確かにあの方はここから脱出した。いや、あの方の強さを考えたら誰も止められんよ。あの方は例えエネルゲイアを封じられようと目の前の鉄格子を簡単に曲げられるだろうよ」

「力技!? そんな単純な方法!?」

「あの方の常識は儂らの常識とは比較にならん」

「最悪だ……他に脱獄したひとはいたりしないの?」

「ある者が叫び悶え苦しむふりを演じ看守に檻を開けさせ脱獄を試みた奴ならいる」

「脱獄出来たの?」

「いや、直ぐにエルフの兵士に殺され見せしめにそいつの首だけが監獄に戻ってきた」

「駄目じゃん」

「ようは脱獄は成功しないということだ」

「それじゃ一生牢獄生活?」

「唯一あるとしたら現エルフ王からの恩赦だ。それなら生きて出られる。だが、恩赦を受けられるのは軽犯罪かつエルフ族であるということが条件だ」

 エルフ族が条件なら自分は恩赦は無いということだ。

「あなたは何の罪でこの牢獄に?」

「エルフを殺した」

「……なんで殺したの?」

「お前さてはエルフじゃないな。そうか……さては人間だな」

「そう。私は人間という理由で捕われたの」

「何しにエルフに来た」

「エルフのことを知る為に」

「エルフの何を知りたいのだ」

「そうね……例えばエルフが他の種族に隠しておきたいこととか。それはいったいどんな秘密なのか」

「そうか、それは残念だ。儂には分からんな」

「それはどうかな?」

「どういう意味だ」

「さっき、エルフの元王のことをあのお方と言ったでしょ? まるで意味ありげな言い方だった」

「だから何だと言うのだ」

「あなたは正直者なんじゃないかってね」

 男は鼻で笑った。

「例えばエルフの元王は何故伝説の生物を襲い回ってるわけ?」

 しかし、男からの返答は壁の向こう側からは聞こえてこない。暫くして、足音が響いてきた。看守だ。

「聞こえていたぞ。お前達の会話は。そうか、お前はその理由を知りたくてエルフの地に踏み入れたのだな」

 すると、先程の男が叫びだした。

「約束通りにしたぞ。これで恩赦をくれるんだよな?」

 女は舌打ちした。

「前言撤回、私を騙したのね」

 看守は隣の檻の前に立った。

「約束だ」

 看守はそう言うと弓矢を構えた。

「なっ!? よ、よせ。恩赦をくれるんじゃなかったのか?」

「だからこれが恩赦だ」

「それならいらん! 生きて出られなきゃ意味がない!」

「断ることはない。私からの恩赦だ、ありがたく受け取れ」

「よせ!」

 だが、看守はやめなかった。矢は発射され男の体を貫いた。隣の檻にいた女には男が倒れる音だけが聞こえた。

「恩赦は軽犯罪だけにしか与えられない。それぐらいここの囚人なら分かっていることだろう。まぁ、死人ならここを出ることも許されよう。それがせめてものお前に与えられる恩赦だ。さて」

 看守は女のいる檻の前に立った。

「訊きたいことは伝説の生物だけか?」

「他にも教えてくれるの?」

「あぁ、いいだろう。どうせ生きては出られないがな」

「そういうこと」

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