時代の幕開け
長い長い数日間、大変化をもたらし世界は戦争から集結へと向かった。それはテロス国の敗北であり、それは人間達の働きによるものだった。とはいえ、人間の建国宣言を他国が認めるかどうかまだ油断はできなかった。特にヒュレーはテロスに対して賠償金を請求したい筈だ。そして領地も狙うだろう。エイドス国は戦争には実質参戦していたとはいえないから、エイドス国がテロスに対し要求する権利はないが、平和協定違反から何ならかのテロスに対しやはりペナルティという名の要求をしてくるかもしれない。だが、それよりもエイドス国襲撃がエルフ族の元王であったことから、今回を期にエイドス国はエルフを敵国と見なすだろう。因みに、エルフ国は元王とは言えあの元王の独断であり国に関わりはないと反論している。だが、それもエイドスは聞く耳を持たないだろう。今回の件で四種族に分裂が起きたのは間違いない。いや、元々仲の良い関係とはいえない。それがテロスでの襲撃事件から崩れたのだ。
やはり、国や種族が異なると同じ知識生命体でも共存は不可能ということなのか。
それから数週間、レジスタンスはテロス国代表、ヒュレー代表、エイドス国代表、エルフ族代表でオンライン会議を開いた。そして、今後について協議が行われた。特に人間側の建国の宣言に関してはテロス領土の50%を人間が、もう半分をヒュレーが東西に分ける案が具体的に交わされた。実質テロスはヒュレーに植民地支配され、半分は人間国の領土となる。また、多額の賠償金もテロスは支払わなければならず、テロス国は大きく転落した。多額の賠償金により、それを支払う為に国民に高い税率をかけ、更に法律もヒュレーのもと作り直された。
そして、元エルフ王に関しては懸賞金が掛けられた。その首に掛けられた額は例えるなら豪邸が一つ建つぐらいのものだ。
だが、誰も元エルフ王が何故伝説の生物を狙っているのかは謎のままだった。
それから季節は流れ、気づけば二年の月日が流れた。
エルフやテロス、エイドスにしてみればその二年は短い。だが、人間にとってはそれは貴重な二年だった。四種族と人間の寿命は違った。人間はその中でも一番短く、その一年を無駄にはしなかった。
ロボット兵を上手く活用し自分達の建国の為に新たな防衛に力を注ぎ、テロスの兵器技術を取り入れ研究を重ねた。それは遅れていた人間達を急成長させた。エイドスはそれをあまりよくは思ってはいなかった。テロスがそしてAIが負けたのは人間の嘘を吐く悪知恵と姑息にある。それは四種族の中で一番長けていたかもしれない。だからこそ、エイドスは人間のこれ以上の成長を良しとはしなかった。
一方で、かつてエイドスに従いスパイをしていたアンジェリーの裏切りから暗殺者を送って数年、アンジェリーはレジスタンス、今や人間国の政府の側近につき、中々手出し出来ないままでいた。
そこでエイドスはアンジェリーには別の者に監視させ暗殺者は別の命令を任した。その暗殺者とは黒髪の女でかつてはアンジェリーと共にスパイの訓練をしていた同期。
現在、その者はエルフの森に侵入していた。元エルフ王の居場所とエルフ国の情報を得る為だ。
だが、エルフの住処である森はエルフでない者には容易ではなかった。そこはエルフにしか分からない森の罠が多く仕掛けられており、外と完全に隔絶した世界。女はそこで最初はエルフを捕らえ片耳を切り落とし、もう片方の耳で脅しをかけた。エルフは怯えるとすんなり情報をペラペラ語った。だが、それはかえって不自然だった。エルフは仲間をそう簡単には裏切らない。それなのに訊いてもいない事まで話し命乞いをしたから女は罠を確信し、そのエルフの首を剣で跳ねた。だから次はエルフの移動の痕跡を探した。だが、連中は森に上手く溶け込み、むしろ自分の痕跡を残してやいないか心配になった。エルフも森の生き物も鼻が利く。臭いは侵入者を辿る道。噂に聞けばエルフは森の生き物とも意思疎通が出来るとか。そういう能力をエルフの種族は特徴として持っていた。女は侵入を試みて早い段階で諦めかけた。そんな時、女に転機が訪れる。それはエルフの子どもを見つけたことだった。子どもは二人、そいつらは川で水遊びをしていた。女はその子どものエルフをとらえた。
子どもが黄昏時、自分の家に帰るのを待って、子ども達に案内してもらうことにした。
それは見事に上手くいった。エルフの子どもはまだ鼻が成長しきっていなかった。獲物を狩る時の察知や鼻がまだまだだった。
とにかく、女は運良くエルフの住処を見つけだした。
エルフの子どもは追ってに気づかず森の奥へ進んでいくと、その先に開けた場所があり、小さな白い光が沢山飛び交っていた。女は遂に見つけたのだ。エルフ達の住処を。
白い肌に若い者の髪は金色に輝いており、対する年寄りは銀色に輝いていた。背は人間よりやや高く、しかしヒュレー族のように大きくはない。そして、特徴的な長い耳を持っていた。だが、普段は長髪によってその耳は隠れている。見えるのは頭を洗っている時だ。お風呂は布で一枚仕切られているだけで、巨木の枝の上からではその様子も見えていた。
エルフ族はテントや簡易式の家ばかりだった。
確か、エルフ族は森の中で移動をして一箇所には留まらないと聞いたことがあった。長いこといると、その自然を壊してしまうとかなんとか。だから中々エルフの住処が見つからないのかもしれない。
一様、エルフの外交的な意味での施設、古城がテロス側にある森の入口から入っていった先にある。かつて、人間が建てた川沿い城にある城だが、現在はほとんど牢獄用として使われていた。そこには重要なものはほとんど残されていない。あるのは古い本ばかり。忘れさられた知識ばかりで使い道はなかった。燃やして焚き火かわりにしか有効活用はあるまい。そんなことで、女は元エルフ王が必要に伝説の生物を狙う理由を知るにはやはりエルフ族が握っている他ないと考えた。
さて……女は巨木の上から家やテントを順々に望遠鏡で見て確認していった。偉いエルフならそれなりに目立っている筈だが、どうも中々見つからない。仕方なく、女はエルフ族が眠りに入った頃合いに侵入してみることにした。
エルフ族の就寝は早かった。大人も子どもも関係なかった。見張りはいたが、隙だらけだった。そこまで警戒はしていないようだ。それもそうか、この森が既にエルフにとっての要塞なのだから。
自然が作り出す要塞は人の手で作られた要塞より難関だ。
まぁ、自分にはわけないが。
女は素早く移動し、エルフの住処に入った。直後、突然矢が女目掛けて飛んできた。
「嘘っ!?」
気づかれていない自信はあった。でも、既に弓矢を持ったエルフに女はいつの間にか囲まれていた。
「何者だ? 見たところ人間のようだが何故エルフの森に踏み入った」
正直に話したところで解放してくれるとは思えない。女は覚悟した。
◇◆◇◆◇
その頃、ヒュレー国にいたカイリー達は優勝後、ヒュレー国にいたレジスタンスからの誘いを受け、そこのリーダーと会い、力を見込まれたカイリー達はレジスタンスの加入の誘いを受け、それを受け入れ現在レジスタンスのメンバーになっていた。とはいえ、人間国が建国出来てしまった以上、人間の権利と建国を目的としたレジスタンスという言葉は誤った意味になる。そこで名を改め中央情報局ヒュレー支部となった。しかし、それは形式的には非公認。ヒュレー国はそんな組織が自分達の国に作られることを当然良しとはしないからだ。
カイリー達が加入に応じたのは単純に当初の予定だった北半球で優勝賞金で自分達の家を建て暮らすというものだった。だが、人間国ができた以上北半球を目指す理由は無くなった。人間国に行き、そこで家を建てる。その時に好条件をヒュレー支部のリーダーから提示され、それをのむかたちとなった。
こうして二年の活動を得て、カイリー達はようやくヒュレーを立つことになった。
目指すは人間国。
「いよいよだね」とレインは船を前にそう言った。誰も欠けることなく、全員レジスタンスの皆の修行、戦い方を習い、二年前より遥かに強くなっていた。
ヒュレー国港の東門が開く。日差しが入り込み、四人を照らした。レイン、ボニー、メアリー、そしてカイリー。ここから新たな時代が始まる。