決勝戦 決着
「さぁ、泣いても笑ってもこれが最後の戦い!! 決勝戦です」
司会者の言葉に観客達の盛り上がりは最高潮に達していた。
「もう何が起きても俺は絶対にこの戦い見守るぜ」と一人の観客が腕を組むとその隣で「俺もだ」と言った。決勝に至るまで激しい戦闘が繰り返され、その度にリングが破壊され大会が中断されてきた。しかし、それも最後となる。この日、この決勝で今年のチャンピオンが決まる。
リングにはメアリーを倒した男とカイリーが上がった。男はカイリーを見て早速宣言する。
「俺が勝つ。俺がチャンピオンだ。それを今分からせてやる」
「……」
そして、審判が二人の間に立つと両者を見た。
「いいですかお二人とも、殺しは失格。必ずそれを守って下さいね。それでは二人とも宜しいですね?」
二人は頷いた。それを見て審判は試合開始の合図する。
「始めっ!」
早速一番に動いたのは男だった。既に二人との激戦で体力がだいぶ削られているのに、奴からはサイコキネシスがビンビンに痺れるように伝わってきた。
それを見たレインは観客席から「短期決戦で一気にいくつもりだよ」と言った。メアリーはそれに頷く。
それはカイリーも分かっていた。奴にとってそれしかない。それもメアリーのおかげだ。だからこそ私は勝たなきゃいけない。
男は両腕をリングに突き刺した。
「最初から全開でいく! いくぞ!」
カイリーは構えた。
「百腕鉄拳!!」
リングの外から沢山の土で出来た巨大な腕、いや拳が現れそれはカイリーへと向かった。男は声をあげながらその鉄拳連打を繰り出す。
カイリーは躊躇うことなく闇のエネルゲイアを早速今大会初めて仕様した。
カイリーから深い霧を発生させるとそこから大量の悪霊が現れだした。
「よりにもよって闇のエネルゲイアか!!」
男の繰り出す鉄拳は実体を持たない悪霊には通用しない。だが、あの女には実体はある。
深い霧と霊に鉄拳が落ちる。観客達から一部悲鳴があがる。
ボニーはレインのそばで「大丈夫だよね?」と訊いた。
「大丈夫」とレインは即答した。レインはカイリーを信じていた。
「やっちまったか?」
反撃も防いだ感じもしなかった男は鉄拳を直ちにやめた。
そして、暫く沈黙が続く。
霊は消え霧だけが残る。
「この霧もエネルゲイアが発生させた技……ということは奴は無事」
すると突如、男の背後からカイリーが囁いた。
「闇に無闇に触れれば呪われる」
男はハッとし振り返った。
霧からカイリーが現れた。
「何故だ? 今なら不意打ちできた筈だ。何故しなかった」
「その必要はなくなったから」
どういう意味なのか男は直ぐには理解できなかった。だが、それよりこれはチャンスだ。わざわざ敵から姿を現してくれたのだから。
「鉄拳!」
男は巨大な土の拳をカイリー目掛け放った。いくらサイコキネシスでも防ぎきれまい。だが、男の想定は見事に外れた。カイリーは防ぐのではなく避けるわけでもなく立ち尽くしていた。なのに、鉄拳はカイリーをすり抜けた。
「なにっ!?」
「これが私が編み出した新たな技。お前は私に触れることは出来ない」
それを見てレインは「カイリー!」と驚いた。
「まさか、すり抜けだと!? いや、幻覚かもしれん。この霧にそのような作用が」
「違うよ。霧は霊を出す為。ほら」
また、霧から霊が現れだした。その霊は武装している。まるで兵士だ。
「まさか」
「私は呼べる霊を選べる。兵士か、騎馬隊か」
霧がうねると、そこから馬が現れた。
「死んだものなら人じゃなくても魂あるものなら呼べる。さぁ、おいで」
霧から無数の兵士が現れ出した。
「百だっけ? こっちは千でも一万でもいけるけど」
「実体がないなら向こうも触れられないだろ」
「それはどうかな」
突然、弓矢が飛んで男の肩に突き刺さった。
「ぐわっ!?」
「これで分かった?」
「くそっ……なら、千だろうが一万だろうが全てのみ込むまで」
レインは直ぐにアレが来ると感じた。男の必殺が。
細かい砂が出現し、男は更に力を集中させた。
「砂丘世界!!」
大量の砂がまたあの時のように全てを包み込んだ。霧は砂によって消え、中央には男とメアリーだけになった。
周りはなにもない、殺風景で観客席はない。まるでここは……
「砂漠か? いや、実際は違う。だが、固有結界に近い技だろ。これに飲み込まれ意識を失わない奴はいない。なのに、お前はまだ意識があるようだな」
「さっきも言ったけど、私の体はすり抜ける。あまり長時間は無理だけど幽霊状態とでも呼ぼうかな。まぁ、でもこれで無茶してくれたおかげであなたはもうこの技は使えない」
「悪いが解くつもりはないぞ」
「その必要はない。勝手に抜け出すから」
「なに? そんな事が」
「出来る」
カイリーはそう言うと、力を集中させた。
「奈落」
すると、二人の足場に突然巨大な穴が出現した。
男は悲鳴をあげながらその底が見えない暗闇に落ち続けた。更に、落ちている間に悪霊が現れ男を取り囲んだ。
そう言えばあの女は言っていた。
闇に無闇に触れれば呪われる。
奴は呪い系のエネルゲイア。そうか、俺は呪われた状態なのか。恐らく解けるのは使用者か光のエネルゲイア使い。
「降参だ! 降参」
すると、男は穴からリングの上へと落ちた。
「痛っ!」
男は全身を打ちつけたがなんとかその場から立ち上がった。そこに審判が二人に近づく。
「対戦相手が降参した為、勝者カイリー!」
歓声があがり観客達が一斉に立ち上がると皆拍手がおこった。レインもボニーもメアリーもカイリーを祝福した。
「たいしたもんだ。あれ、どうやったんだ」
「教えるわけないでしょ」
男は観念のポーズをとった。
すると、審判がカイリーに近づいてきた。
「おめでとうございます。それで優勝トロフィーと賞金の贈呈がありますので暫くお待ち下さい」
「あの、ここの主催者ってのは」
「ああ、ヒュレー国での人間のコミュニティや保護活動、そして裏の顔はレジスタンスの幹部の一人。あなたが知りたいのはそのことですよね?」
カイリーは頷いた。
「実はあなた達の強さを見込んで此方から話す予定だったのです」
「引き抜き? でも、私達はそんなつもりは」
「そうも言ってられないと思いますよ」
「え?」
「実はテロスにいたレジスタンスがテロス国を制圧、今レジスタンスのリーダーは人間国を建国させるおつもりです」
「人間国!?」
「そう。人間が法律を作り決め、人間が政治をし、権利が保護される、そんな時代がようやく訪れるのです。百年の迫害、それがようやく悲願が成就されたのです」
「まさかヒュレーにいる間にそんな事が!?」
「どうですか、一度主催者と会って話しだけでもしてみては」
◇◆◇◆◇
その頃、元エルフの王は玄武と戦闘の最中だった。
玄武の背、エイドス国からは火があがり、砲台は全て破壊し尽くされてあった。玄武の尻尾の蛇は斬り落とされ、海は薄い赤色になっていた。だが、エルフの元王も体力的にこれが限界だった。まだ、後ろにはエイドス国の戦艦が此方に狙いを定めて砲撃を続けている。
仕方なく元エルフの王は撤退を決意した。
「テレポーテーション!」
こうして、長い一日は終わる。
テロスの敗北、レジスタンスの勝利、ヒュレーは生き残り、エイドスは傷を負い、カイリーはトーナメント戦に勝利しレジスタンスの幹部から話し合いの場を招待され、ルナは北半球で北にいる『影』の存在を知る。
この一日で世界の未来がどう移り変わるのか。それはディストピアか、ユートピアか。それはまだ誰も分からない。