決勝
「は? 今何て?」
そう言ったのはアイアスだ。緊急会議で招集され、会議を終え部屋を出てきた錬金術士は頭を掻いた。本心は隊長であり兄ターキスから直接訊いてもらいたいものだが、相変わらず兄弟仲は悪いまま。
緊急会議の内容は諜報員からの新たな報告だった。それは驚くべき内容だった。テロス国のメインAI『クロノス』が破壊され、更に『ゼウス』、そして他AI全てが駄目になったというではないか。だが、何故そうなったのか。どうも人間のレジスタンスの仕業という話しだ。なにはともあれこれは此方として絶好な状況。無論、だからといって敵兵が消えてなくなったわけではない。依然戦力は港に集中していた。
しかし、招集と聞いててっきり敵の新たな動きかと思ったら此方の知らぬまに勝手に追い込まれているとは、此方も運が回ってきたというべきか。
「人間のレジスタンスもやるじゃないか」
「冗談言っている場合か。それで? 隊長は何だって?」
「ターキスにとってレジスタンスの活躍は正直想定外だったんだろ。作戦を変えてターキスはレジスタンスの支援を考えているようだ」
「人間に内部からテロスを攻撃させるということか」
「だが、レジスタンスも当然此方からの申し出に警戒するだろう。そこで一つの案をヒュレーは出す。それは人間国の建国を認めるというものだ」
「人間の国だって!?」
「既にターキスは上へその案を出した。上は北半球なら認めるだろうが、テロス国はヒュレーが支配権を得たいと考えるだろうね」
「北半球は何もないところだぞ」
「だからだ。それにレジスタンスはそれでも受けてくれるだろう。建国が目的ならね」
だが、その目論見は想像を上回るかたちで裏切られることとなる。
レジスタンスのリーダーはロボット兵のコントロールルームで一斉に命令権を書き換え人間達の為に働くようプログラムを変えていたのだった。
港に集まっていたテロス軍兵士はテロスがメインAIとその他のAIがテロリスト(レジスタンス)によって破壊されたと知り大混乱に陥る最中で、突如ロボット兵が裏切りテロス兵に武器を向けた。
テロス兵より上回るロボット兵の数に圧倒された現場指揮官は降伏を申し出て、その場にいたテロス兵は捕虜となった。
つまり、一度にAIを失いロボット兵が裏切られ港に集結していた兵士が捕われてしまった。それはヒュレーとの戦争どころではなかった。
結論として、レジスタンスはヒュレーの支援なくテロス国を確実に追い込んだのだ。
それをヒュレーが知るのは少し後の話。
その間にレジスタンスのリーダーは事を着実に前へ進ませる。
リーダーはコントロールルームを破壊し、ロボット兵の命令を書き換え出来なくした後、地上から『空中都市』へ上がってきたレジスタンスの皆と広場で合流を果たした。
リーダーは身長180以上でフリンジカットにミリタリーな格好をした男だった。
ディーンはリーダーが『空中都市』の内部に既に侵入し作戦を実行していたことに驚き、そして激怒した。
「何を考えているんだあんたは!」
「悪いがディーン、怒るのは後にしてくれ。今、テロスのロボット兵は俺達のものになった。これで俺達はようやく力を手にしたんだ。この勢いを失いたくはない。俺達はこのまま『黒城』へ乗り込む。そして奴らに降伏させるんだ」
「それじゃいよいよ」
「ああ、そうだ。俺達は国を取り戻す。そこからやり直すんだ。四種族に一度は敗北したが、俺達は不死鳥の如く蘇り再び世界を取り戻すんだ。やるぞお前達!」
仲間は一斉に「おおー!」と拳を空高く突き上げ声をあげた。
一人、アンジェリーはそれを見ていた。
◇◆◇◆◇
混乱する『黒城』にロボット兵を引き連れレジスタンスが突入を果たすと、テロスの防衛大臣が立ちはだかり銃を構えた。
「お前達人間にこの国をやれるかぁ!!」
大臣はそう叫び銃を発砲しようとしたが、その前にロボット兵が引き金を引き大臣の胸を貫いた。大臣は目を見開いたまま仰向けになるように背中から落ちた。それを見た戦い方も知らない貴族のテロス達は悲鳴をあげた。こいつらは『クロノス』の飼い犬同然のクズ共だったが、リーダーは連中を無視をして奥へ進んだ。そこは議会室だった。招待されたわけでもなければテロス民でもない者が武器を構え議会へ突入する。これはテロス国に対する挑戦だったが、構わずリーダーは突入した。
議会室には議員が数名いて、レジスタンスの突入に皆が立ち上がり振り返った。
半分以上は議会におらず、事態を知った貴族達は『黒城』から既に逃げきっていた。だが、それも今は構っていられない。
リーダーは銃を構え議員達の真ん中に立った。これが何を示すのか言うまでもないだろうが、各国にある議会は単なる場所にあらず。それは国を動かす神聖な場所である。そこに武器を持った敵人が無断に侵入したのだ。だが、残念なことにそれを止めれる力はテロスになかった。
テロスはレジスタンス、人間に敗北した瞬間だった。
そして、議会室でリーダーを中心にレジスタンスのメンバーが集まると、そこで記念撮影をした。
これが一つの歴史を語ることとなる。
◇◆◇◆◇
決着と言えば、ヒュレー国『地下都市』エリア31で行われている戦いも再開し、メアリーとカイリーは勝ち進め、今、優勝候補のボディービルダーの体格をしたソイル使いとメアリーが戦っているところだった。
メアリーは戦闘ではあまり見せてこなかったエレクトロキネシス、つまり電気を発生させる力でソイルに対抗していた。
「エレクトロキネシスか……だが、相性が悪いな」
それは言われなくてもメアリーは分かっていた。正直、誰かが優勝すれば此方は勝ちになる。あいつは個人で戦っているつもりでも、こっちは端からそのつもりではない。メアリーは自分の役割を分かっていた。別にカイリーやレインから言われたわけでもない。自分の役割は少しでもこの後カイリーに有利に繋げる為に奴の体力を少しでも多く削る。
その為には派手に広範囲に攻撃を仕掛ける。
四方から電撃が飛び、それを急いで男は土の柱を地面から生えさせ防ぐ。柱は崩れたが電撃は防げた。パワーはあっても防げる。対戦相手の男は考えた。電撃で厄介なのは速度と範囲。それに一撃でも食らえば防具でも防ぎようがないということ。
男はリングの外の土から砂を宙に浮かせ、それを集め岩ぐらいの大きさに固めていく。それを幾つも生み出し、その塊を今度はメアリーに向かって放った。メアリーは自身から四方八方に電撃を飛ばす。強い電撃はレールガンの如く岩を破壊し、残りは男に向かって飛んだ。男はその手前で土の壁を作る。直後、高電力がメアリーから一直線に放たれ、壁を貫いた。男はぎりぎりのところでサイコキネシスのシールドを生み出す。
男は冷や汗をかいた。男はこの激しい連戦でかなり疲れていた。
だが、果たしてあのメアリーという女はどうだろうか。自分と戦う前はかなり体力を温存させていたが、その貯金もかなりこの戦いに使い込んでいる。
男はそこでハッと気づいた。自分の実力を知って全力でかかっているのだと思ったが、この女、次の決勝の相手はあいつの仲間だ。俺の体力をここで消耗させようって腹か。だから決勝の為の貯金を考えず馬鹿みたいに攻撃してきてるわけか。
「分かったぜ。そっちがその気なら受けてたとう。その上で俺が勝つ! 俺がチャンピオンだ!」
男は再びパイロキネシスとの対戦で見せた大技にかかる。
メアリーはそれを見て覚悟した。
どうやら私はここまでみたいね。
後ろの観客席からカイリー達の声が聞こえる。
言わなくても分かるでしょ? あとは託したよカイリー。
メアリーの視界が砂で覆われた。
私は皆みたいに喋れない。いや、声を失ったわけではない。テロスの娯楽で私は舌がない。でも、私はそもそも喋らない方がいい。自分の気持ちをいつも上手く言葉に表せないからだ。いつもそのつもりがなくても私の言葉で誰かが傷ついた。友達でも、家族でも。だから私は喋らない方がいいんだ。喋らないことで気楽になったこともある。周りは私が喋れないと気を遣ってくれるようになってから、私は聞くことに徹した。でも、それは自分の周りに壁をつくっていたに過ぎなかった。私は孤独になりかけた。あの時、ルナとアンジェリーから突き放された時、皆が私を引き入れてくれなかったら…… 。
勝って。カイリー。
二人の試合の決着は、男の勝利で終わった。そして、次が決勝。その相手はカイリーだ。