玄武
移動する国、それがエイドスという国だ。それは『玄武』という伝説の生き物の背に国があるバカでかい生き物。この世に存在する生物の中で一番の亀だ。甲羅のように盛り上がった場所に国はある為、山のような都市がある。その天辺に城のような建物があり、政府の中心部になる。その建物から『玄武』をコントロールし移動や方向を指示している。やり方は単純。電気信号を送る。痛みというものだ。コントロールルームのある中心部から黒いケーブルのような太い線が『玄武』に巻き付いてあった。それが馬の手綱のようなものだ。そして、甲羅の周りには砲台が取り付けられており、砲台は外へ常に向けられていた。射程範囲は40キロとなる。だが、それだけではなくエイドスにもレールガンというものがあった。射程範囲は一気に200キロ以上となる。つまりその範囲に入ったものは砲撃の餌食になる。だから、誰も容易に近づこうとするものはいない。その筈なのだが、一つの黒いボートがそのエイドス国に近づいてきた。乗っているのは男のみ。鎧からしてあれは『青龍』を倒した者だと直ぐに判明出来た。当然、エイドス国はその者を警戒した。何しに『エイドス』国へ来たのか。いや、それ以前にそもそもテロス艦隊のいる海域からどうやって此方に向かって来れたのか。答えは一つしかない。この男はテロス国と繋がっている。
幹部会議室では早速その男の話題となった。
「狙いは『玄武』か?」
「まさか、真正面から向かって来ようとは……テロスからの使者ではないだろうな」
「どう見てもあれはテロスではない。エルフだ! エルフが何故テロスの使者になる。奴は危険だ! 早く始末すべきだ」
「事前に我々に連絡が来てない時点で交渉というわけではないだろう。構わん、近づこうものならレールガンの餌食にしてしまえ」
砲口が黒いボートに向けられた。
テロス艦隊の艦長はその様子をモニターで見ていた。
「玄武を倒すと言っていたが、そもそもどう近づくつもりだ?」
その男はというと、既に200キロの射程範囲内に入っていた。それでもボートに取り付けられてあるエンジンを止めず限界速度まで海の上を走り続けていた。
「来るな」
男は剣を構えた。それは重く、そして大きかった。レールガンを肉眼でとらえるのは不可能。だからこそ己のサイコキネシスで予見する。
「来た!」
男は剣を振るった。何かが剣に当たり、そしてそれは弾けた感じが手から伝わった。
また、来る!
男は剣をまた振るい、また剣が何かを弾いた。
ボートはエイドスに向かって突き進む。その間に何度も、何度も男は剣を振るい続けた。
それを、その光景をモニターで見ていた艦長は口笛を吹いた。
「なんて野郎だ。まるで戦士だ」
まさか、森に住み生きるエルフが全員あの男のような戦闘能力を身につけられるとは思えない。なら、あの男の強さはいったいどこから…… 。
その頃、エイドス国ではレールガンを剣で弾きながら近づいてくる男に驚き、また恐怖していた。
「なんなんだあの化け物は! やってることが普通じゃない!」
「いや、青龍と戦い勝った時点でもう化け物だ」
「とにかく、あの男をなんとしても近づけさせるな」
司令部から怒号が飛ぶが、しかしそれであの男を止めれるわけでもなかった。
その後も男はどんどんとボートを進め、気づけば100キロ圏内に突入していた。
「な、なんて疲れ知らずな男……いや、あれだけ撃たれ続けても尚、正確に弾き返すか」
「だが、40キロ圏内に入れば砲撃が待っている」
「いや、青龍の攻撃にも耐えた男だぞ! これはまずい! 非常にまずい! 今すぐ戦艦を呼び戻せ!」
「だが、戦艦を呼び戻せばテロス艦隊はその隙に」
「今はそれどころではない。『玄武』も移動を開始させろ! 時間を稼ぐのだ」
場所変わってテロス艦隊。その艦長のもとに部下が急いで報告にあがる。
「艦長、エイドス艦隊が移動を開始し離れていきます」
「よし!」
艦長はこの時を待っていた。エイドス艦隊は今や青龍を倒したあの男が惹きつけた。これで此方もようやく動くことが出来る。
◇◆◇◆◇
ヒュレー国エリア?? 会議室。そこではエイドス艦隊とエイドス国が移動を開始したとの報告で緊急会議が行われていた。そして、青龍を倒したあの男が生きていて、それが今度は玄武に向かったという事もヒュレーは既に把握していた。というのも、テロス騎馬隊が撤退する際に騎馬隊の服を着せ変装させた『人形師』ラファ特性『着せ替え人形』を忍ばせていたからだ。そして、ラファが人形に命じたのはスパイだけではなかった。潜入した戦艦に爆弾を設置すること。そして、ラファの人形達は誰からも怪しまれず気づかれることなく爆弾を設置し終えてあった。
そうとは知らない艦長は各戦艦に命令を出し移動を始めようとしていた。
そして……
ヒュレーに向かうテロス艦隊が一斉に大爆発を起こし、あの艦隊が海の藻屑となった。
その様子をモニターで見ていた一同は大声をあげ、それを喜んだ。
「ざまぁ見ろ」と『憤怒』のシモスは言った。
「これで形勢逆転だね。で、この後どうするつもりだターキス」と錬金術士。
すると、ターキスが答える前にシモスが口を挟んできた。
「そりゃ勿論攻めるだろ。やられっぱなしでいられるか!」
「テロス国内も注視はしている。空中都市ではレジスタンスの動きが気になる。此方としてはレジスタンスが派手に争ってくれれば攻めやすくはあるが、それでも侮れない」
「ロボット兵の数か」老人ヒュリスが言った。
「そうだ。だが、シモスの言う通り此方はそれでも攻める。テロス艦隊は撃破したが、連中はまた立て直し再びやって来るだろう。無論、その前に此方が攻めてくることは『クロノス』も想定する筈だ。だからこそ、これから作戦会議というわけだ」
「なんだ、もう案があるのか」と錬金術士は訊ねた。
すると、顔に火傷の痕がある『嫉妬』のザホスが突然立ち上がった。
何か未来を見るとザホスはたまにこうなる。ターキスはザホスに訊ねた。
「今度は何が見えた?」
「……玄武がやられる」
「エイドス?」
「エイドス国は真っ赤に燃え、あの男は生き延びる」
「なら、エイドスに船を出そう」とターキスは言った。
「なんでだよ」とシモスは言う。
「戦力は欲しい。エイドスの技術を活用するんだ」
すると『強欲』でレンジャーのデュカキスが思い出したかのように皆に訊ねる。
「そう言えば『調教師』がいないな」
それは皆気づいていた。
「『調教師』はアイアスに任せている」
ターキスはそう答えた。
◇◆◇◆◇
ヒュレー国エリア31。
リングと呼べるものは無くなってしまったが、辺りに大量の砂と、その上に一人の男だけが立っていた。もう一人の対戦相手は砂に半分埋もれ気絶していた。
これで勝者が決まり、ソイル使いが最終日に進出が確定した。
そして、試合会場の整備の為、試合が一時ストップした。
次の試合が始まるにはこれでは当分後になりそうだった。