四日目
ヒュレー国エリア31、トーナメント戦四日目の朝。とはいえ地下都市に朝日も夜もない。四回戦は午前にメアリーが出場する予定になっており、午後の最後にカイリーが出場することとなっている。レイン、ボニーは三回戦で敗北。控室のモニターではなく観客席からの応援となる。四回戦目の最初の試合は二人を負かした選手同士の対決だ。レインを負かしたレインと同じパイロキネシス使いと、ボニーに勝った優勝候補のソイル使いの選手。土と炎の対決だ。恐らくお互い前回の試合でエネルゲイアを披露したので最初からエネルゲイアを使ってくるだろうとカイリーは予想していた。一方、自分の対戦相手はサイコキネシスを使わず格闘同士の対決で四回戦目に出場した幸運の選手。多分、自分の力を隠そうという演技ではないだろう。となれば、勝ちは見える。自分は恐らく最終日まで残れそうだ。準々決勝、準決勝、決勝を一気に決める。つまり、優勝するには強敵を三戦連続で勝たなければならない。決勝くらい特別日をもうければいいのにと思うのだが、三戦連続というのにドラマが生まれるのだとファンは語る。そこはそういうものなのかと諦めるしかない。
既にリングの方からは観客達の歓声が響いていた。カイリーは控室にあるモニターでその様子を見守る。あの強い二人が決勝ではなくここで潰し合ってくれるのは救いだった。
◇◆◇◆◇
その頃、エイドス国の幹部会議室では既にヒュレー側にいた伝説の生物白虎が死んだという報告を受けていた。
「白虎をやった功績はあるもののテロスはヒュレーに思いきった侵攻は出来ないだろう。騎馬隊は隊長の生死は不明でも失ったことにはかわりない。数も減らし隊長無き騎馬隊に意味は無い」
「テロス国の中心ではレジスタンスが空中都市に攻撃を仕掛けたようだが、あちらの誘き出しは上手くいったのか?」
「いや、報告によれば成功はしていないようだ。既に人間の奴隷を使ってレジスタンスの仕業と報道させるだろうが」
「アンジェリーの件はどうなった? まだ、あの女を殺っていないのか?」
「報告によればアンジェリーはレジスタンスと行動しているようだ。不用意には近づけられないと。その方が懸命だろう。テロス国の連中に悟られない為にもこのままスパイにはアンジェリーの動向を注視させよう」
「テロス国は今後どう動くと思う?」
「それは神のみぞ知ることだろう。先にヒュレーが動くかもしれんし、どうなるかは分からない。だが、双方どう動こうと我々がその背後に待機していればいい。あとは寝首をかかれないように警戒すればいい。テロスの『クロノス』の狙いは間違いなく全世界を『クロノス』の支配下にすることだ。それだけは絶体に阻止せねばならない」
かといってヒュレーと連合を組み挟み撃ちにして一時的に戦力を削ぎ落としてもテロス国にはロボット兵が沢山ある。あの国を落とすにはテロス国内で分断かトラブルが起きればチャンスは見えてくる。
その頃、首輪をつけられた元エルフの王はボートで『移動要塞』エイドス国へ向かっていた。
◇◆◇◆◇
ヒュレー国地下都市エリア31。
遂に四回戦目が始まり、パイロキネシスとソイルの激闘がリング上で行われていた。
まず、試合開始の合図と共にパイロキネシス使いはレインを倒したように炎を噴射させ、それをリング上から巨大な土の壁で防いだ。だが、高熱ということもあってか炎に耐えられない壁は真っ赤になり溶け始めると、あっという間に壁を貫通した。だが、その時には例のボディービルダーのような男はリングから消えていた。正確にはリングの下にいた。リングに穴をつくり、そこからトンネルをつくり避難していた。
そして、大きな揺れが起こるとリングに亀裂が走り始める。パイロキネシス使いはサイコキネシスで浮上すると、宙から躊躇なくリングとその穴に炎を浴びせ始めた。
観客達はそれを見て興奮し盛り上がった。勿論、何が起こっているのかほとんどの人は知らない。
「今年は決勝前から凄い戦いばかりだな!」
「本当にそうだな!」
観客席にいたボニーは隣にいたレインに訊ねる。
「あの炎の奴が勝つと思う?」
「どうだろうね。まだ、お互い本気出してる感じしないけど」
「そうなの?」
リングが熱せられ真っ赤になり溶け始めると、突然リングが弾け熱した瓦礫が火山のように吹き飛んだ。そして、リングの中央位置から巨人のような腕が地中から現れ、拳が開くとそこからあの筋肉男が現れた。
そして、宙には既に砂が舞っていた。砂は徐々に増え始める。
「一粒の砂は俺の意思だと思え。少数の粒でもお前の肺に入れば殺すことだって可能だ」
「だからなんだ。その前に溶けてなくなる。リングが無くなったように、お前が立っている土の手も溶かしてやろう」
「やれるものならやってみろ!」
ソイルの男は右手をあげる。
「砂丘世界」
そこから先、控室のモニターで見ていたカイリーとメアリーは言葉を失った。モニターは砂一面で何も見えなくなると、映像が途切れてしまった。だが、一瞬だけあの砂の隙間から別世界が見えた、そんな気がした。あれが気のせいであったらそれでいい。そうあって欲しいとカイリー達は願った。
◇◆◇◆◇
その頃、ルナは船の中にいた。しかし、エイドス国行きではない。北半球にある地に向かう船だった。既にエイドスを敵視したテロス国はエイドスと行き来する船を完全に止めていた。
北半球についてはほとんど知らない。船に乗る戦争から逃げる人達の表情から不安が見てとれた。その中には子どももいた。自分もその一人だ。
誰も安定しない生活に不安を感じるもの。でも、北半球ならテロスもヒュレーもエイドスもいない。寒いけど。
だが、北半球はヒュレーもエイドスもテロスも諦めた土地であるということを忘れてはならない。資源も少ないその土地と極寒以外にまだ四種族が諦めた理由があったということを、まだルナ達人間は知らなかった。