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カイリーと緑のトンネル  作者: アズ
第2章 龍の巣と時代の幕開け
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VS白虎

 ここはテロス国、時刻は夜。昼間に活動するテロスの民や生き物はすっかり床に入り、今は夜の生き物だけが活動する時間帯。そんな時間帯の森で複数の馬の足音が響いた。馬に跨がって急いでいるのは人間、つまりレジスタンスだった。彼らはアジトから空中都市に向かってこの時間帯を狙って走り続けていたのだ。馬なら道なき森も走ることが出来る。だが、夜の森。明かり無しでは命に関わる。しかし、レジスタンスはそもそも暗視ゴーグルをつけていた。その馬の列の両サイドにはバイクが走った。

 空中都市までは道路があるが、空中都市に続く道路はテロス兵が監視している。だから、危険な手段でもこれが最短で確実な方法だった。

 森には獣がいるがバイクの音でむしろ近づいてはこない。

 しかし、空中都市に近づいた時にはバイクの音は最小限にしなければならなかった。警戒が厳しくなるからだ。そこで馬達が先行する。バイクはスピードを緩め、馬達が過ぎ去る。

 そして、馬達も暫く走り続けてから、最初の一頭が様子を見に群れから離れた。

 レジスタンスはその者が戻って報告があるまでは空中都市へは近寄らず待機することとなる。

 さて、暫くして様子を見に行った馬が戻ってきた。馬に跨るは若い青年だ。彼は真っ先に群れの先頭にいる幹部達に報告する。

「大変です。空中都市から煙があがっています」

「なんだと!? どこだ」

「いや、そこまでは分かりません」

 空中都市は地上から上にある。そして、空中都市を上から見下ろせるような高台は地形的に存在しない。かといってドローンを飛ばせば上空を常に監視する軍に直ぐに見つかってしまうだろう。

「まさかテロス内で暴動が起きたのか?」

 幹部の一人がそう意見した。可能性としては理不尽なスコア操作で不満を持った者たちや戦争が起きてしまったことへの政府に対する不信感等々考えられるものはあるが、どれもAIが治安の管理を怠るとは思えない。特に空中都市は監視社会でもある。不審な行動すらあの都市では難しい。だとしたら、その煙はAIが認知している可能性の方が高い。

「いや、アンジェリーが言っていた罠かもしれない」

 そう言ったのはディーンだった。

「罠?」

「例えばあの火災は俺達レジスタンスの仕業だったと言ったら世間は信じるだろう」

「まさか」

「これで連中にとって口実が出来る」

「それじゃディーン。レジスタンスが向かうのを知っていたってことになるじゃないか」

「いや、知っていたんじゃなくそう連中が仕向けたんだ。アンジェリーはそれで俺達が行くのを止めた。これは罠だってね。だが、うちのリーダーはとっくにそれを見抜いている。問題は『クロノス』は次にどう動くかだ。俺達はテロスを相手にしてるんじゃない。AIと戦ってるのさ」

「……」

「分かってる。人間はそれで負けた。今まで人間という知能を相手に戦ってきた。だが、これからはそうじゃない。俺達はAIに勝つ戦いをしなくちゃいけない」

「だが、どうやって」

「そこでリーダーは手を打ったのさ。まずそれにはテロスにはAI『ゼウス』から『クロノス』に乗り換えてもらう必要があった。性能は『クロノス』のあとから生まれた『ゼウス』の方が勝っている。そしてメインAIから『ゼウス』を切り離す」

「それでアンジェリーが……」

「そうだ。だが、アンジェリーにも知らされていないミッションが他にも動いていたのさ。ここからは時間もないから結論だけ言う。リーダーが次に打った手はテロスにある複数のAIの中に此方に味方するよう裏切り者を仕込んでおいたことだ」

「まさか」

「AIにはAIってね。それがリーダーの作戦だ」

「だったらどうしてリーダーは俺達にその事を伝えなかったんだ?」

「悪いな。リーダーには空中都市手前までは黙っておいてくれって言われていたんだ」

「それはこの中に裏切り者がいると?」

「いや、そういうわけじゃない。念の為だ」

「それで、リーダーはお前にだけは伝えたのか」

「仕方ないだろ。誰かは間を取り持たなきゃならないんだから」

 リーダーからこの役を使命された時はディーンは嬉しかった反面、他のメンバーから色々と言われる嫌な役を押しつけられたとも思った。だが、他の幹部ではなく幹部の中では若い自分が選ばれたのも理由があった。それは仲間同士の優劣争いを避ける為でもある。

 本当ならリーダーの口から説明して欲しいものだ。だが、リーダーが今最前線で動くわけにはいかない。テロスが、AIが一番欲しているのキングの首なのだから。

「それじゃ、これからどうするのか指示をくれ」

 言われたディーンは頷いた。




◇◆◇◆◇




 その頃、ヒュレー地上では激しい戦闘が続いていた。次々と侵入してくる騎馬隊を地上部隊と交戦、双方の犠牲を出し、地上には多くの血が流れた。また、森の方では火災が発生し、それは広範囲に広がり、その森に生息していた生き物達は避難を余儀なくされた。せっかく長い間、人間がいなくなり生き物達だけの楽園がそこにあったにも関わらず、それが戦争によって簡単に奪われてしまった。もしや、龍は長い長い時間を掛けて再生しようとしていた自然の守護者だったのかもしれない。ともあれ、その龍はいない。かわりに伝説の生物、白虎が侵入する騎馬隊を次々と食らっていた。だが、黒い鎧の騎馬兵はその素早い白虎の動きを目で追えていた。そして、その牙が此方に向かった時、黒の騎馬兵は剣でそれを受け止めた。

 白虎は素早く後退し距離をとった。黒の騎馬兵が漂わせる黒い霧が白虎に近づこうとしたからである。

「白虎、あの霧に気をつけろ。あれは単なる霧じゃない」

 ラリスはそう言った。だが、黒騎士はこう答える。

「気をつけるのは霧だけでいいのか? その霧は目に見えているだけで視覚ではとらえることが出来ないものにはどう対応する?」

「勿論見えてるよ。バカにすんな。霧に触れていないその辺に生えてる植物が枯れた。それがあんたの能力なんだろ?」

「……」

「だけど、それにビビって近づけなかったらいつまでたってもあんたに触れられないってことだ。それじゃあんたを倒すなんて無理だ」

「白虎なら多少の無理も出来るだろう。だが、それに跨る生身のお前はそうでもあるまい」

「心配なら必要ない。さっきも言ったけどあんたはこの子の餌確定。餌は黙って食われればいいの」

 黒騎士はラリスに恐怖を与える為にそう言ったのだが、それでラリスが恐怖を感じることはなかった。

 黒騎士は剣を構え直す。小細工は無意味と分かれば確かにこの女との会話は不要。

 黒騎士は走り出した。

「え……嘘でしょ!?」

 黒騎士は逆方向に、脱兎のごとく走りっていた。

「かの黒騎士が敵を目の前に背を向けた? 白虎! あいつの首を食いな」

 白虎は言われるがまま走った。黒騎士より速く。

 黒騎士と白虎の差が一気に縮まったその時、黒騎士は片足を軸に方向を変えながらそのまま剣を振るった。まさに首を狙う敵を我が剣で裂く為に。

 だが、敵は既に首ではなくその剣を持つ腕を狙っていた。

 片腕が空高く飛んで血が飛び散った。

「白虎と私は言葉を交わさない。そもそも白虎は言葉を理解していない。テレパシーで繋がってるの。あんたは私の言葉に惑わされ騙された。私があんたの首を狙うと思って振るった腕が狙いだとも知らずに」

「上手くいかないものだ……だが、結果には満足している。そちらが近づいてくれたおかげでお前は私の領域に踏み込んだ。お前の肉体は既に穢れに触れ、それは死をもたらすだろう」

「残念だけど相打ちにはならないかな」

 そこに白髪の老人が現れた。

「いつの間にそこに?」

「気づかないのも無理ないよ。私もサイコキネシスで居場所探れないくらい上手く隠れるんだもん。前世は忍びだったんじゃないかってくらいにね」

 ヒュリスはラリスにヒーリングをかけた。

「というわけだから、あんたの負けってことであの世で悔いるといいわ」

 白虎は大きな口を開くと、その黒騎士をかぶりついた。

「どう、黒騎士のお味は?」

 その時だった。白虎の体内で爆発が起こった。

「なっ!?」

 血を大量に吐くと、白虎はその場に倒れた。

「まさか……わざと食われたっていうわけ!?」




 その上空を飛ぶ黒いドローン、そのカメラから遠い地であるAI『クロノス』に送られていた。



〘素早い白虎を確実に仕留めるには内側からの攻撃に限る。だが、鼻のいい白虎のことだ。直ぐ狙いを嗅ぎ分けるだろう。黒い霧を漂わせたのは白虎にだけ通じる異臭。それで白虎の鼻をおさえられる。あとは油断した敵に餌とし食われるのみ〙



 ラリスは白虎を呼び続けた。だが、白虎の意識が戻ることはなかった。

 伝説の生物白虎はこの戦で命を落とした。

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