『死の島』
エリア?? そこには既に招集を受けた元大罪人達が集っていた。どいつも社会に多大な影響を与えヒュレー以外の国からもマークされるような存在。色欲の二つ名をつけられた『錬金術士』もそのうちに入る。
短く刈った白髪頭に杖をついた老人『傲慢』のヒュリス、彼は『医者』というヒーリング使いだ。
鋭い目をした大男は『憤怒』のシモス。見た目に合わない『庭師』だ。
ハゲ頭に痩身の男は『怠惰』のラファ『人形師』だ。
以上が前回の会議に現れたメンバーになる。以下は錬金術士にとっても久しぶりの再会になる。とはいえ、かつての親友や家族と出会うような感動的な喜びがある再会ではない。むしろ、お互い会わないままの方が良かったと思っていた。全員が一同に揃うということはそれだけの事態が起きたということで、不吉だからだ。
中肉中背に顔に火傷の痕がある男『嫉妬』のザホスは『占い師』 。
両手はポケットに突っ込んでうつ向いている得体の知れない不気味さが漂う黒のフードを深く被った男は『強欲』デュカキスで『レンジャー』だ。
ヒュレーの中では小柄ですらりとした体形に発育した乳房の若い金髪ショートの女は『暴食』のラリスで『調教師』だ。実はエリア1で白虎の背に跨がってテロス兵を殺し回ったのはこの女であった。
そして、癖のあるこの面々を指揮するのはアイアスの兄、氷のエネルゲイア使いターキスだった。アイアスはこの防衛戦の任務に選ばれなかった。その理由はアイアスには分からないが、自分は兄に信用されていないと思っていた。それが不満でもあった。
会議は七名とターキス部隊が地上にあがり、空からのテロス騎馬兵と防衛戦をするというもの。
『龍の巣』にはかつてそう呼ばれる前の島は地上では人間が住んでいた。資源のとれる島に大勢の労働者が移り住み街が出来てそれなりに発展していた。だが、そこで原子力発電の事故があって、そこは封鎖。既に四種族が現れる前から廃墟となっていた。石棺と、廃墟となった人間の街があるだけで、そこに住んでいる者はいない。いるのは生き物達だけ。既に放射線の脅威はないが、今度は空から現れた龍がその地上を住処にした。それが『龍の巣』だった。今、龍がいない島はその前の『死の島』に戻った。まるで時が止まり、島の絶壁沿いには糸杉の森が風に揺れ動いている。
敵を迎え撃つなら適した場所が数カ所ある。ターキス部隊の狙撃手をそこに配備し、サイコキネシス使いは七名が対応する。
◇◆◇◆◇
その頃、エリア31では途中で止まっていた試合が再開されていた。
ボニーがリングに上がる時には既にボディビルダーのような肉体の男がリング上で立っていた。今回の注目選手。すると突然ボニーの頭の中から知らない男の声が響いてきた。
降参しろ。時間の無駄だ。
ハッキリとその男から言われた感じだ。いや、これはテレパシーだ。
ボニーはそこで男にテレパシーで返す。
嫌だと言ったら。
男は眉をピクリと動かした。
男はそのままテレパシーで会話を続けた。
痛い目では済まない。これは遊びじゃないんだ。ガキは帰れ。
二人の沈黙で行われる会話は当然観客席には伝わらない。二人の間に緊張が走っていると勘違いが稀に起きるだけ。
だが、モニターで見ていたカイリーは一番に気づいた。
「テレパシーで会話しているんだ!」
それを聞いたレインが驚く。
「それってボニーの錯乱作戦が通じないよね」
それは正直カイリーは期待していなかった。サイコキネシスで上級者なら頭に入ってくる声を追い出せるし防げるからだ。
審判が二人の間に現れ、両者を見る。それから試合開始の合図をする。
「始めっ!」
審判の合図の直後、沢山の言葉がボニーの脳内へと一斉に送り込まれた。それは冷たく、呪いの言葉だった。それはボニーの心深くに突き刺さるもので、傷つけるものだった。
ボニーは両手で耳をおさえだした。それに意味などないことをボニーは忘れていた。声は何一つ発せられていない。これはテレパシーだ。
ボニーは次第に苦しくなり膝をつける。観客席からは壮絶とし、静まり返った。何が起きているのかまるで分かっていない。試合開始の合図が審判によって宣言されたにも関わらず、両者は動こうとはしなかったからだ。
ボニーは涙を流していた。沢山の嘘と、言葉の刃がボニーを襲った。侮辱や人格否定、止まらない悪意ある言葉のオンパレード。
ボニーは立ち直れなくなりそうになり、もう逃げ出したくなった。
対戦相手は自分の声以外に男や女、年寄りや子どもといった声も相手の脳内に変換して複数同時に流す脅威のテレパシー能力を持っていた。だが、それはこの男にとっては序の口だった。そして、この程度で女は倒れる、そう男は対戦相手のボニーをそう見下していた。
実際、ボニーは敵の声を一つも追い出せていなかった。
「やめて! やめて!」
ボニーにはもう、そう泣き叫ぶ他なかった。
男はそれを見て良からぬことを思いつく。それは悪魔の囁きというべきか、とにかく男は悪魔のような考えを思いついたのだ。
このまま女を精神崩壊させてやろう。仲間はどう思うか? そうだ、どうせなら仲間の連中の声で攻撃されたらどうだ?
男はカイリーやレインの声でボニーの脳内に語りかける。
やっぱりボニーは駄目ね。信用していなかったとはいえ、ここまで役立たずだなんてね。
本当はお前のこと足手まといとしか思っていなかったから。
その時、ボニーの中でカチッときた。
「やめて。私の仲間、カイリーとレインが私にそんなこという筈がない! 私の仲間を汚すような真似しないで!」
突如、突如としてボニーの脳内に響いた言葉達が遠のいた。
「私の頭の中から出ていって!」
ボニーの怒りがサイコキネシスを上昇させた。
声は更に遠のき、次第に聞こえなくなっていった。
モニターで見ていたカイリーは驚いた。
「ボニーは自分の力で声を追い払った!」
男は声が弾かれ更には防がれたことでボニーへのテレパシーを止めた。さっきまで追い込まれていたガキの勢いがついた。
「声を防いだくらいで調子に乗るなよ」
男は精神攻撃から直接攻撃に切り替えることにした。元々、男はそのタイプだった。
まずは50%の力でサイコキネシスを放った。その威力でも、車体のボディーを凹ませる程。だが、ボニーはそんな男と真っ向からぶつかってきた。
ボニーもサイコキネシスを送り、両者のサイコキネシスが中央でぶつかり合う。男は面倒だとサイコキネシスを送り続け相手を押し返すことにした。だが、ボニーのサイコキネシスはそれに堪らえようと必死だった。
「俺とやり合うつもりか?」
男は70%に引き上げた。勢いが増し、ボニーはおされリングの端まで追い込まれていく。
男はそれを見てトドメと言わんばかりに瞬間的に90%まで力を引き上げた。ボニーにとってそれは絶体絶命だった。
……そう、だったのである。
サイコキネシスを送っていた男の手がいつの間にか凍っていた。
エネルゲイア!? しかも、氷だと!? ターキス部隊隊長と同じクリオキネシス使い。アクアじゃなくよりによって氷だと!
男は手が使えものにならなくなった。ヒーリングを使えない以上、男は手を使わずに戦い続けなきゃいけない。
審判が男に訊ねる。
「降参しますか?」
男は殺意を審判に向けた。
「二度と俺にそんな質問すんな」
男はそう言うと、覚悟を決めた。
突然地揺れが起きはじめ、二人が立つリングに亀裂が走った。
「じ、地震!?」
「いや、揺れはこのリング上だけだ。それが俺のエネルゲイアだ」
「!?」
モニターで見ていたカイリーは男が確かにエネルゲイアと言ったのを聞き逃さなかった。だが、それよりボニーのあの力だ。
「あれはクリオキネシス」
「ボニー、遂にエネルゲイアが使えるようになったんだ」とレインは喜んだ。
「でも、相手もエネルゲイアを使うみたいだよ」
「でもあれは何のエネルゲイアだ?」
「恐らくはソイルだろうね」
「土属性か」
カイリーは頷いた。