三日目
戦争三日目の朝。テロス国、立入禁止区域の森の地下、レジスタンスのアジト。6時に起床したアンジェリーはベッドから出ると、他の二段ベッドに取り付けらてある緑のカーテンが全て開き皆いなくなっているのに今気づいた。自分、そんなにぐっすりと眠っていたのかと心臓が跳ねるような驚きと焦りで、駆け足で皆の元へ向かう。隊員達は既に出動準備に忙しそうだった。そこにディーンを見つけアンジェリーは声を掛けた。
「ごめん、遅れた。何事?」
「いいんだぜ、もっと休んでいても。お前は他の連中じゃ決して出来ない任務を一人で果たしたんだからな」
「まだ、私達の戦いは終わったわけじゃないでしょ。気遣いは不要よ」
「分かった。実は夜中の最中に二つ大きな動きがあった。まず、二カ国の戦争だが想定通り真夜中にテロス軍の騎馬隊が艦隊から出撃した。麒麟を使って空から奇襲を仕掛けたつもりだったが、ヒュレーは既に先回りして待ち構えてな。『龍の巣』の地上戦が始まった。朝には騎馬隊は撤退、両者ともに被害を出した。テロス軍艦隊は依然、距離はそのまま。エイドス艦隊も同様だな。エイドス国の方は夜中は移動を止め朝には再び移動を開始している。これが一つ目だな。二つ目は空中都市付近のスラム街で火災が発生した」
「!?」
テロス最大の空中都市、その都市に向かうルートが四つあるが、そのルート付近の地上に人間が住むスラム街がある。物資が通るその場所では裏取引等の裏商売が蔓延っていた。
「テロス軍が空からの消火を行い現在はほとんど消火し終えている。だが、被害の方はまだ分かっていない。恐らくはかなりの被害になるだろう」
「放火?」
「分からないな。その日の夜は風も強かった」
「リーダーの見解は?」
「テロスがやったと見ている。証拠はまだないが」
「証拠はいらない。あいつらだよ。でも、これは罠よ。レジスタンスを誘き出す為の」
「『クロノス』か」
『クロノス』とレジスタンスの目標は、『クロノス』は『ゼウス』にかわりメインのAIとなり、最終的にはテロスのみならず全世界、全種族の頭脳になること、対するはレジスタンスは自分達人間の国を建国すること。その両者にとって都合のいい条件がテロスとヒュレーとの戦争である。『クロノス』は目的を果たす為にヒュレーを真っ先に足掛かりの一歩と決めた。レジスタンスとしてはテロスが人間から外に向くことで厳しかったレジスタンスの監視が減り活動出来る幅が広がる、ロボット兵も戦力も今や外に向けられている今、レジスタンスと戦争しているわけにはいかない。だが、『クロノス』が我々の味方というわけではない。あくまでも両者の利害の一致というだけだ。
だが、早速も『クロノス』は一手を打ってきた。エイドスと睨み合いながらヒュレーへの攻撃を止めないどころか、レジスタンスまで一気に相手にしようというのか。
「目論見が甘かったか?」
「いや、違うと思う。ヒュレーとは夜に戦闘があったのはあちらの出方や戦闘を分析する為の襲撃だったと思う。多分、次の騎馬隊の出撃でだいぶ修正してくる。そこがヒュレーにとって正念場になる。最悪、ヒュレーは甚大な被害を出す可能性もある。戦艦はエイドス艦隊を止める為。つまり、動かせる兵力はまだある。その間にレジスタンスを誘き出し、袋たたきにするつもりよ」
「だが、リーダーは変わらないぜ」
「どうして」
「それがリーダーだからさ」
「駄目よ! 人間の国を建国するんじゃなかったの? ここで出ても、未来は変わらない」
「リーダーもそれくらい分かっている。だから、策があるんだろうよ」
「?」
◇◆◇◆◇
その頃、ヒュレーのエリア31では三回戦の準備にカイリー達は備えていた。トーナメント戦は五日間行われ、最終日は準々決勝、準決勝、決勝を決める。だから、三回戦と明日の四回戦は特に強敵と当たることになる。もし、サイコキネシス使いが他にもいるなら、この三回戦と四回戦に誰かは当たる。
「皆、無茶だけはしないこと」とレインは言い、それに皆が頷いた。
「正直、全員が四回戦行けなくても、この中の誰かは明日までいけると思う」
カイリー、レイン、ボニー、メアリーは偶然にも三回戦まで被ることはなかった。だから、全員が四回戦行く可能性はないわけではない。ただ、気になるのはボニーの対戦相手だ。そいつはボディビルダーのような男で、前回のトーナメント戦では3位だった。それは前回のトーナメント戦の記録を見て分かった。
私はレインにそっと近づき耳打ちした。
「ボニー大丈夫かな?」
「無理はしないよう言ったんだし、大丈夫だと思うよ」
「分かった」
ボニーのサイコキネシスは相手に直接語りかけるテレパシー能力。これ事態は攻撃力はないものの相手の隙をつくることが出来る。攻撃に転じたサイコキネシスの威力が弱いボニーにはサポート系は合っていると思う。ただ、個人戦のトーナメント戦ではボニーの戦法は不利だ。
あとは武運を祈るだけだ。
◇◆◇◆◇
同時刻エリア??
既に会議を終えた色欲の錬金術士が部屋を出るとアイアスが待っていた。会議は昨夜の件で緊急会議がかけられていた。
「で、何か進展はあったんだろうな」とアイアスは訪ねた。
「恐らく次の夜本格的にテロスは仕掛けてくる。それを見込んで今回、我々が遂に地上へと出撃命令がくだった」
「まさか七人全員か!?」
「当然の決断だろう。指揮はお前の兄だ」
「っ!」
「兄のエネルゲイアは確か氷だったな」
「ああ、そうさ。兄はクリオキネシスだ」
「兄が氷で弟は水か。兄弟ってだけでこうも似るもんなのか」
「偶然だ」
「何故兄と距離をとる」
アイアスは色欲を睨んだ。
「いいか、詮索はするな。それより衰えていないんだろうな錬金術士」
「誰に言ってるクソガキ」
「まさか侵入者を倒したぐらいで実力を示したつもりじゃないだろうな」
「生意気な」
「そう言えば、お前が倒したテロス兵、妙な死に方をしていたがあれは何だ」
「呪具さ」
「やはりか。だがそれには『闇』の力の手が必要な筈だ。『闇』のエネルゲイアなんてそういない。どうやった?」
「いろんなツテがあるんだよ私には」
「誤魔化す気か? 何を隠しているかは知らないが絶対に突き止めるからな」
「そこまで必死になることかい?」
「当たり前だ。『闇』のエネルゲイアだぞ。数少ない情報を得ようとするのは当然だろ」
「そうかい。精々頑張ることだね」
錬金術士はそう言った。だが、アイアスは予想をしていた。あのタイプの呪具となると、その闇は死霊を扱う系か。エネルゲイアは使い方を間違えれば自分にも降りかかる。例えばパイロキネシスの火は強力な武器になるが、作用として自分まで燃やし兼ねない。エネルゲイアの熟練度には相当の期間が必要だ。死霊となると死者からの助言や協力を得るだけでなく攻撃としても防御不能の一番厄介な力だ。まず、サイコキネシスでは防げない。それだけで強力だ。だが、一方で自分自身が死霊に取り憑かれるというリスクがある。そんな闇のエネルゲイア使いなんて兄から嘘か本当か、その一度しか聞いたことがない。かつて人間の女でそのエネルゲイア使いがいたらしい。だが、その女を恐れテロスが討伐隊を組みその女を討伐したそうだ。だが、その女は死ぬ直前、自分は不滅だと言った。自分は別世界へ行き来出来る。それは肉体が滅び自身が死霊となってもだと。新たな肉体を見つけたら再びお前達の前に現れ必ず復讐してやると。この話しに確証がないのは、討伐隊が組まれた話しも、それが誰かも、またそんなエネルゲイア使いがいたという記録さえないからだ。でも、口伝だけがひっそりと続いていた。
色欲がそんな使い手を手中に入れない筈がない。いや、既にしているのか? でも、そうなれば奴の家を調べられると奴も分かっている筈だ。
どこへ隠した? だが、闇は強ければ強い程、隠せないものだ。色欲、分かっているんだろうな。見つかれば、大勢が狙うだろう。そうなれば、お前じゃ独占しきれんぞ。