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カイリーと緑のトンネル  作者: アズ
第2章 龍の巣と時代の幕開け
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ルナ

 戦争が始まって二度目の黄昏時。ヒュレー国、テロス艦隊に動きはなく膠着状態に陥っていた。というのもエイドス国が移動を始めヒュレーへ向かい出したからだ。それには両国の戦争を止める動きに思える。実際、エイドスはヒュレー、テロスに対して停戦協定を呼び掛け、エイドスはその中間役を担おうとしていた。ただ、両国がそれを受け入れるかはまだ先行きが不透明であった。




 ヒュレー国、エリア??

 アイアスは頭を抱えていた。それは二日続けて行われた会議の内容を色欲の錬金術士から聞いてしまったからである。

「まさか……そんなことが本当に起きるなんて……」

「だが、本当の話しさ。これは間違いない」

 アイアスが聞かされショックを受けたその内容とは、世界の資源の宝庫と呼ばれるこのヒュレー国で、採れる資源の量が年々減少傾向にあり、そのペースが早まっているというものだった。そして、あと百年以内には資源は枯渇する試算が出ていた。

「しかも百年というのは採掘量を減らし資源の再利用を優先させた場合の話しだ」

「どうしてだ? 世界の資源がこのヒュレーに集まっているんだぞ」

「我々は貪欲になり過ぎた。結果、この惑星の資源を食い潰す勢いだったことに今さら気づいた。だが、時は既に遅し。我々に猶予はあまり残ってはいない」

「将軍はなんと?」

「政府との話しだと、海域の調査とまだ手つかずの北半球の土地の調査をし、新たな資源を見つけることになったようだ」

「無駄だ。あそこは既に50年前に調査を終えている。資源になるようなものはなかった。つまり、打つ手はないってことだ」

「だが、それでこの国が滅びるわけではない」

「なら、停戦協定の方はどうなった? 協議に参加するのか?」

「難航しているようだ。テロスもこのまま続けても背後のエイドスを警戒するなら、思いきった侵攻は暫くは出来ないだろう。問題はAI『クロノス』がどう反応するかだ。テロスが停戦協定に応じるか返答しない限り、此方も直ぐにはエイドスに返事が出来ないでいる」

「最悪だな。テロス国内の状況はどうなってる? 情報くらいはあるんだろ」

「まぁね。あっちはあっちで大変みたいだ」

「ん?」

「テロス国内で匿名の誹謗中傷や陰謀論が飛び交っている。更にプロパガンダも凄いな。あの国では最早正しい情報を得るのは難しいだろう」

「早速AI『クロノス』が仕掛けてきたのか」

「ああ。国民は既に『クロノス』の思い通りさ。不都合な奴には嘘の情報を拡散させ信用を落とし、プロパガンダで『クロノス』の重要性を理解させている。ここまでくると、誰が敵なのやら」

「誰も『クロノス』を止めようとする奴はいないのか?」

「どうだろうね。いたとしても『クロノス』に気づかれずに果たして実行可能かどうか」

 アイアスは前途多難だと聞きながら思った。例え『クロノス』を停止させた後、テロスは再び『ゼウス』に戻るだろうか? それに対して『ゼウス』はどう思うだろうか。もしくはテロスはAIのない世界を、その道を選ぶだろうか? これまで、AIに質問すれば全て答えを貰って生きてきたテロスが今度は自分達で考えて生きていかなければならなくなる。社会や政治的にも影響は大きいだろう。




◇◆◇◆◇




 同時刻、テロス国とある街。そこでは職を失ったルナが身支度を終え明日に備えていた。ルナとは、テロスに捕らえられカイリー達と同じ共同部屋で奴隷としてロボットの修理作業をしていた。そして、襲撃事件が起きどさくさに紛れ脱走を決行。それからカイリー達と別れルナはアンジェリーと新たな生活の為にこの街に来ていた。そんなアンジェリーは突然消えて、それから数日が経過していた。自分一人だけになったルナは仕事を続けるつもりだったが、解雇を告げられ現在無職になっていた。

 テロスがヒュレーと戦争を始めたのはつい最近のこと。あまりの突然の出来事やAIが『クロノス』になってからというもの、テロス国内では大混乱となっていた。

 帰宅途中も、テロスがロボット兵に拘束されそうになり、大声をあげながら抵抗していた。

「俺は悪くない! 何もしてない!」

 聞いた噂では、AI『クロノス』が都合の悪い反乱分子となり得るテロスを次々に拘束させているとのこと。それではまるで恐怖政治そのものだと聞いたルナは思った。

 この国に長居はしない方がいいわね。

 停戦協定が上手くいかなければ戦争は長期化する。最悪、徴兵が始まるだろう。

 だから、港に行ってエイドス行きの船に乗ってこの国からおさらばする。明日がその日だ。

 気づけば外は夜になり暗闇に沈む。

 ルナは横になり目を閉じると眠りに入った。




 あんたなんて生まれてこなきゃよかったのよ!



 母親の声が木霊する。

 どうして、そんなことを言うのかその当時の自分には分からなかった。




 どうして生まれてきたんだかねぇ。飯ばっかり食いやがって。




 子どもの泣き声。そして、それを上回る大声で怒鳴り散らす母の声。



 ああ! うるさいうるさいうるさい!!!



 母親は突然自分を置いていなくなった。

 自分の泣き声に代わりに現れたのは捕らえにきたテロスだった。




 静かな夜、ルナの頬に一つの雫が流れた。それは暗闇の中で光って見えた。

 あの後、母はどこへ消えたのか分からない。でも、今なら分かる。自分が邪魔だったんだ。だから、いなくなったんだ。生きていくにも、二人分を稼がなきゃいけなかった。不安定な収入ではそれも大変だ。父親の顔は見たことがなかった。母はよく仕事の終わりは疲れていた。肉体的にも精神的にも。まるで命をすり減らすかのように。多分、母の仕事は自分と関係があるんだと思う。だから、望んだ出産ではなかったんだ。でも、中絶する金もなく、母は仕方なく自分を生んだ。だとしたら自分は何故この世に生まれたんだろうか。その問いにずっと悩むより早く答えを知りこの悩みを終わらせたいという願望がある。でも、それは叶いそうにない。これなら中絶されて死ぬ方がマシかもしれない。これは反出生主義でも悲観的でもなく、この世界のどこにも自分に優しい場所がなくて辛いのだ。だから、自分を強くするしかなかった。

 でも、やはり自分は弱かった。弱いままだった。

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