トーナメント戦・二回戦
一攫千金を夢みてカイリー達はトーナメント戦二日目をむかえていた。優勝すればその金でこの場所からおさらばする。そして、私達だけの家を持つ。レインの提案に全員が乗り、全員がエントリーをした。私達にはそう、行って帰る、その帰る場所がなかった。勿論、住む場所がないわけではない。だが、そこは狭く、一緒に暮らしていくには不便だった。それにヒュレーでは太陽の光も外も無い。そんな檻みたいな場所は家とは呼べなかった。かといってエイドス国かと言えば違う。テロスは論外。この惑星には四種族が支配が及ばない土地がある。四種族は南半球に集中している。一方で寒い地域が多い北半球ではまだ支配されていない島や大陸がある。大陸に関しては環境が厳しいからという理由がある。島に関しては人間がそこで村を築いているという噂がある。私達はそこへ行こうと計画していた。実はルートも考えていて、エイドス国から北大陸に向かう調査船が出るのだが、その船へ乗船し、大陸から北半球の島へ出る船に乗って移動するルートだ。それしか今のところはなかった。これも噂になるが、レジスタンスが出す船ならテロスからの直接ルートもあるらしいが、不確実なので選択肢から除外した。
というわけで全員やる気満々なわけだが、既にボニーとメアリー、レインは今日の出場を終え、見事全員勝利し翌日の三回戦出場が決まった。私の出場はかなり後ろの方で、だいたいその時間帯で翌日の出場者がだいたい決まるかたちになる。
トーナメント戦は計五日間行われ、最終日は準々決勝、準決勝、決勝を一日で決める。
さて、出場の時間となったカイリーは皆と挨拶を交わした後でリングに向かった。既に出場を終えた選手達は控室のモニターで敵の分析をしていた。だからこそあまり手の内は見せたくはない。それにレインが言っていた他にもサイコキネシス使いがいるという話し。既に私達は一回戦目の時点でサイコキネシスを使ってしまったので隠しても今更だ。とはいえ、相手を吹き飛ばす程度の初歩的な技だから、私がすべきことはそれ以上の手の内をあかさないことだ。
名前を呼ばれカイリーはリングに上がる。同時に向こう側からもリングに上がる一人の男がいた。
「!?」
そいつはランニングシャツに体にはびっしりと入れ墨があり、長ズボンにシューズ姿だった。年齢は30代後半から40代前半、目と髪は黒く、イメージは陰キャぽい雰囲気がある。だが、カイリーはその男を覚えていた。その見た目とは裏腹に男は一回戦目自分より体格差の大きい相手を一発溝に拳をぶち込み、相手に膝をつかせていた。結局その試合は相手選手の降参で決着がついた。モニターで見たときは相手はその男の体格を見て完全に見くびっていたし、その油断もあってあっさり大男が負けた時は拍子抜けしてしまったが今振り返ればこの男が強すぎたのだ。恐らくは単なる格闘センスではなく、サイコキネシスによるもの。
リングに二人があがると歓声が盛り上がった。男は自分の顔を見るなり突然ニヤリとしだした。
「お前、サイコキネシスが使えるんだろ? 隠さなくてもいいんだぜ」
「……」
確かに今更その点気づかれた以上誤魔化そうとは思っていなかった。
「そういうあなたこそ。格闘技とサイコキネシスといったところかな」
「御名答。しかし、相手がサイコキネシス使いだと分かっても随分と余裕そうじゃないか。虚勢か? いや、違うな。まだ隠し持った力があると見た」
……あまりこの男と会話をすべきじゃなかったかな?
カイリーは審判の方を見た。
「まだ?」
審判は「今始める」と言って二人の間に立った。
「始めっ!」
とりあえず男とは距離をとる。すると、カイリーが近づいてこないのを見て男はむしろ前へ駆け出した。
「っ!!」
やはり格闘にもっていくつもりか!
私は後退しながら距離をとった。接近戦は相手のペースになり兼ねない。私はサイコキネシスで近づく敵を突き飛ばすつもりで放った。
「うっ!?」
相手は怯み後ろへと飛ばされたがサイコキネシスでガードされた為に然程飛ばされなかった。
「それ程まで接近戦は嫌か」
「遠距離は不得意?」
男は口笛を吹いた。
客席からは何が起こったんだとざわめきが起きたが、二人の間にはその会話は耳に入ってこない。それだけ、今の戦いに集中していた。
男は何がなんでも接近戦にしようとする筈だ。だが、さっきみたいに男はサイコキネシスでガードする。
「しかし、おかしいな。お前の一回戦目の相手はただの人間だったろ? の割にはサイコキネシス使いの相手に随分と冷静にやれるんだな。まるでサイコキネシス戦に慣れているみたいだ。そう言えば他にサイコキネシス使える奴が何人もいたな。こんな偶然は起きるもんじゃない。知り合いか?」
「さぁ」
「誰に教わったんだ?」
「私が教えたらあなたも教えてくれるわけ?」
「流石、情報も中々漏らしてくれないとは、やはり慣れてるな」
「あなたこそ」
「俺はこのトーナメント初めてじゃないんでね」
「確か、他にもサイコキネシス使いがいるだっけ?」
「さぁな。それよりお喋りはこれくらいにしといてそろそろ決めさせてもらおうか」
男のサイコキネシスが強まった! 何か仕掛ける。まさか、二回戦で敗退? いや、まだ終わっていない。最悪、此方の手の内を出すか? でも、そしたら皆の手の内もバレてしまう……いや、むしろ皆がまだ苦手とする技ならかえってモニターで見ているサイコキネシス使いが勝手に裏読みしてくれるか。
「肉体強化」
男の筋肉が盛り上がり、体格が一気に別人かのような大男になった。
「速度も威力もこれで倍だ。悪いがこの状態の俺は手加減とか出来ないからな。降参するなら今の内だぞ」
「そんな技があるなんて知らなかった。知ってても使いたくはないけどね」
「降参しない気か?」
審判も心配になってカイリーに訪ねた。
「いくら殺しは禁止のルールとはいえ本当に降参しないのか?」
カイリーは頷いた。
それを聞いて男は「知らないぞ」と言った。
「大丈夫、大丈夫。私、強いから」
「そうかよ」
男は一瞬で距離を詰めた。それは言葉の通り一瞬だ。瞬きしたらそこにいたぐらいの速度で。
「これが今の俺の速度」
男はカイリーの胸ぐらを掴み軽々と持ち上げた。
「そしてこれが今の俺の力」
だが、その男の足が地面から離れ浮き始めた。
「な、なんだこれは!?」
「あら、これはもしかして知らなかった?」
「いや……空中浮遊だろ。そうじゃなくてお前、それも出来たのか」
「ということはあなたは出来ない」
「くっ……」
「私、重ね着してるんだけど、その服が欲しいならあげようか?」
「どういう」
男が言い終わる前にカイリーは遮るように唱える。
「アスポート」
突然掴んでいた服が消え、男は空中高い場所からリングへと落下した。
カイリーはその下に着ている黒の半袖姿になった。
「やっぱ返して。アポート」
カイリーの服が戻り重ね着状態になった。
男はリングに背中から落ちたが直ぐに起き上がった。そして、高い位置にいるカイリーを見上げようと顔をあげた直後、サイコキネシスで勢いとサイコキネシスで纏った飛び蹴りをそいつの顔面に食らわせた。
咄嗟のことで顔面のガードが遅れた男はそのまま直撃し、リングに頭を打ちつけた。
カイリーは浮遊し、適当な場所へ着地する。
男はあのまま意識を失い、審判はそれを確認する。そして、
「勝者、カイリー」
歓声は大きくわいた。
これでカイリーは三回戦出場が決まった。