一攫千金目指してトーナメント戦
世界を震撼させる出来事が起きた。多数の目撃者がいる中、突如勃発した青龍戦は謎の者によって決着がつき、青龍はその者によって撃破された。
力を全て使い果たした鉄の鎧はそのまま海に落ち、浮上する様子はない。そこに生き残ったテロスの戦艦が近づき、その者を捜索にあたった。
一方で青龍という大きな傘を失ったヒュレーは直ぐ様緊急会議が行われ、テロス戦に備えた防衛に急いだ。だが、テロス艦隊も青龍の攻撃を受け既に三分の一を失っている。テロスにとっては想定外のことで混乱している隙に早くに陣形を立て直し、攻撃に移りたいところだった。
とある戦艦の甲板、そこに引き上げられた謎深き鉄の鎧がテロス軍によって引き上げられた。
艦長は甲板に現れ、その鎧に近づいた。
「死んだのか?」
「これから確認します」
兵士はそう言うと、兜に手をかけ、それを脱がせた。それを見た艦長は目を細める。
「成る程な」
◇◆◇◆◇
その頃、カイリー達はヒュレーの外でそんな戦闘が起きているとも知らず、一攫千金を目指してトーナメントにエントリーの手続きを済ませていた。
一回戦目は一時間後。会場には観客が集まっていて既に満席の状態、会場の外にある売店には長蛇の列が出来ていた。
その会場の裏にある大部屋、控室があり、出場者は皆それぞれストレッチや体操をしながらウォーミングアップをして、その時を待っていた。
ルールはエントリーした際に一枚の紙を渡される。違反者はペナルティとして失格と、出場資格を失うとある。また、重大は違反に関しては刑事事件になることも記載されてあった。ルールは以下の通り。
①時間内に出場者がリングに上がらなければ失格となる。
②相手が降参、または相手がダウンした場合、勝利となる。また、相手がリングアウトし10カウントでアウトになった場合も同じとする。
③武器の使用は禁止。ただし、ドーピングは可とする。
④相手を死なせる行為は禁止。
⑤審判に従わない者は警告を受け、次は失格となる。ただし、警告無しの一発失格もあり得る。
⑥八百長は禁止。
⑦リング以外の戦闘は禁止
問題はそのルールには重量級にわけられていないこと、男女別でないことなどだろう。特にカイリー達となれば、普通は出場するだけ無駄。ただし、サイコキネシスが使えないとしたらだ。
控室にいるのは巨漢や自分の喧嘩に自慢のある男達ばかり。女の出場者はカイリー達だけだった。そんな男達はカイリー達が控室にいるのが気になるのか奇異な視線ばかり向けてきた。
そして、ある巨漢がダンベルを置くとカイリー達に近寄ってきた。だから私が相手をしようとしたら先にレインが前に出てその男の前に立った。
「私達に何か用?」
「ここはガキが来ていい場所じゃねぇ。お前達みたいなのがいるとシラケるんだよ」
「それはどうかな」
「なに?」
「あなた名前は? 私はレイン」
「ロバートだ」
「ロバート? あら偶然。一回戦目の相手は私。でも言っておく」そう言いながらレインは人差し指をその巨漢に向けた。
「私が勝つ」
巨漢は一瞬苛立った表情をしたが、直ぐに冷静になってただ睨みつけるだけしてその場を去っていった。
「大丈夫なの? なんか強そうだったけど?」ボニーはレインにそう言った。
……そして、一回戦目が始まる時間。
歓声は大盛りあがりの中、遂にレインの出番になった。リングに上がるレイン。対するロバートは既にリングにあがって腕を組み仁王立ちしていた。身長差、体格差共に圧倒的な大差がある中、レインはまだ余裕そうな表情をしていた。ロバートの頭の中には敵が反則をする想定をした。大金を積まれ、俺を真っ先に敗退させようとする誰かの仕業かもしれない。男はそんなことを想像していた。
だとしても俺はそんなことで負けはしない。
そして、銅鑼が鳴り響いた。
刹那、ロバートは吹き飛ばされリングの外の向こうの壁に激突し、ロバートは壁にめり込んだ。ロバートは完全に意識を失い白目を向いている。
歓声が静まり返った。観客からは何をした? とざわざわした。だが、審判は驚きもせずに勝者を宣言する。
「勝者レイン!」
レインは審判を見た。痩身の男はレインの視線に気づき「何か?」と訪ねた。
「いや……驚かないんだなって」
「サイコキネシスだろ? ここでサイコキネシスが使える者はほとんどいない」
「つまり……ゼロじゃない」
「観客の連中はただ知らないだけだ。今のでお前は間違いなく上位の連中に目をつけられた」
「……」
「サイコキネシスが使えるだけでそこらの出場者に比べたら充分実力者だ。せいぜい頑張ることだな」
レインは何も言わず踵を返し控室へと戻った。
控室に戻ったレインをカイリー達は歓迎した。だが、レインの顔色を見て私は「どうかした?」と訊いた。
「審判が言っていた。出場者の中にサイコキネシス使いがいるって」
「私達の他に!?」
レインは頷いた。
「これ、思ったより簡単にはいかないかも」
◇◆◇◆◇
『動く要塞島』エイドス国。幹部会議室には二つの衝撃的な情報が入る。一つは青龍がやられたという情報。しかも、それを単独で撃破したという事実。その倒した者はどの種族か分からないが少なくともヒュレー、エイドスではないのは確かだ。そして、追加の情報でたった今テロス側の戦艦から海に落ちたその者を引き上げたという情報が入った。これで、そいつの正体はテロス側が握ったことになる。
もう一つはテロスにスパイとして潜入していた筈のアンジェリーと連絡が取れないということ。
「とりあえず鎧の正体はともかくアンジェリーが裏切ったのかどうかを確かめなければ」
「それによっては今後戦火は此方まで広がるかもしれん。なにせアンジェリーは我々がどこまで知り、裏で何を指示をしていたのかを情報として持っている。他所の国からしたら欲しい情報だ」
「もし……もしもだ、アンジェリーの狙いがこの世界を火の海にすることだったら」
「直ちにアンジェリーを見つけ出すのだ」
「捜索はもう一人のスパイにやらせよう。我々が目立って動けばテロスも気づく」
「それもそうだ」
◇◆◇◆◇
晩晴の空、深山幽谷から離れ次の村へいく道中、黒髪で若年の女が歩いていた。
「…………はい……はい、畏まりました……」
女はなにやら通信中で誰かと会話をしていた。その者は人間で今はテロス国にいた。
「必ずやアンジェリーを捕らえ始末します」
そう言うと、ブチッと通信が切れた。
通信を終えた女は直後にため息をついた。
アンジェリーとはかつてエイドスがスパイ育成に人間奴隷を集め訓練をさせた。その時からの付き合いだ。任務に就くと実際会えることは無くなったが、その前からアンジェリーは他の子と違っていた。彼女の心はなんか、目刺すとも知らぬ闇というか、知りたくても心を見せてくれない、最後までそうだった女という印象がある。あいつのせいで、スパイ訓練での基本だった読心術をペアで組まされた時はいつも罰は自分だった。皆、あの女とは組みたがらない。なにせ、あいつの見せる演技は本物だったから。冷たい女、でもそれはアンジェリーではない。演じていないアンジェリーはもっと闇の深い場所にある筈だ。
この世を戦火の海にする……あいつがすることなら特別驚かない。でも、その前に私が殺してやる。
待っててねアンジェリー。