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カイリーと緑のトンネル  作者: アズ
第1章 百年後の新時代(ディストピア)
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『龍の巣』の正体

 レインとボニーは家を出てから居住支援の職員から貰ったエリア31の地図を持ちながら求人情報を提供してくれる施設へと向かった。その道中、教会があった。白い教会には入口に『31支部』とあった。そこではヒュレーが唯一許可している宗教のみ信仰が許されていた。人間は生まれた時から原罪であり、人間は罰として労働を課された。そして、働かざる者食うべからずという言葉を流行らせた。人間が原罪かどうかはともかく、食べる為に働くことはもっともらしいと納得する者が一定数いた。そして、それを基準に働かない者は罪だという意識が根づいていた。それは仕事を探そうとするレイン達にも言えた。ただ、それでは働くことが目的な人生とも言えた。それは根本的な生きる意味にはならない気もしたが、ほとんどの人はそんな事を考える余裕はなかった。生まれるのが原罪なら何故生まれてきたのだろうか。その宗教にはその答えが明確には見えてこない。だから、レインは信者にはなり得なかった。対するボニーはというと信者というものが難しくそもそも信仰を理解していなかった。そういう意味では二人は無神論者となるが、厳密には先祖崇拝はあるので無宗教とは言えない。それは植えつけるような宗教ではなく自然とそこにあった。

 ふと、教会の横にある壁の貼り紙に目がいった。

「これって……」

 そこに書かれてあるポスターには『腕に自信がある者、挑戦求む! 一攫千金は誰の手に!?』てあった。

「これだぁー!」

 その横でボニーは首を傾げた。




 その頃、カイリー達はレインが部屋を出て15分後くらいに家を出ていた。錬金術に必要な道具を揃える為だ。

「まずは錬金術に必須の釜、あとは調合に必要な薬と測りも忘れないようにしなきゃ」

 メアリーは私が言ったことを次々とメモしていく。

「お金足りるかな……」

 婆さんが私達に錬金術の手伝いとしてお小遣いをくれていた現金が手元にあった。

「中古市に行こう」私はそう言って頭に入れておいた地図を頼りにどんどん進んだ。その道中、病院前を通った。そこに布担架で運ばれる作業着の男。黒いボサボサ頭に無精髭を生やし、顔は梅干しのようにしながら左上腕をおさえている。長袖からは外傷が直ぐには確認出来ないが、かなり痛がっていた。その男を運んできたのは同じ作業着男二人だった。二人はヘルメットをし、顔は黒く汚れ、額からは汗を流していた。

「また作業で事故か?」通りがかりの一人がそう言った。その横で中年が「最近多いです、こういうの。上が作業を急がせているんです。これ以上は無理だって言うのに。連中は聞いてくれない。所詮、俺達の命なんてどうでもいいんですよ」と愚痴をこぼした。

 私はその光景を見てから一つ考えた。

 怪我人が多いなら怪我を治す錬金術の薬を生み出せば需要はあるかもしれない。

「いけるかもしれない」

 その横でメアリーは首を傾げた。




◇◆◇◆◇




 外に出掛けていた4人は暫くして部屋に戻った。

「カイリー、私達から話しがある」そう言って二人が立ち上がると、座布団もない床に直に座っていたカイリーはどうぞ、と言った。

「じゃじゃーん!」

 レインは外で見つけたポスターをまだ見ていない二人に見せた。

「一攫千金……腕に自信がある者は挑戦求む……まさかこれに出るつもり!?」

「そう。働くより手っ取り早いでしょ。それで大金を得るの。私達は一気に大金持ち」

「だけどそれってサイコキネシスを使うってことでしょ? ヒュレーに目をつけられるんじゃ……」

「大丈夫大丈夫。これがある」

 そう言ってボニーが手に持っているものを広げて見せる。

「これって……」

 それはレスラーがする顔が隠れるマスクだった。

「皆の分は揃えてあるから」

「私達の分も!?」

「そりゃ、賞金目指すんだから。チャンピオン以外に副賞とか景品とか色々あるんだから」

 レインのことだ、私達がサイコキネシスを使えるから余裕だと思っているのだろ。だが、この戦い……簡単にはいかない。

 私はレインから受け取ったポスターを眺めた。

「いい? 試合は一対一のトーナメント、殺しは無し。武器の使用も駄目だ。つまり、この中の誰かが勝ち残れば、大金を手にしてこんな場所からおさらば。私達で大きな家に住むの。どう?」

「レイン……分かった。やろう」

「よし! そうこなくっちゃ。メアリーは?」

 訊かれたメアリーは頷いた。

「全員オッケーね。了解。でも、言っとくけどトーナメントだから仲間同士戦うことになるかも。どっちが勝っても恨みっこなしで」

 それには全員が頷いた。




 そうとなれば早速特訓が始まった。三人は外に出て広い場所を探しに出掛け、カイリーだけ部屋に残った。カイリーにはまずマスターしたいものがあったからだ。それはテレポーテーション。アポートを極めた先にある技だ。アポートはカイリーの実力ではまだ物質だけで、生物を問題なく引き寄せ移動させられるかが課題だった。そこで最初は捕獲した虫で実験してみる。虫かごにゴキブリみたいな見た目の虫を入れて距離をとる。そして、

「アポート」

 だが、アポート出来たのは虫ではなく虫の入った虫かごだった。

 カイリーはため息をついた。

「何が問題なの……」

 いっそ、虫かごから虫を出して、部屋の扉を閉め、玄関で虫をアポートするか。




 あれから何度やっても失敗が続いた。虫の死体ならアポートは可能だけどそれは生物ではなく物体だからなんだろう。となると、やはり物体と生物にはルール上違いがある。その境界線はなんだろうか。

 パッと思いつくのは魂の有無。

 全ての物体に魂を宿しているわけではないから、この世には物体と生物が存在する。逆に魂だけの存在があったとしてそれを生きていると表現するだろうか? 成仏できていない魂=霊とか。当然、そうは言わない。

 つまり、生物は魂という形相と質料としての物体が揃っているものを指すのではないのか?

 魂か…… 。アポートが不可能にしているものはきっとそれだ。

 問題はテレポーテーションの原理だ。その前にアポートの原理を理解しないと。今まではできるかもというイメージでなんとなく出来てしまったが、上級技は多分ラッキーでは習得出来ない。だが、頭の中では実は一つ仮説があった。それは量子テレポーテーション。ただし、魂までもが100%の状態で移動といわれるとイメージがつかない。

 だが、婆さんはテレポーテーションを実際にやって見せた。それはサイコキネシスのレベルが上がればと言っていたが、そうなるとアポートとは原理が違うのか…… 。




◇◆◇◆◇




 その頃『龍の巣』の断崖絶壁を登り終え、上陸した者がいた。鎧を着た謎のそいつは空を見上げた。まだ、空には雲が多かったがそれも徐々に晴れようとしていた。

 断崖絶壁の上、つまり地上の様子がどうなっているのか、実のところヒュレー族でもほとんど知る者がいなかった。知っているのはごく一部だけで、そこに何があるのか同じヒュレー族でさえ極秘扱いにされていた。

 地面は先程の雨で湿っている。その土には草花が生え、遠くには緑が生い茂っていた。地上は龍の縄張りであり、そこに立ち入るものは誰であろうと敵視した。それはヒュレー族も同じであった。ヒュレー族は白虎のように従わせているわけではない。龍の巣という傘の下に住むことで自分達の身を守っていた。防衛としてヒュレーが利用したのだ。

 その龍の巣にはかつて街があった。既に廃墟と化して荒れ放題であるが、そこには大きな石棺があった。

 すると、巨大な影が鎧の上を通過した。

 鎧は立ち止まり、前に進むのをやめもう一度空を見上げた。

 そこには上から此方を睨みつける伝説の生き物がいた。


 青龍だ。


 そしてあろうことかその鎧は剣を抜き始めた。

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