表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カイリーと緑のトンネル  作者: アズ
第1章 百年後の新時代(ディストピア)
22/51

『色欲』の錬金術士

 平和を途絶させた今日一日の出来事は百年の歴史の中でも重大な歴史となるだろう。その一日はとても長く、まだ一日すら終わっていなかった。その一日を引き起こした首謀者はいずれ判明するとして、その者は歴史に名を残すだろう。悪い意味で。つまり、これからはその首謀者、ミステリーで例えるならば今回事件を起こした真犯人を特定する作業となる。そこで重要となるのは、時系列、登場人物、容疑者、動機、アリバイ、証言、証拠、トリック……等々。怪しい者をリストアップするなら①エルフ②人間③AI④その他となる。①はエルフの矢だ。だが、偽造工作の疑いがあり、また、エルフは自分達の森というテリトリーからは中々出ない。また、動機はテロスと環境問題で多少のトラブルはあったものの世界を巻き込む戦争を企むには動機としては弱い。②は人間が自分達の国を取り戻す等の為、レジスタンスが四種族同士を争わせようと策略している可能性。動機としては足りている。③これは主に『クロノス』のことだがこれだと誰が起動させたのか、その意図が不明になる④その他はエルフを除いた三種族のことだ。例えばテロスの自作自演で被害者を装おっていて実は主犯だった可能性とか。しかし、それでは百年後という今更感があり、動機が不明だ。その他も同じ。それともまだ名の上がっていない者がいるのか?

 それを明らかにする上でも、新しい追加の情報は重要だ。それによっては今後を大きく左右する。

 ただ、そこまで考えた上でいえば、四種族は少なくとも技術も知識も格差がある筈の人間に危険視するだけの意識はあるということだ。仮定の話、人間が首謀者だったとすれば、あれ程見下した種族人間に対して何故そこまでたった一日で見事に四種族の間に亀裂を生み出せたのか。その答えは人間が首謀者であるという証明にはならないが、色欲の婆さんは少なくとも知っていた。それは他の種族がしなかった「行為」から得たことだ。

 色欲の錬金術士は移民として流れた人間に研究者としても知の欲としても興味の対象になり得た。人間はよく働くが、厳密には支配者によく働かされていた。だから、人間は病気になるし、体を壊してしまう。錬金術士はそんな人間を薬で治療しつつ、徐々に人間との距離を縮め、彼らを近くで観察していった。そのことから分かったのは人間の知能はそこまで低いものなのかということだった。脳の大きさは確かに違えど、コミュニケーション能力においては我々と大きく違いがないことに気づいた時は大変驚かされた。というのも脳が大きい哺乳類は人間以外の動物でもこの世に存在する。だが、コミュニケーション能力となると、脳の電気信号の問題なのか、そこには差を感じる。コミュニケーションがとれるかどうかではなく、その質において、人間は低いとは言えなかった。

 そんな中、カイリー達がやって来た。それをきっかけに錬金術士はある実験を思いつく。それは人間にサイコキネシスを出現させること。その興味は危険ではあったが、錬金術士にとって知は自制出来るものではなかった。人間にサイコキネシスの基本を教えると、人間はその通りにやって見せた。全員がサイコキネシスを出現させ、しかも世には珍しい『闇』のエネルゲイアを出現させるに至った。うまいこといった一方で、その責任を錬金術士は感じていた。




 ……そして、現在。錬金術士は捕らえたテロス側の外務大臣から情報を得ようとしていた。

 錬金術で生み出した禁術、その薬をテロスに飲ませてから15分後、大臣の様子に変化が見られた。脈が早くなり、血圧が上昇、閉じていた口は開くようになり、唾液を垂らすまでになる。

 アイアスはその光景を恐ろしいと感じながらも役目に徹した。

「さて、そろそろ質問といこうか。まず訊く。何故今回我々を攻撃した?」

「人間とグルだからだ」

「なに?」

「昨日の話しだ。突然AI『クロノス』が起動した。いや、正確には信号をキャッチした。だから、いつ起動したかは不明だ。とにかく『クロノス』は我々に言った。首謀者は人間だと。我々は驚かなかった。想定はしていたからだ。だが、『クロノス』はこうも続けた。その裏にはお前達の援護があると」

「馬鹿な!? 何故そうなる」

「テロスにはお前達に情報を送るスパイがいるだろ。そいつが『クロノス』を起動させた。証拠ならある。確認済みだ」

 アイアスは言葉に詰まった。確かに、ヒュレーはテロスにスパイを送り込んでいるが、スパイにそんな命令はくだされてはいない。それとも自分より上の連中が下に連絡もせず勝手なことをしていたのか? だが、それはおかしい。それなら『クロノス』の起動に疑問を抱く理由は何だ。

「スパイは人間だろ?」

「……」

「何故だろうな? 拷問する側が答えを詰まらせるなんてな」

「知らんな、そんなことは」

「嘘が下手なんだな。まぁ、いい。そいつの名も言おうか?」

「誰だ」

「アンジェリー」

 アイアスは必死に顔に出さないよう努力した。その時、婆さんが耳元で喋りだした。それを聞いて思わず振り返って婆さんの目を見た。その目は真っ直ぐ向いていた。

「その様子じゃ図星のようだな」

 アイアスは大臣の方を見た。

「俺達はそいつにまんまとやられたんだ」

 そう言っておかしくなったのか大臣は大笑いしだした。

「おい、こいつ大丈夫なんだろうな?」

「少し刺激が強すぎたかな」

「おい」

「安心しな。最高地点にいったあとは下り坂しかない。強い吐き気と目眩と頭痛が襲い、酷い喉の渇きと強い倦怠感で気分は最低に達する。薬が体内から完全に抜け落ちれば元には戻るよ」

 それを聞いてアイアスはゾッとした。

「それで死人も出ただろ」

「違うな。良いも悪いも薬は毒なのさ。それを体内に取り込もうというんだからそりゃ副作用がある。重要なのは適量かどうかで、過剰摂取は無害に見える水だって害になることもある」

「いや、お前の薬は違うだろ! いや、そんなのはどうでもいい。ようは死なないんだな」

「ああ、それは保証しよう」

「ならいい」

 アンジェリー……その名前がここで出てくるとは色欲の錬金術士にとって想定外だった。何故ならその名前を最初に聞いたのはカイリー達の会話の中で、かつて一緒にいて脱走までしたという話しだ。つまり、最初の襲撃事件の現場近くにあの女はいたということだ。だが、その女が首謀者とは考えにくい。とはいえ、大臣の言ったことが嘘ではないのも確かだ。

 どうなっている……錬金術士は心の中で呟いた。




◇◆◇◆◇




 その頃、エリア31ではカイリー達が情報集めにあちこち聞き込み回っていた。

 街というよりエリアというのは外に出てもなんだか外にいる気がしないもので、それは例えば当たり前にある空がこの地下都市にはないことだろう。太陽はないから洗濯物は基本乾燥機必須。ドラム式洗濯機以外の洗濯機がないぐらいだ。また、太陽がないので照明が全て。時間は時計が知らせてくれる。当然、四季のような季節もなく、桜も梅雨も紅葉も雪もない。かわりに室内プールがあるくらいだ。ただし、深さはバカでかいヒュレー族に合わせてあるので人間なら沈んでしまう。因みにこの国には波力発電というものがあるようで、電力はそちらで発電しているようだ。

 ここにいるほとんどの男は配管工事か掘削で早番と遅番があり、交代で休まず作業を続けていた。例えば配管は上に行けばいく程古く、交換が必要だった。それはエリア1から順に回っていき、下までずっと続く。それは数年以上かかり、その間に上で配管トラブルが起きれば、そちらも取りかからなければならない大変な作業だった。

 さて、そんな中でカイリー達はというと、居住支援で住まいをなんとか見つけることができ、一部屋の賃貸を新たな拠点とすることが出来ていた。

「まぁ……狭いけど見つかって良かったね」とレインは言った。その部屋はキッチンとトイレにワンルームがあって、浴室と窓のない部屋だった。窓がないのは仕方ないとして、お風呂は営業時間内に入浴施設に行く必要がある。それもいい。4人が眠れるくらい余裕ある部屋だが、問題は光熱費の高さにあった。そして、私達は貧乏である。

「仕事を見つけよう。確か、無料で求人を探せる施設があると途中で聞いたからそこへ行こう」私はそう言った。

「どこへ行っても金、金、金。どうしてこうも高いのか」レインは愚痴をこぼした。

「そりゃ私達の賃金が安いからよ。そして上がることもない」

「ずっと貧乏」

「なんか悲しいね」とボニーは言ってメアリーは横で頷いた。

「なんかさ、錬金術で金とか増やせないの?」

「うーん……出来ると思うけど」

「マジ!?」

「金じゃなくてカネになるものは生み出せるって話し。それで稼ぐの。私達じゃ掘削も配管工事も無理でしょ?」

「なぁーんだ。まぁ、私は錬金術とか無理だから仕事普通に探すわ」

「私も」とボニーは言った。

 すると、珍しくメアリーは私の近くに寄った。

「ああ、メアリーは錬金術側ね。いいんじゃない? それじゃそちらはそちらで頑張って頂戴。行くよボニー」

 そう言うとレインは立ち上がり玄関に向かった。ボニーもその後に続いた。

 玄関の扉が開き、閉まる音がすると、私はメアリーを見た。メアリーも私を見て、お互い目が合い気まずくなった。

「とりあえず道具を揃えようか」

 メアリーは頷いた。




◇◆◇◆◇




 そんな中、『龍の巣』の外で断崖絶壁をよじ登る鉄の鎧を全身纏った一名がいた。既に雨は止んでいたが、まだ風は強かった。普通なら両耳を風で塞がれていただろうが、この鉄の兜にはその心配もなかった。というより、そのような格好で何故、どうやって絶壁を登れているのか。それは一つだけ言えた。サイコキネシスを纏っているからだ。そして、その鉄の鎧は今、その絶壁を登り終えようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ