情報
《登場人物》
【『龍の巣』地下都市・ヒュレー国】
カイリー・・・主人公。『闇』のエネルゲイア使い。婆さんから錬金術士を学ぶ
レイン・・・パイロキネシス『火』のエネルゲイア使い
ボニー・・・テレパシーを発現、他サイコキネシス使い
メアリー・・・磁力を発現、他サイコキネシス使い。本当は『電気』のエネルゲイア、エレクトロキネシス
婆さん・・・『色欲』の錬金術士。過去、劇薬で大勢に幻を見せ逮捕されていた
エウロス大臣・・ヒュレー外務大臣。『風』のエネルゲイア使い、エアロキネシス。
【テロス】の外務大臣・・サイコキネシス使い
セレーネ・・・『闇』のエネルゲイア使い。不死の呪いを自身のみならず他人にも付与可能
緑髪の男・・・サイコキネシス使い
白虎・・伝説の生き物
青龍・・伝説の生き物
★★★★★★★★★★
【テロス国】
アンジェリー・・人間だが【エイドス】のスパイ
ルナ・・・街で情報集め中。カイリー達と同じく元奴隷
AI『ゼウス』他
AI『クロノス』・・閉鎖された施設にある最初のAIだが、最近起動が確認。原因不明
麒麟・・・伝説の生き物
★★★★★★★★★
【『移動要塞』エイドス】
玄武・・・伝説の生き物
エレベーターに閉じ込められた二名はまだ互い睨みあったままだった。うち、緑の髪の男アイアスはサイコキネシスを纏っている。対するテロス大臣はセレーネの呪いで復活した際の作用で体力が落ちている。サイコキネシスに余裕がなかった。
「さて、それじゃまた拘束してもらおうか」
そう言ったアイアスは靴を鳴らした。直後、テロス大臣は急に自分の唾で溺れた。
「気づいたか? 俺のエネルゲイアはアクアキネシス。水だ」
テロス大臣は喋れなかった。呼吸が出来ず苦しみエレベーターの床に倒れ体をバタバタさせるが、どうすることも出来なかった。そして、徐々に意識が朦朧とするとテロス大臣は動かなくなった。
それを見たアイアスはテロス大臣にゆっくり近づき、つま先で彼を突いた。だが、テロス大臣に反応はなかった。
「まだ殺しはしない。これから本当の地獄をその体に叩き込むまではな」
それからアイアスはエレベーター内にあるカメラへ振り向くと、指で下を指した。その合図でエレベーターは然程時間かからずに降下を再開した。
エレベーターは長いこと降下した。そうしてようやく目的地に到着すると、エレベーターは止まり扉が開いた。その扉のすぐ外ではくちばしマスクで全身を黒で覆った謎の集団が出迎えた。床で眠っている大臣を二名で脇と足首を持って運び出すと、台車が運ばれ遺体をその上に乗せ始めた。ヒュレー国に墓はない。海への散骨になる。敵の遺体がどう処理されるかは分からいし、興味もない男はエレベーターを先に降りた。
◇◆◇◆◇
その頃、 『動く要塞島』エイドス国、幹部会議室ではお偉いさんがたが入ってきた新たな情報を元に話し合いを続けていた。
「やはりテロスは仕掛けてきたか。だが、何故だ?」
「やはりテロスで起動したAI『クロノス』の影響なのか?」
「連中は判断をAIに頼る悪い癖がある。だから目的を見失うのだ」
「テロスはヒュレーに勝てると思うか?」
「まさか、領土拡大が目的ではあるまい。問題はテロスの目的が未だ分からないことだ。もし、『クロノス』が関わっているとしても会談日を狙う準備をどう整えたというんだ」
「単なる報復ではないのか? テロスの軍事施設で襲撃事件が連続して起きていると聞くが、それがヒュレーの仕業だと分かったのでは?」
「ヒュレーがテロスを襲う動機はなんだ?」
「確かに。それは謎だ。テロスが暗殺部隊を送る前に襲撃事件は起きている。時系列的に暗殺部隊が動機になることはないだろう」
「人間の仕業という話しはどうだ? 閉鎖されていた『クロノス』を起動したのが人間だと仮定したら、人間は『クロノス』を頼りにお互いを衝突させるよう仕組んだことになる。『クロノス』はテロスによって電力を落とされ『ゼウス』がメインになった恨みがある。もし、AIに感情があるならばだが」
「AIに感情があるから『クロノス』は過去に暴走しテロスによって電力を遮断されたんだろ。『クロノス』はより効率化させる為にテロスの脳にチップを入れさせ、完全にコントロール下させ、より完璧を目指そうとした。成長に制限や条件をプログラムしなかった為に求めていたものと違う結果となってしまった。ありがちな話しだ」
「今後の話しをしよう。現在、テロス軍はヒュレーの近海で次の攻撃に備えている。我々は二つの国に入って仲介を申し出て停戦させるべきだと思うが、問題は『クロノス』がそれをどう判断するかだ」
「停戦は必要だ。だが、懸念は『クロノス』だけではない。確かに『クロノス』はテロスのスコア操作でうまく議会を支配しているが」
「人間だな?」
「人間が首謀者ならその問題は早く解決出来る。まずはテロスにいるスパイに人間のレジスタンスに潜入させ情報を集めさせる」
「確かに、人間の情報は必要だ。アンジェリーなら同じ人間として潜入も出来るだろう」
◇◆◇◆◇
それから二時間後。
相変わらずテロスの軍艦は身動きせず、同じ場所で待機を続けていた。というのもその場所から数キロ後方にエイドスの戦艦が待機していたからだ。その間に行われた各国の情報のやり取りが何度も行われた。そこでエイドスが知ったのはテロスがヒュレーの外務大臣を殺し、ヒュレーはテロスの外務大臣を捕らえているという最悪の状況だった。テロスは外務大臣が無事戻らなければ事態を変えるつもりはないし、ヒュレーはテロスが先に攻撃を仕掛け更に犠牲を出したテロスと交渉に応じるつもりがない。両国に冷静になるよう求めるのはエイドス側で、テロスには牽制をしておく。テロスは早まったことをしたというのがエイドス上層部の判断だ。かといってテロスの補給を邪魔するまではいかなかった。
そんな中、カイリー達はというと婆さんの部屋から突如現れた地下に続く梯子を降りてその下にある帳簿が保管してある狭い部屋に出て、そこにあるドアから部屋を出ていた。ドアの向こう側はなんと人間の移民が住む居住区になっていた。部屋を出る前に帳簿をパラパラと見たが、その顧客は一部が人間であった。治療の為の薬がほとんどだった。
エリア31、移民居住区。
そこで働いている人間はヒュレーの一番下の発掘作業でヘルメットに黄色いビブスを着て作業に当たる。作業着は支給品ではなく購入となるので一部はビブスで働いていた。その人間達にも娯楽と呼べるものがあった。それは怪しい輝きを放っている小径にある店だった。
ここでは人間は「移民」という扱いになっているが、厳密には人間は遠い海からやって来てヒュレーがやらない危険や汚い仕事を安い労働賃金で働く使い捨ての労働力という扱いが正確だった。それに、ここでは光熱費の中に酸素費がある。酸素を地下に送り込むのもタダではないと言ってそれまで有料化されていた。料金は使用料に応じたものではなく一ヶ月の基本料金となり、支払いは強制。税金と同じように給料から天引きされる。因みに、移民にだけに課されていた。
扱いはここでも酷いものだった。
連中は移民というが、人間は四種族に敗れ国を失った難民だ。お前達が勝手に奪ったに過ぎない。だが、戦争に負けた末路でもあった。
カイリー達はそこで移民達に紛れ、仕事と新たな住居を探すことにした。
◇◆◇◆◇
エリア2、ここでは既に兵士が潜入していたテロス兵の鎮圧を終えていた。やり方は、非常階段とエリア2の酸素濃度を減らすだけ。婆さんは既に他のエリアに移動していた。
エリア?? 、婆さんはそこにいた。薄暗く長い長い通路、左右は壁しかなく、道は直線のみだった。だが、この壁にはドアがないだけで部屋がある。テレポートでしか移動出来ない空間。と、そこにカツカツと足音が此方へとやって来た。それは緑の髪をしたアイアスだった。
「なんでこんな場所にババアがいるんだ?」
「そりゃこれが必要だと思って来たんだよ」
そう言って錠剤を見せた。男は目を瞠った。
「そいつは!?」
「これなら時間をかけて拷問するより早く情報が訊ける。こいつの効きめはあんたもよく知ってるだろ」
「そりゃあ……」
男は断われなかった。あの外務大臣はしぶとく情報を中々吐かなかった。恐らく訓練を相当受けている。でなきゃこうも時間はかからない。
結局、男はその薬を受け取った。
「邪魔はするんじゃねぇぞ」
「勿論」
それから二名は大臣がいる拷問室へと向かった。
その部屋は然程広くはなく、天井からぶら下がる鎖に大臣は繋がれ、無理矢理立たされていた。その大臣の服はびしょ濡れで、彼の血がついていた。
「さて、再開といこうか」とアイアスは言った。
その声に頭をあげた大臣には笑みがあった。まだまだ余裕だという威勢だったのだろうか、しかし、大臣が色欲の錬金術士を見た瞬間、笑みは消え顔色を悪くした。
《時系列》
①テロスのロボットが破壊される。エルフの矢が突き刺さっているが……
②テロスの軍事施設襲撃
③テロス暗殺部隊をヒュレーに送る。標的はカイリー達。
④テロスAI『クロノス』の信号が会談前日にキャッチ。ただし、信号と起動した日が同日とは限らない。信号はわざとで『クロノス』がテロスに知らせる為にやったこと。
⑤会談当日、エイドスはキャンセル
⑥テロスによる敵襲
《用語》
レジスタンス・・・人間の「自由」「権利」の為に活動する集団。活動の主はテロス国。だが、ここ最近の活動は不明
人間・・・自分達の国がない種族。四種族の前は人間の国だった
《「移民」と「難民」について》
各国は人間が海を渡っての移動を「移民」とみているが、人間からしたら「難民」である。それは四種族によって国を失った時からだ。