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カイリーと緑のトンネル  作者: アズ
第1章 百年後の新時代(ディストピア)
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エウロスVSセレーネ&テロス大臣【2】

 エリア30錬金術士のいる部屋。

「何? 今の……」とレインが言うと婆さんは「白虎だ」と答えた。

「白虎ってあの青龍と並ぶあの白虎?」と私が訊くと、婆さんは「そうだ」と答えた。

「今、上で戦闘が起きているだろ? だから、信用を裏切った連中に痛い目合わせるのにヒュレーは遂に白虎を出すことにしたのさ」




◇◆◇◆◇




 エリア2豪華絢爛な富裕層居住と政府関連施設のあるエリア。高級レストランやお店もこのエリアに集中している。そこでは既に軍と警察が民を避難誘導している最中だった。

 その上ではテロスの襲撃で戦闘が行われ、爆発や戦闘の衝撃が下のエリアまで響いていた。その度に悲鳴をあげ恐れる富裕層の民は我先にと避難へ走っていた。

 エリア3からも避難誘導の放送案内で大混乱状態に陥っていた。

 そんな中、エリア1では外務大臣であるエウロスがなんとかそれより下へは行かせないようくい止めていた。だが、その壁は物理的な床一枚。分厚いエリアとエリアの境の床を西、北、南は強引に爆薬で破壊を試みていた。勿論、それを阻止しようとヒュレー兵が出撃し、テロス兵とロボット兵、ドローンとの激戦となった。

 その音は東にいるエウロスにも聞こえた。

「どんなにあなたが頑張ったところでこの状況を一変させることが出来るとは思えんが」

「その威勢はどこまで続くかな」

 直後、西からテロス兵の悲鳴が轟いた。

「白虎はお前達の兵を上回る。白虎の獰猛さをまだ知らないのだろ?」

「……セレーネ」

 テロス大臣が呼ぶとセレーネは武器をサイコキネシスで集めた。

 エウロスは考えた。あのセレーネのエネルゲイアが知れただけでも進展だ。確かにあのセレーネの能力は厄介だが、永遠に不死身というわけではない。それはセレーネのサイコキネシスがどこまで保つかにかかっている。いくら体力お化けだったとしても、自分自身と他のテロス兵をこう何度も闇のエネルゲイアで蘇らせていたら早くに体力切れを起こす。だとしたら此方がやることは風の霧雨で広範囲敵を蹴散らすことだ。ただ、問題はさっき刺された傷だ。この傷がヤバい。このせいで自分のサイコキネシスの集中力ががた落ちしている。多分、まともに防御すら出来ないだろう。だが、それでもいい。広範囲なら例え荒くなっても関係ない。

「ローラーティオ!」

 風の刃、細かい雨のように降り注いだ。だが、その直後に自身の右腕がセレーネのサイコキネシスでへし折られた。エウロスは悲鳴をあげた。此方の防御の隙をつかれた。いや、当然か。だが、相手も相当きているようだ。次の攻撃までのラグがのびている。それに、さっきのでまた倒した敵兵が蘇ってはいない。

 あぁ……あの一撃さえくらわなければまだいけたかもしれないのに…………あと少しは…… 。

「エウロス、もう限界だろう。それ以上戦えば先に死ぬのは間違いなくお前だ」

 分かっている……いちいち煩い奴だ。

 エウロスはもう片方の腕で最後の力を振り絞り下から上へと振ると、大きな風を引き起こした。その風は辺り一帯を包み込んだ。

「風印」

「まるで嵐の中だ……我々を閉じ込め足止めさせる封印というわけか。まだそんな力を残していたとはな」




 その頃、西にいた敵兵は全滅、悲鳴は北で起こっていた。

「は、速い!」

 敵兵は銃を構えるも稲妻のように一瞬で移動する白虎の姿を目視でとらえるには限界があった。最速の獣、白虎。それは狩りをする爪と牙で獲物を襲う。背中に誰かが乗っているのだが、それすら気づくことなく絶命していく。

「こ、こんなの敵うわけないだろ」

 そう言って武器を投げ捨て一目散に走って逃げるテロス兵。その背中を白虎が一気に狩りとる!

「ぐわああああああああ!!!!」

 ドバッと出血し、兵士はそのまた倒れた。その兵士が二度と動くことはなかった。




◇◆◇◆◇




 エリア30カイリー達がいる部屋。そこでも避難の為の準備に皆取り掛かっていた。だが、エリア1からエリア30まではだいぶ離れているのでその分の余裕はカイリー達にはあった。その間、レイン達は食料を鞄に詰め、カイリーは婆さんに言われ錬金術の必需品を鞄に詰めていた。そんなカイリーに婆さんが近づき、あるアイテムを私に手渡してきた。

「これって私が呪いを付与した奴だよね?」

「そうさ。万が一の為にこれを持っているんだ」

「他の武器やアイテムは何に使うの? まさか」

「そうさ。ここは私の国。敵が攻めてきたら戦わなくちゃいけない」

「どうして? 兵士がいるじゃない。婆さんが戦いに出なくても」

「いや、難しいだろう。今、白虎がエリア1の敵兵を蹴散らしてはいるが、連中だってそれを想定していない筈がない」

「だからって」

「お前さんなら分かる筈だ。国をもたないという意味が」

「……」

「国を失くすわけにはいかない。だから、民だろうと兵士となって戦って守らなければならない。それが戦いというものだ」

「本当に行っちゃうの?」

 婆さんは私の肩に手を置いた。

「鍛錬を怠るんじゃないよ」

 婆さんはそう言うと、一瞬で姿を消した。テレポーテーションだ。

 その時、リビングの方でガシャンという音がした。見に行くと、床が移動しテーブルが真っ二つにわかれ、その下から地下へ続くハシゴが現れた。

 するとレインが現れ「婆さんは?」と私に訊いてきた。

「戦いに行っちゃった」

「婆さん一人で!?」

 私は頷いた。

「守るべきものを守る為に」




◇◆◇◆◇




 エリア1東側『テュラーハウス』前。その頃、嵐のような風が起きていたがそれも徐々におさまり、遂には風が止んでしまった。

 その近くで地面にうつ伏せで倒れ込んでいるのはエウロス本人だった。

 しかし結局ほとんどの兵士は先程の戦闘でやられてしまい、エウロスを人質にする計画も出来なくなった。

「敵ながらあっぱれというべきか」

 そういえば、悲鳴が聞こえなくなった? 白虎と兵士が戦闘中だった筈だが…… 。

 その時だった。エリア1にある通気口の蓋が次々に閉まり始めた。そして、東門の扉が閉まり始める。

「どういうことだ?」

 扉は東だけではなかった。西、北、南の扉も閉まっていく。

「防御システムか!?」

 だが、気づいた時には遅く船を出している暇もなく扉は完全に閉まってしまった。

 密閉された空間で、システムは次の動作へ以降し始める。

 それは火災が発生した時の複数ある消火システムの中で二酸化炭素消火設備がある。それがエリア全体に発動した。直後、エリア1全体に警報が鳴り響いた。

「これをやる為に兵士に足止めさせ避難を優先したか」

 生き残っていた兵士は次々と倒れていく。テロス大臣も意識が朦朧としてきた。テロスはセレーネを見て、目で訴えた。直後、視界が真っ暗闇になる。





 …………あれからどれくらい時間が経っただろうか。意識を取り戻したテロス大臣はゆっくりと起き上がった。セレーネも起き上がるが、その途中で全身が石化していき、亀裂が走ると、体は粉々に崩れた。

 セレーネは既に限界を越えたか。おかげでギリギリ助かったが。

「さて……どうしたものか」

 起き上がったテロス大臣の元にヒュレー兵が取り囲んだ。銃口が一斉に向けられる。

「人質を確保する筈が人質になるとはな」

 テロス大臣はゆっくり手をあげ降伏した。




 会談を狙ったテロス国の奇襲は生存者一名を除き全員死亡というかたちで一度幕を閉じる。誰もがそう思っていた。光学迷彩で酸素マスクをつけ潜んでいたテロス兵がいたとはその場にいた兵士には気づくことは出来なかった。テロス大臣は知っていた。自分が捕まることで、連中は勝手にエレベーターの起動のロックを解除してくれる。非常階段の扉はエリア1に再び戻った兵士を入れる為に同じくロックが解除されてあった。そう、透明の敵はヒュレーの油断で気づけばヒュレー全体どこに潜んでいてもおかしくはなかった。

 そう、最悪はこれから始まるのだった。

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