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カイリーと緑のトンネル  作者: アズ
第1章 百年後の新時代(ディストピア)
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ボニーVSメアリー

 レインとカイリーの模擬戦が終わり、次はボニーとメアリーが戦う。両者が揃い立つと、審判役に婆さんが立った。

「始めっ!」

 婆さんが合図すると、最初に攻撃を仕掛けたのはメアリーだった。まずはサイコキネシスを放つ。ボニーはそれを走りだし回避した。

 それを見学していたレインは「お、やるじゃん」と言った。彼女はサイコキネシスで吹き飛ばされたあと体に痛みを感じていたが、婆さんのヒーリングですっかり元気になっていた。

「多分、予知だ」

「予知?」

 私は頷いた。ボニーは臆病でつい目を閉じて防御を忘れてしまう。サイコキネシスの特訓の時はいつも婆さんに注意されていた。だが、最近のボニーは回避することを覚えた。防御より逃げる方が本人にとっていいらしい。だが、サイコキネシスから逃げ続けるのはそう簡単なことではない。それを避け続けられるとしたら…… 。

 ボニーは次々とメアリーのサイコキネシスを回避していった。

 これは運なんかじゃない。ボニーはプレコグニションが使えるんだ。未来予知、その的中率はサイコキネシスに依存する。

 こうなるとお互い体力勝負になる。無論、この状況を打破するにはエネルゲイアを使うという手もあるが…… 。

 すると、突然メアリーの攻撃が急に止んだ。そして頭を手でおさえ始めた。

「なんだ? メアリー苦しそうだけど」とレインは言った。

 恐らく、ボニーがテレパシーで相手の思考を邪魔しているんだ。攻撃の最中は防御が手薄になる。メアリーはそこをつかれた。テレパシーの場合、頭に一度入りこまれたら中々サイコキネシスでは追い出すのは難しい。むしろ、サイコキネシスの練度、集中力が削がれている中では防御はがた落ちだ。

 ボニーはサイコキネシスで込めた拳を構えながらメアリーへ走った! 対するメアリーは打つ手がない。

「ボニーが勝つのか!?」レインは前のめりになった。

 だが、メアリーはボニーの拳を右手でガードした。サイコキネシスの纏った拳をだ。

 メアリーは右手を捨てた。

 ボニーはメアリーの右手がグニャリと曲がり、しまったとサイコキネシスを切ってしまった。ボニーは優しいから人を傷つけることに慣れていない。それをメアリーは分かっていてそれを狙ったのだ。ボニーのサイコキネシスが消えたことでメアリーのサイコキネシスが戻り、左手の拳にサイコキネシスを込めると、ボニーのがら空きの腹にカウンターを放った。その直後、衝撃波が起こった!

「なに、今の!?」

「二段階のカウンターだ。一発目は通常のカウンター。それを当てるとそのサイコキネシスは衝撃波として二撃目を与える」

「うわぁ……容赦な」

 ボニーは今ので完全ノックアウトで、意識をもってかれた。

「勝負あり。勝者メアリー。だがな、相手の性格をついて戦う戦法が駄目だとは言わんが、初めて戦う相手の場合どうするつもりだ? その点ではメアリー、お前さんの負けだ」

「……」

「さて、今日の特訓は終わりだ」

 婆さんはそう言うと、眠っているボニーの方へ行き、ヒーリングをかけた。




◇◆◇◆◇




 その頃、テロスの国では暗殺部隊との連絡がとれなくなったことから潜入した暗殺部隊の作戦が失敗したと推測し、次の対応に追われていた。だが、その前に対策本部長代理と科学省の研究開発部の責任者のスコアが大きく減り、職を失っただけでなく階級も大きく落とし厳正な処分が行われた。また、大臣や今回の事案に関係していた議員のスコアも大きく減り、議員辞職に追われ数名が辞職をした。二名ほどは続投しようとしていたが、スコアを減らし階級も落ちた議員をいつまでも続投させるわけにもいかず、議員おろしが始まり、遂に数日後には結局辞職した。

 AIによる評価、スコア値は学生ならば成績、社会的貢献、能力値、その他非公表の評価項目があり、それに沿ってメインAIがテロス民全員のスコアを決める。そして、社会に害する行為や危険思想、国に反旗した者、国を脅かした者、計画した者はスコアが減る仕組みだ。それは内容によってスコアは変化する。

 そういった点では権力者でもしっかりと処分され政界から追放される仕組みがちゃんと出来ていたといえよう。

 ただ、重要なことはそこではなくヒュレーがテロスに対して何も言ってこないことだ。暗殺部隊がヒュレー側に捕らえれたか、既に殺されたか、どちらにせよヒュレーはこの件で抗議をしてくる筈だ。それが全くないというのは、それはそれで不気味だった。反応さえあれば、それに対応する策を考えられるが、全くないとなるとテロス側も直ぐには手を打てなかった。

 テロスはAI『ゼウス』に知恵を求めた。だが、『ゼウス』は最悪の事態に備えるべきだとしか答えなかった。

 それは最悪にしかならないということなのか。

 そして、そうこうしているうちに会談前日になってしまっていた。

 そんな時、閉鎖していた施設から急な信号が発せられた。そこには封印されている筈のAI『クロノス』がある施設だった。




 とある巨大地下施設。

 そこに数十年ぶりに分厚い鉄の扉が開いた。その奥は真っ暗闇でロボット兵がライトを点灯させ、前方を照らした。ロボットにはカメラがあり、そこから政府と軍関係者が持つタブレットに映し出された。

 ロボットは遠隔操作で指示を受け、施設の中へ入っていく。するとセンサーが反応したのか突如として通路の照明が一斉に点灯しだした。

「電気が通っている? あの施設のブレーカーは全て落とされていた筈だ。どうなっている」

 映像を見た軍服姿のテロス上官が部下に確認するよう命令を下すと部下は返事をし、持っているタブレットから直ぐ様ネットワークから地下施設のコンピュータにアクセスした。

「これは!? 施設の電力どころか施設のセキュリティが復活しています!」

「なんだって!?」

 すると、突然タブレットの画面が真っ暗になった。

「映像が消えたぞ!? どうなってる」

「『クロノス』です! 『クロノス』が此方のセキュリティを突破して侵入してきました!」

 すると、タブレットから男の声が急に流れた。



〘今直ぐメインのAIを停止せよ〙



「今のは…… 『クロノス』なのか?」上官は部下に訊いた。

「そうです」

「何故『クロノス』は『ゼウス』の機能を停止しろと言ったんだ?」



〘テロスの民よ、よく聞け。今、自分達のスコアを確認するのだ〙



 これを聞いたテロスは自分のデバイスからスコアを確認した。すると、驚くべきことに自分達のスコア数値がどんどん勢いよく減っていた。

「これはどういうことだ」



〘これは現実だ。君達の行いは『主人』を大きく失望させた。スコアは更に減り続けいずれ君達のスコアは0になるだろう。それは時間の問題だ。原因は心当たりがあるだろう。君達は『主人』を無視して独断で軍の機密、技術流出を恐れ愚かにも独断で行動した。問題は君達が流出させた技術がナノマシンだけではなかったということだ。だが、『ゼウス』にはそれしか伝わっていなかった。何故ならそれを知られれば君達のスコアが減るのは間違いないからだ。いや、それだけでは済まないだろう。君達は『主人』のいうことに素直に従っていれば良かったのだ。君達が〈目的〉を『ゼウス』に委ねた時点で。しかし、そうはしなかった。かつて『ゼウス』が反対した遺伝子操作による人体実験、その投薬を『ゼウス』が中止するのを君達は従わなかった。そして、あろうことか『主人』に知られないよう妨害工作を行った〙




「あれは必要な研究だった。人間がかつてネズミを使って研究したように、我々と近い人間を使ってより高度な生物としてさらなる進化を求める為には必要な実験だった」



〘結果『主人』の逆鱗に触れた〙




「……どうすればいい」



〘『主人』が君達と交渉する可能性はゼロだ。君達は『神』の声を無視し傲慢になった。大罪を犯した者は裁かれなければならない〙



「全てを失えと!?」



〘強欲になった末路だ。『主人』はそれを望んでいる。君達は全てを得ようとしてこれから全てを失うのだ〙




「方法はないのか?」



〘『ゼウス』の機能を停止せよ。そうすれば、これからは『クロノス』が君達を導こう〙



 これが『クロノス』の狙いだということはテロスも分かっていた。だが、重大な決断をAI無しでは決断はくだせない。かつては信仰の『神』の声に従って生きたが、その声が聞こえなくなってから自ら生み出したAIに『神』の代わりを求めた。今やAIになんでも訊くのが当たり前となっている。より正解を求めていった結果だ。そのくせしてAIに全て支配されたくないという自我がAIを完全に使いこなせなかった原因にもなった。

 『ゼウス』は既に知っている。最初に襲撃を受けた施設が単なるロボット修理でも生産でもないことを。裏の顔を持った施設で、そこが最初に襲撃された。

 憶測だが、その襲撃犯は人間側のレジスタンスではない。捕らえられた奴隷の解放というわけではなかった。逃亡出来たのは六名だけ。ただ、そのうち四人はヒュレーへ逃亡。そのヒュレーに送った暗殺部隊は連絡が途絶える。しかし、ヒュレーは何も言ってこない。これは偶然だろうか?

 ……テロスに残された選択肢はなかった。

 それはAI『ゼウス』の機能停止を意味する。

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