能力の修行開始
「作用はどうだ? 体に異変はないか?」
婆さんに言われカイリーは自分の体を見回した。
「今のところなんともないけど」
「なら、いずれ分かるタイプかもしれんな」
すると、見ていたレインが前に出て「はいはい、次私お願い」と目をキラキラさせながら言ってきた。
「言っておくがいきなりあそこまで能力が使えるわけじゃない」
「分かってるって。修行でしょ? ほら、早くお願い」
「なら、部屋の中央に立て」
そうしてカイリーとレインは場所を交代し、今度はレインの潜在能力を引き出す為、サイコキネシスを送った。
「うわっ! 風が今ぶわっと来たよ! これがサイコキネシス!? スゲー」
最初のレインはというとテンションが高めだった。だが、徐々にその様子も変貌して笑顔が消えていった。
そして、気づいた頃にはどこか暗い表情をしている。それを見た錬金術の婆さんは手を止めた。
「今日はこれくらいだ」
「え? 終わった」
その声に覇気がない。カイリーはレインに近寄り肩を貸した。
「疲れたでしょ? 向こうで休もう」
「私、これでサイコキネシス使えるようになったかな?」
すると、それを聞いた婆さんが答える。
「いや、扉は四分の一も開いていない。明日はそれを目指す」
「げっ!? 半分どころじゃない」
「いや、それが普通だ。それでも何かは感じただろう?」
「うん、感じた。なんかちょっと暑かった」
それは肩を貸した自分もレインがやけに体熱感があったのに気付いていた。
「恐らくレインは火属性だろうね。となるとパイロキネシスが得意になるだろう」
「パイロキネシス?」
「火を発生させる能力のことさ」
「へぇー……私は火か」
婆さんは残りの二人の方を向いた。
「それで、お前達二人はどうするんだ?」
ボニーは少し考えてから「お願いします」とハッキリ答えた。
「なら、中央に立ちな」
「はい」
そう言ってボニーは先程の二人と同じ位置に立った。
「よし。それじゃ始めるぞ」
そう言うと、婆さんは両手からボニーに向けサイコキネシスを送った。
ボニーもまた風のようなものを受け、そして次第に辛そうになった。
「今日はここまでだね。何か感じたか?」
「はい。沢山の声が聞こえてきました」
「成る程、テレパシーの才能があるかもしれないね。だが、テレパシーはサイコキネシスと同じで潜在能力に目覚めたら使えるものだ。まだ、コントロールが出来ないだろうが、気づいたら無意識に出来るようになるよ」
「はい。ありがとうございます」
「最後は君だね」
メアリーは頷いた。
「おや、話せないのか?」
メアリーは頷いた。
「それはおかしいね。いや、まぁ深くは聞かないでおくよ。さぁ、お前も能力を目覚めさせたいなら中央に立つんだね」
メアリーは言われたように中央に立った。
「それじゃ始めるよ」
そう言ってメアリーにサイコキネシスを送った。
それから暫くして、部屋にあったマグネットが飛んでメアリーの体についた。
「ほぉ……磁力を持った能力か。お前も今日はここまでだな」
そう言うとサイコキネシスを送るのをやめた。
「今日はここまでだ。流石に四人は疲れた。あとは明日だ」
◇◆◇◆◇
だいぶサイコキネシスを使ったことで体力を消耗した錬金術士の婆さんは寝室に入った。そして、書斎から持ち出した一冊の本と一緒にベッドに入った。照明はつけたままでベッドの上で本を開く。これまで闇の属性の能力者はほとんど出現してこなかった。知っているのはテロス側の大将と、エイドスの参謀、錬金術士の祖ぐらいだとされている。うち、錬金術士の祖はもう鬼籍に入っている。だから、どの書にも闇属性についての記述が他の属性に比べ圧倒的に少ない。
現在確認されている闇の能力だけで言ったら悪霊を自分の意のままに従わせたり、呪ったりする力の二つのみ。だが、四人目が現れたとなれば絶対それだけではない筈だ。
「駄目だ。やはり国立図書館に行ってみるしかないか」
そう言って婆さんは本を閉じた。
◇◆◇◆◇
翌日。
午前中は用事があるとの事で、修行は夕方からとなった。午後は午前で依頼の薬の調合をしなければならなかったからだ。
そして、その修行の時間。まずは、レインとボニーとメアリーの三人は前回の続き、順番にサイコキネシスを送った。それで今回は全員が四分の一以上の扉を開けることが出来た。だが、前回より負荷が大きかったのか三人ともその後はぐったりしていた。
「さて、次はお前さんだね」
婆さんはそう私に言った。
「前回はサイコキネシスを使えたが、テレパシーもまた潜在能力が目覚めた者なら使える能力だ。テレパシーはどうだ?」
「昨日、寝ている時に色んな声が聞こえてきて目が覚めた。おかげであまり眠れなかったけど、あなたが闇属性について調べていたのは分かった」
「まさかそこまで鮮明に!?」
「テレパシーとかいう能力、盗聴にも使えるんだね」
「勿論、潜在能力を目覚めさせた者なら自身の力で読み取らせないよう防衛も出来る。だが、意識しないと出来ないから、隠したい時だけ力を使う」
「心の声とかも聞こえるようになったりするの?」
「読心術は誰でも使えるというわけではない。お前は闇だからどうだろうな」
「図書館にはなかったの?」
「あぁ、残念ながらなかったよ。あと他に目覚めた者で誰でも使えるとしたらサイコキネシスの応用、空中浮揚になる。自分や他人を重力に反して浮かす能力だ」
「空中浮揚……」
私は昨日出来たサイコキネシスで自分が浮かぶイメージを持った。
すると、全身にサイコキネシスを纏うことができ、床と自分の足底に隙間が出来た。
「なんと!?」
私はイメージを続けた。すると、サイコキネシスも強まった。
徐々に自分の体重が持ち上がっていくのが分かる。それを部屋の隅で休んでいた三人にも見えた。
「カイリー、浮いてるよ!?」とレイン。
「凄い……」
ボニーの横でメアリーは目を大きくしている。
「これ……すっごく疲れるね」
かなり高い位置まで浮かぶカイリーを見てお婆さんは暫く唖然とした。
サイコキネシスだけでなく空中浮揚まで直ぐにマスターしてしまうのか!? 大抵早くて数週間はかかるというのに。いや……持っているデュナミスの差なのか!?
「慣れればもう少し楽に出来るようになる。今はバランスを維持しようと肩に力が入り過ぎている。体幹と下半身を鍛えればそこに使っているエネルギーを節約出来るようになる」
「分かった」
「カイリー、お前には才能があるからその先についても話しておくが、上達した能力者は空を飛びながら自分の能力を使ったりサイコキネシスを使ったりする。今は浮くことに集中しているが、そんなお前に私がサイコキネシスを放ったらお前は致命傷を負うだろう。本来実戦ではサイコキネシスで攻防をしながら移動で飛んだりする。だが、飛ぶのはエネルギーを使うし、サイコキネシスの無駄使いになる。だから大抵は回避や移動の最低限度だけ飛び、あとはサイコキネシスで防御、攻めを繰り返す。これが基本的な戦闘になる」
「分かった。自分の能力は見せない方がいいんだよね」
「そうだ。だから自分の能力の修行は私は付き合えない」
「え? 闇の能力に興味があったんじゃないの?」
「いや……興味はある。正直に言えば、お前が恐ろしい。これ程の成長は他に類を見ない。将軍より成長が早いかもしれん。これは脅威になり得る。だが、一方で教え甲斐がある。これ程弟子に恵まれることは恐らく一生ない。だから、私はお前がどう成長しようとも、育ててみたくなった。だから、卑怯な真似はしない」
「……」
「幻滅か?」
「ううん。お婆さんって本当にいい錬金術士ね」
「なっ!」
婆さんは顔を赤くした。
それから、修行の日々が続いた。レイン、ボニー、メアリーの三人は数日かけ扉を半分開けた。
そしてカイリーはというとサイコキネシスで盾の技の練習を始め、攻防の基本の型を婆さんから教わりながら下半身を重点にトレーニングを続けた。