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カイリーと緑のトンネル  作者: アズ
第1章 百年後の新時代(ディストピア)
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錬金術

 『錬金術』の手伝いは意外に楽しかった。理屈はよく分からないし、棚にある沢山の本を自由に読んでいいと言われたが、どれも聞いたことがない素材や調合方法ばかりで全く分からなかった。それを言うとヒュレーの婆さんは大声で笑った。

「そりゃそうさね。簡単に理解出来たら苦労はしない。料理のように素材を引き出したり閉じ込めたりするのとはわけが違う。錬金術は本当に『特性』を取り出したり、『属性』を与えたりするからな。だが、その分この世にはない物を新たに生み出すことが出来る。そもそもは、エイドスが生み出した技さ」

「エイドスが?」

「あぁ。だが、錬金術は複製には向かなくてね。それに素材も特殊なものばかりだから最終的に錬金術は衰退していった。ヒュレーだって衰退の危機にある。後継者問題さ。さっきも言った通り、簡単じゃない。その上、何年もかかる修行をしても結局錬金術に向いていなければその数年無駄になるから若者には敬遠されがちでね。私も長いこと錬金術をしているが弟子になりたいと言ってきた者はおらんよ」

 婆さんはそう言いながら木のテーブルの上に素材を並べだす。

「そもそも錬金術は安全なものではない。危険な素材も扱うし、国からの資格がなければ扱うことが出来ない素材まである。あとは錬金術の途中で失敗したら最悪死ぬこととかな」

「それは?」私はテーブルにある物を訊ねた。

「これか? これはアスフォデルスの花、ポプラの樹木の欠片、酒、ピュトンから抽出した毒が入った瓶だな。なんだ、錬金術に興味があるのか?」

「ちょっとね」

「教えてやってもいいぞ」

「本当に?」

「あぁ。あのレインとやらよりかは素質がある」

「ああ……」

 レインは素材を落としたり、瓶を割ったり、正直不器用と大雑把な性格からして確かに相性は悪いのかもしれない。

 すると、婆さんはレイン達が掃除をしているのを横目で見てから「それよりお前」と、いきなり婆さんは小声で話しかけてきた。

「呪われてるな?」

「えっ!?」

「それもかなり強力な悪霊に取り憑かれている」

「分かるの?」

「分かるさ。なにがあった?」

「実は……」

 私は正直にあの廃病院での出来事を説明した。そして、自分の掌にある黒い汚れのような痕を見せた。

「成る程ね。その悪霊、かなり厄介だよ。他の者には取り憑かれていないようだけど、その悪霊はねあんたに恨みをかわりに晴らして欲しいのさ。つまり、元凶であるテロスに対する復讐。逆にテロスに復讐する間はその悪霊は守護霊のようにあんたを助けるだろう。その逆に放置をすれば呪いは広がっていく。残念ながら祓う方法はないね。願いを果たせば勝手に消えるだろうけど」

「復讐……」

「ただ、進行を遅らせることくらいはなんとかなるかもしれない」

「本当!?」

「待ってな」

 そう言うと、婆さんは薬草を棚から取り出し、それを鍋にぶちこみ始めた。それから青カエルの死体を包丁で細かく素早く刻み込み、それも鍋に入れ始める。

「まさか……それを飲めとか言わないよね」

「そうだが」

「えっ……カエル……」

 それ以外に婆さんは遠慮なく次々虫やらよく分からないものをぶちこみ、鍋の中を掻き回した。私はそれを見て早くも吐きそうになった。鍋からは独特な臭いが漂い始め、掃除をしていたレインが「何この臭い」と言って鼻をつまんだ。ボニーもメアリーも同じく鼻をつまむ。

「よし、出来たぞ」

 そう言うと婆さんはコップにそれを注いだ。泥水のようなそれを入れたコップを私に向けると、私は遠慮したくなった。

「飲まなきゃ全身にあれが広がるだけだぞ」

 そう言われたら仕方なく私はコップを受け取り、中身を見ないよう目をつむると一気にそれを飲んだ。

 それを見て事情を知らないレイン達は固まった。

 そして、飲み終えた私はコップをテーブルに置くと、意識を失い後方へ仰向けになるように倒れた。

「カイリー!?」




◇◆◇◆◇




 目が覚めると私は大きなベッドの上にいた。

「カイリー! 大丈夫か?」

 その声はレインだった。

「話は聞いた。あんた、呪われてるんだって? なんで私達に言ってくれなかったのさ!」

「ご、ごめん……」

 そこにヒュレーの婆さんがやって来た。

「目が覚めたようだね。まさか、あれを飲んで気絶するなんてね」

「まだ頭がクラクラする」

「それはあの薬の原因じゃないよ」

「え?」

「あんた達の体には寄生虫がいるのさ。お前が気絶したのは寄生虫が過剰反応を起こしたからだ。寄生虫は全てを摘出することも薬でやっつけることも出来ない。厄介なものさ。ついでに言うと、そいつは自然界にいる寄生虫ではないね。人工的なものさ。どちらかというとナノマシンに近いね。でも、生物のようでもある。恐らくあれはテロスの技術だろう。あんた達はテロスに知らない間に寄生されたんだ」

「私達の体に寄生!?」

「そうさ。まぁ、もう少し調べればテロスが何の目的か判明するだろうさ。それまでは休んでおくことだね」




 だが、寝ていたことで私の体はほとんど回復しており、暫くしてから私はベッドから起き上がった。

 レインからは「もう大丈夫なのか?」と言われ私は「大丈夫」と答えた。

「そう。しかし驚いたよなぁ~まさか私達の体にそんな寄生虫を宿されていたなんて。今も私達の体を這いずり回ってるんだよ? 本当なら寄生虫を殺すか取り除いて欲しいけど、あの婆さんが言うには本当に無理なんだって。一生付き合っていくしかないってさ」

 そこにヒュレーの婆さんが現れた。

「もういいのか?」

「はい」

「そうか。だが、困ったな。もうあの薬は使えないということだ。恐らく他の薬もだろう」

「そうなるとカイリーの呪いが広まってしまうんだろ?」とレインは言った。

「他の方法を考えるしかないね」

「他の方法って?」

「まぁ、テロスを定期的に殺すとかだろうね」

「テロスを殺せば他のテロスが黙っていない」

「別に構わんだろう。どうせ失う国も家も無いからここまで来たんだろお前達は」

「まぁ……そうだけど」

「まぁしかし呪いも全身に回るまでそれなりに猶予がある。だいたい見たところ半年といったところか。今すぐではないから今後のことはゆっくり考えればいい。それまでは私の手伝いをしてもらうよ」

「どうして私達人間に優しくしてくれるの?」私は思いきって訊いてみた。ボニーとメアリーが唾をのみ込む。

「私は他の連中と違って種族の違いでいちいち優劣をつけたりはしない。そういうことをする奴は大抵嫉妬深い傲慢な奴さ。自分より劣っているものを見つけて喜ぶクズなんて私から言わせれば単なる馬鹿さ」

「優しいのね」私はそう言った。

 婆さんは驚いて顔を赤くした。

「何を言っているんだ。とにかくやることが山積みなんだ。手伝っておくれ」

「はい」




◇◆◇◆◇




 その頃、ルナとアンジェリーはカイリー達とわかれ、テロスの国に留まり、新たな街でウェイターの仕事を見つけ、働きながら情報を集めた。因みにウェイターの仕事は倍率が高く、その上中々辞める人がいない為に、その椅子取りは加熱する。しかし、裏ではルナは金や脅しで公平ではない方法でウェイターの仕事を得た。その目的は情報だ。情報は一番金になるし、情報弱者が一番損をすると心得ているからだ。例え世の中に出回っているタダ同然の噂話なんてほとんど価値はない。それよりも金を払って本や知識人から得る情報の方がずっと価値がある。特に政治、法律、物流、治安、色々知っておかなければならないことは沢山ある。

 そして、ルナはその中でも最近の情報を早速得た。近々、テロスが人間を集め予防注射を打つ計画を用意しているとか。

 早速ワンルームで一緒に暮らす相棒にそれを伝えた。

「病原菌を広めない為という話しだけどどう思う?」

「まさか、増えすぎた人間をそれで減らそうとしているとか?」

「なにかあるのは間違いないわね」




◇◆◇◆◇




 場所変わって『龍の巣』地下のエリア30、カイリーがいる出入口のない不思議な部屋。

 そこでカイリーは早速錬金術の手伝いを再開していた。だが、やはり錬金術はかなり難しく覚えるのも大変だった。

 分厚い本には「実体」「性質」「数量」「作用」等カテゴリーされ、更に「性質」に関しては具体的に数値化までされてある。例えばその性質の温度はどうかなど、その数字を守る必要がある。それでも錬金術士の婆さんは本に書かれてあることは不十分だと言う。実際、本には婆さんが書き込んだ数字やメモが頁の端にぎっしりと埋め尽くされてあったからだ。

「弟子には私の知識を引き継がせ、更に錬金術を深める為、弟子は錬金術の知を求め研究を続ける。つまり、終わりのない探求が続くのだ。私世代はそこに魅力を感じ、追い求めた。無論、そこには危険もあって、命を落としたものまでいる。それでも止めずここまで来たのは単に錬金術を嫌いになれなかったからだろう」

「やっぱり私には無理かも」

「そうか?」

「え?」

「生まれたての錬金術は精度も悪く失敗ばかりだった。だが、そこから徐々に成功を増やしていった。皆、最初から成功なんてしていない。むしろ失敗ばかりだ」

「……」

「もう少しだけ頑張ってみないか?」

「……分かった。そうしてみる」

 婆さんはニコりとした。

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