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1話 “ちょっと”した出会い


そそくさと部屋を出て行く。

「何してるの」と女に声をかけられる。

「用事があって」とだけ返す。急いで出ていく。

女は不服そうに頬を膨らませている。



この女には以前助けられたことがある。自分がこの世界に来た当初、右も左もわからずに困っていた。


盗賊に襲われていたときのことだ。来たばかりの自分は、何の能力も持たなかった。当然抵抗することは難しい。逃げ惑うしかなかった。


そこへ女が現れた。杖を片手に上げ、何かを唱えると辺りがカッと光った。それからのことはよく覚えていない。疲れ果てたのか、安堵したのか、倒れてしまったようだ。


そうして女に連れられこの部屋に来た。三日経ったようだ。そう告げられた。



助けてくれたのに恩返しをしないのは良心が痛む。この世の道理に反している。


しかし自分は“女”が苦手だ。物心ついた頃からそうだった。嫌いなのではなく、どう関わりを持てばよいのかわからなかった。自然と避けた。そのまま大人になった。いまだに克服できずにいる。


先ほど“そそくさ”と出てきたのも、女に対する苦手からだった。一方で、あんな美人だか美少女だかの容姿端麗な女が、自分よりも力があることに劣等感を覚えて居心地が悪くなった。

早く不快から抜け出すために、そしてそれを女にぶつけてしまわないために“そそくさ” と出てきたのも、仕方ないことだった。



ところが不思議なことに女は追ってきた。


「ねえ、ちょっと!ねえってば!」


魔法のような何かで動きを止められ、大きな手のようなもので襟を掴まれると宙に上げられ、女の目の前まで連れてこられた。このとき「ドシン」と降ろされた。尻が痛い。


「きみ、助けてもらったのにそれはないんじゃない?」

「おっしゃる通りです。何か見返りをご所望でしょうか」


妙に堅くなる。緊張のためか、何も差し出せるものが無いので不安のためかは分からない。


「うわ〜なに?礼儀正しいじゃん(笑)。ちょっとおもしろ。でもさ、そんなふうに見える?3日も看病してあげてさあ。ちょっと心外だな〜」


“ちょっと”がやけに多い。それに喋ると意外と軽口だなと感じていると、女が言葉を続けた。


「それにきみ、見たところ『来たばっか』の人でしょ?そんな一文無しから絞ろうとするのは効率悪すぎるって〜。つーかそれ盗賊といっしょじゃん(笑)。まあ警戒するのもわからなくはないけどね〜、にっちもさっちも明後日(あさって)もハテナはてな?って感じだろうし」



いわゆる“ギャル”なのか?見た目は程遠く見えるが。よくわからない言葉遣いをする女だ。呆気(あっけ)に取られていると、


「それにきみぃ〜、見返りをとか簡単に言うけどぉ〜、来たばっかの異邦人もんもん無し君に、何か差し出せるものはあるんですかぁ〜?(笑)。そ・れ・も......この高名でぇ、偉大なる私相手に♡」

「ありません。おっしゃる通りです。すみませんでした」


痛いところをつかれた。全て事実だから仕方ない。


“全て”というのは語弊かもしれない。しかしやけに自信満々なところを見ると、本当に名が知れているのかもしれない。

それに盗賊を追い払い、自分を拘束したように、この女には“力”があるのは確かなようだ。


だがこの世界の人間はもしかしたら、標準的にそういうことができるのかもしれない。いわゆる“一般人”だが、能力を持たない自分からしたら賢者とでも映るのかもしれない。

しかし、もしかしたら、本当に......。


そう期待していると、


「え、なに?(笑)、ほんとに認めるんだ〜。おもしろ〜。しかも謝るんだ(笑)。しかも見ず知らずの私のこと高名って信じ切っててさぁ〜、純粋か!マジおもしろいね〜きみ。気に入っちゃった♡」

「じゃあ、実際は有名じゃないんですか」

「それはほんとだよ〜。まあ、ちょっとだけどね〜。だからちょっと盛ったかな(笑)」


女が1人で盛り上がっていると、


「きみ、行く当てないんでしょ?うち来ない?」

「え、いいんですか、急に。でもそれはさすがに悪いんじゃ...」


歳下の女にかしこまる。


「いいからいいって言ってるんじゃん!かたい人ね〜。モテないぞー?(笑)」


これも“事実”だ。女は一見軽いが、目は鋭いとみた。



確かに、この妙な場所に来てから何日彷徨ったのかわからない。

ときには空腹から“盗賊”まがいのことをしそうにもなった。しかし一線は超えてはならないと、強く自分を保った。そこは誇れた。


もしかしたら、その清き行為がこういった僥倖(ぎょうこう)を運んできたのかもしれない。いまの自分からしたら、この世界に精通した女が面倒を見てくれるというのは願ってもない天運だ。


ここがどこかはわからない。なぜいるのかも知らない。しかし生きてる以上は生きねばならん。


このまま1人でいても埒が明かない。自分は“女”が苦手だが、この変な女の世話になる決心をした。



「でしたら、お世話になります。よろしくお願いします。あの、お名前は...」


「『ルリ』よ。ルリ・トパーズ・ラピスラズリ、通称ルリね。きみは?」

「『シンヤ』でございます」


「ございますて...ぷぷ、あはは、いつまで堅くなってんの〜。もう友達じゃん〜」



”女“が苦手で堅いまま、とは言えず、『変な女』改め、『ルリ』との異世界での波乱に満ちた日々が始まった。


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