終 式場
ああー、久しぶり。来てくれたんだ。
大学卒業してからは、貴女の結婚式以来よね、こうやって会うのは。
旦那さんは元気?今日はお子さんを預かってくれてるんでしょう。
ラインや映像通信ではしょっちゅう会話してしてたけど、やっぱり違うわねー。
うふふ、ありがとう。そうね、今日くらいは綺麗って言葉を素直に受け止められるわ。
そうなの。ずいぶん時間がかかった気がするんだけど、プロポーズされてから三ヶ月しか経ってないのよ。
普通、ここまで本格的な式だと半年くらいかかるんだけど、なんか周り中が超特急で事を進めるんだもの。
わたしが気合を入れて選んだのなんて、ドレスくらいよ。
後はもう、彼や両親がいつの間にか決定してたもの。
ううん、それが嫌だったわけじゃないわ。ただ、面倒事を全部押し付けちゃったんじゃないかって、気が引けてね。
え、なんでこっちの式場にしたかって。
いや、彼がね、わたしの家族や親戚をみんな呼ぶって聞かないのよ。
わたしはこれから生活拠点になる名古屋でも良かったんだけど、今までのことを思うと、ここできっちり結婚の事実を知らしめておくべきだって、そりゃもう強く主張されてね。
なんであんなに必死になるんだかわからないけど、まぁ色々心配かけた両親のことを言われちゃ仕方ないわ。
そうよ、彼はきっちり実家まで来て挨拶してくれたわ。
妹夫婦のこともあるから、別に無理しないでって言ったんだけどね、だからこそ行くんだって聞かないの。
なんだか良くわからない内に、挨拶というか、結婚宣言よ。
え、洋二のこと?
あー、そうねぇ。なんか久しぶりに見たら、なんの感慨もわかなくて…。
二児の父親らしく、それなりに貫録が出てたせいかしら、やっぱりどうって気分にもなれなかったわ。
ただ、妹が随分大人しくなってたのが気になったけどね。
ここだけの話、前の…修哉さんとの婚約の時は、随分しゃしゃり出てこようとしてたから、今回も余計な口出しをしてくるんじゃないかって不安だったんだけど、そんなこともなくて。
正直ほっとしたわ。
え、招待客のこと?
ああ、まぁ確かに以前の婚約者本人はさすがに…身内になった洋二だけしか来ないわ。
ただ、関係者は幾人か来てるのよ。言ってるのはその人たちの事でしょう。
えーっとね、まず御子神社長でしょう、それから十和田社長御夫妻。後ね、本家の伯父夫婦と後継ぎに返り咲いた長男の要一郎さんが来てるの。奥様は妊娠中で欠席よ。
なんだかんだ言って、わたしとは関係の深い人たちだし。
あ、もちろん名古屋支社の同僚や、三河営業所の所長を始めとした皆も招待したわ。大学時代からの友達は貴女たち位だけど、みんなとってもお祝いしてくれて、本当嬉しいわ。
彼の方もずいぶん大勢招いたしね。仕事関係は大分重なってるけど、ご家族や親戚がそれなりにね。
え、新婚旅行のこと?
一応アメリカへ行く予定よ、東海岸のあちこちを見て回るの。ほら、彼が前に海外赴任していた所だから、色々詳しくてね。で、『忙しくてロクにできなかった観光をしたい!』って主張されたの。わたしは別にどこって希望があったわけじゃないから、いいんじゃないって。
ついでに、赴任当時彼がお世話になった人たちに挨拶にも行くつもりよ。
いやそんなことないってば。
別に、自分の結婚まで仕事に絡めようと思ってないわ、本当よ。
ただ、なんかすごく思うのよ。
この結婚で、わたしはなにか別の段階へ進むんじゃないのかなって。
ほら、今までが今までだったじゃない。
もう、なにがあっても自分から幸せを放り出すようなことはしたくないなって。
彼と一緒にいるのがうれしいって、そんな毎日を過ごしたいわ。
あ、はい。今行きます。
じゃあ披露宴会場で待っててよ。式はそんなに長くならないはずだから。
なぁに、改まって。
うふふ、ありがとう。
きっと幸せになるから、これからもよろしくね。