0回目 高校
よくあることでしょう。
高校時代に初めて付き合った相手と結婚までするって、そっちの方が珍しいんじゃないですか。
ええ、わたしもそうでしたよ。
あ、でも彼の事が嫌いになったって訳じゃないんですよ。ただなんか熱が冷めたというか、そんな感じで。
そりゃあ好き合い始めた頃は彼に夢中でしたよ。
一緒に下校して、右と左に分かれなきゃならない場所に着いても、なかなか離れづらかったりとかね。
とにかく、彼のことを見ていられるだけでも幸せだったんです。
いつからって、そんな。
えーっと、あれは確か高1の春、入学して間もない頃だったかしら。なんか教室の中で、彼だけが浮き上がって見えたんですよ。
その頃の彼は、まだクラスに馴染んでなくて、同じ中学から進学してきた新見さんとよく一緒に笑ってました。
で、なんとなくその二人に近づいて、先に親しくなったのは新見さんの方でしたね。
当然でしょう。女の子同士だったんだし、彼女は気の良い子だったから、一緒にいて楽しかったわ。
それから段々クラスの――いえ、学校内の色んな人と知り合って、それなりに友人づきあいも広がっていったんです。
え?新見さんの周りで成立したカップル?
ええ、確かに多かったですよ。わたしたちも含めてね。
うーん、まぁそう言われるとそうかもしれませんね.。
大抵どっちかが相手に夢中になって、お願いだから付き合ってって、すごく真剣に頼み込んでましたねぇ。
でも、案外あっさり別れる人も多かったですねぇ。
そうじゃなくて、最初積極的に迫ってた方が離れてくんですよ。なんか思ってたのと違うとか言って。
まぁわたしもその口だったんですけどね。
すごく理想的な人に見えたんですけど、実際付き合って本性を知ると、あれ?みたいなところがどんどん目に付いてきて。
そうなると、相手もそれに気づくんですよね。あ、コイツもう自分の事好いてないなって。
その後、大学時代OL時代と、二・三人の相手とお付き合いしましたよ。今の夫も含めてね。
でも、高校時代のアレは、なんか全然違うんです。
未だにわかんないんですよ。
その後好きになった人たちは、ちゃんと生きて動いてる人間を相手にして恋してたって手応えがあったんですけど、初めて付き合ったあの彼は、ホンモノじゃないって言うか…。
よくある若い娘の妄想的なモノでしょうか。ほら、テレビの中のアイドルに惚れちゃう、みたいな。
触れないからこそ、理想を押し付けられる存在。…うまく言えないんですけど、そんな感じだったんです。
でも、彼は間違いなくそこにいたんですよね。同じクラスで、授業や行事や勉強も一緒にやって。そんな人が、テレビでしか見れない存在と同じなんてあり得ないでしょう。
だから、本当に不思議なんです。わたしは一体誰を――いいえ、なにを好いていたんでしょうね。
あー、もうそんなになるのか。時間が過ぎるのは早ぇなあ。
なんだっけ、高校生時代の彼女について?なんだってそんなことを聞きたがるのが知らねぇけど、うまく説明できるかわかんねぇぞ。
いや、本気で好きは好きだったぜ。
確かに思い出深い――っつーか、やたらと記憶は鮮明なんだけどよ、どうもあんときの気持ちに実感が伴わないんだよな。
付き合う前?友達関係がどうだったかってことか。そりゃまぁよくある話、何人かのグループで固まってたな。
確か***とか、新見千里に、****、***(個人名につき隠蔽)かな。
もちろんクラスの女子たち全員和やかだったが、いつもつるんでるっていやこのメンツだったと思う。
え?新見千里のことか。
そうだな、あいつを好きになる前、なんかやたらと気になったのは確かに新見だった。
新見千里ってのは、なんつうかこう、視線が勝手に向くんだよな。
で、その内近くにいる友達とか先輩後輩みたいな女の中で、あれ、なんかすっげぇイイ女がいるじゃんって気づくんだ。
まぁそんな具合だったから、最初に仲良くなるのは新見ってのが多かったんじゃねぇかな。俺も含めてさ。
あいつはホント、面倒見がいいっつーか、マメっつーか。
一緒にいて楽なんだよな。いや、なんかそれまで物凄い大問題だと思ってたことが、実は簡単に解決できることに気づかせてくれる、みたいなところがあったからな。
だからってわけじゃないが、新見は周りの連中がくっつくのにもよく手を貸してたな。『実は誰それ君が好きなのー』とか、『お前の友達のあの娘、紹介してくれ』みたいな相談を真っ先に受けてたからな。
もちろんすぐに取り持ってたぜ。それで成立したカレカノはかなりいたはずだ。
あー、そうだな。確かに長持ちした奴はいないな、言われてみれば。
長くて一年ってとこだったか。特に卒業してからも付き合ってた奴らは…。いや、いないこともないんだが、そういやそいつらが結婚しましたなんて話は聞かねぇなあ。あいつら、どうしてるんだ?
いんや、そんなことはないぜ。どいつもこいつも、そりゃあ付き合い始めはラブラブで、周りが当てられてたくらいなんだが。
…そりゃあ確かに俺もそうだったけどな。
あー、わかったわかった、正直に白状するよ。
俺、新見に告白してフラれてんだよ。
いやそんな、二股なんざしてねぇよ。
あいつの友達だった彼女と別れた後に、ついポロっと…いや、違うな。
そうだよ、元々俺は新見千里が好きだったんだ。でも、素直にそれを認められなかった。
なんでかって?だってしゃぁねぇだろ、当時の俺はまだ高校生で、まぁ一番見栄を張りたい時分だったんだ。
新見の周りには、そりゃあイイ女がわんさか集まってて、だのにどっちかっつーと地味なあいつがいいなんて、恰好悪くて言えなかったんだ。
ああ、バカだよ。
よくよく見りゃ新見は地味でもブスでもない、むしろ誰よりも美人だった。だのになんでだろうな、あの集団の中で、なんだか埋もれて見えたんだ。
光ってないっつーか、華やぎが薄いってーか。
だから、そんな新見千里が好きだなんて言ったらバカにされるんじゃねぇかってな。
で、ためらってるうちに、周りにいる女の中で一際輝いてた(ように見えた)女に目移りしちまって、そのまま付き合っちまった。
大体三か月ってとこだったかな。なーんか違うなって、お互い感じ始めて、学園祭の後で自然消滅だ。
で、そのことで新見に愚痴って、流れで『なぁ、付き合わないか。やっぱお前でいいや』みたいな言い方をしちまったんだよなぁ。
当然フラれたよ。どころか、最悪の状態になっちまった。
違ぇよ、怒鳴られたりひっぱたかれたりしたわけじゃねぇ、だがその方がずっとマシだった。
それまで確かにあった新見の中の俺への好感が、すーっと消えたのがわかったんだ。あ、こりゃもうダメだなってのが、もろに腑に落ちた。
あれは、正直きつかったな。
怒りでも蔑みでもなんでもいい、”俺に”向けてくれるモノがあるなら、まだ救われたんだがな。
ああ、それっきりさ。
今の嫁さんに会うまで本当に俺の人生は渇きっ放しだったよ。愛とか恋とか、そういうモノに妙な恐怖感を覚えちまって、誰に対しても歩み寄れなかった。
新見には悪いことをしたと思ってる。合わせる顔なんてねぇよ。
バカな奴が謝ってたって、良かったら伝えてくれ。
新見千里のことですか。
確かに印象深い子ではありましたよ。長い教師生活の中でも、ああいう生徒はなかなかいませんでしたから。
そうですねぇ、一言で言えば、サブリーダー気質とでも申しましょうか。彼女が関われば大抵のことはうまくいく、そういう生徒でしたね。
いやいや、これはなかなか希少な存在ですよ。
リーダーシップを持つ人間と言うのは、まぁそこそこいます。いわゆるカリスマと言うんですかね、人を集めて行動の指針を取る類の人間ですな。
こういう者が政治家や会社経営者になるんだろうとは、まぁ納得できるんですが、同時に一個人で事を成すのは無理だろうという気もするんです。
何か集団で大きなことを成し遂げるとなると、頭一つ抜けているリーダーと、その人物と集団の皆を取り持つサブリーダーが必要になるんですよ。
で、このサブリーダーと言うのがなかなか厄介な立ち位置でしてね、むしろリーダー気質の人間より難しいんです。
普段は人と人の仲を調整して、いざとなったら自分がリーダーの代役を務めなければない。雑用を嫌がらず、面倒なことが起きればすぐに対応できる。
これが自然にできるのは、なかなか…。
そういう意味で、新見千里は実に理想的でした。
表立ってクラスの取りまとめをするのは別の生徒でも、なにかトラブルが起こると頼られるのは新見でした。
ああいう生徒がいると、担任教師としては実に楽でしたね。
それに、これを言うのは教師としてどうかと思いますが…新見の家は土地でも有名な資産家でしたから、彼女に対して親の威光を笠に着て貶めたり脅したり、という行動も取れませんでしたしね。
いや、いるんですよ、そういう生徒は。
代議士だの会社社長だの、なにかと親の七光りで権勢をふるうことを覚えた子供は、扱いが難しいものです。いずれ自身の力がない者は痛い思いをするんでしょうが、高校生の時分ともなればねぇ。
今時の言葉では、マウントを取る、とか言うんでしたか。そういう困った生徒に対抗できたのも新見の強みだったんでしょう。
悩み事があると、よく相談に乗ってましたよ。ええ、進路やら恋愛やらね。
は?生徒たちの異性交遊ですか。
それはまぁ、学校としては扱いが難しい問題ですよ。昔は全面禁止にした時代もあったようですがね、そんなことは無理な話で。
いえ、そう言うことではなくて。
わたしが赴任する前のことですが、それこそそんな気配が少しでもあった日には指導室に呼び出して、そりゃあもうキツイ説教と言うか、ハッキリ言って脅しに近い指導をしていた頃もあったそうです。
ところが、そのせいで却って不祥事や問題が次々に起こったんですな。
生活指導教員や教頭の進退問題にまで発展したそうですから、当時は大変な騒ぎだったようです。
いやすいません、詳しいことはちょっと。
以降は節度を守るようにと指導はするが、男女交際そのものを禁止するようなことはなくなりました。
新見千里が誰かと付き合っていた気配はありませんでしたが。ええ、そう言えば周囲では何組かの恋人同士ができていたようですね。
はぁ、新見に惚れていた男子生徒、ですか。
いや、そういう者は。思えば確かに何人かいたようですが。しかし、そういう男子は次々に別の女子とくっついていたような…。
新見自身が誰かを好いていたような様子は…なくもなかったですが、交際にまで発展したことはなかったですね。
はあ、当時の生徒たちですか。
まぁもういい年になってますから、結婚している者の方が多いようですが。それどころか、離婚したものもちらほらいるようですね、嘆かわしいことに。
え?生徒同士で結婚した夫婦ですか。――そう言えば聞きませんね。
長いこと教師をやっていますので、卒業してから生徒同士で結婚した者も何組かいますが、あの年の生徒たちは。
あれほどたくさんのカップルがいたのに、不思議ですねぇ。
新見家のお嬢様ですか。
それはもちろんよく存じておりますよ。
わたしが昔新見家の家政婦をしていたことをご存じなら、その後のことも知っておいででしょう。
結婚退職しましたのはもうずいぶん前のことになりますが、夫が新見家の事業に関わっておりますので、まだあのお家とは親しくさせていただいておりますの。
ですから、話は色々聞こえてくるんです。
ええ、この街で大きな不動産業や賃貸経営をしておられる新見家は、元は隣町にある本家から分かれたお家ですが、今やそちらより大きなお宅になっておられますよね。
時勢に乗った先代様のおかげですが、今の旦那様も随分大したお方ですよ。なにしろこの不景気な世を見事に乗り切っていらっしゃいますから。
あら失礼、お嬢様たちのことでしたわね。
そうですねぇ、裕福なお宅でしたから、小学生から私立通いをされているかと思えば、ご姉妹共に公立の小中学校に通われていました。
なんでも旦那様の教育方針だそうで、本人が望まない限り、特別扱いはしないとのことでした。
今にして思えば、新見のお家は土地に根付いて商売をされているのですから、地元の方々との関わりを重視されたのではないかと。
富裕層で固まりがちな私立の一貫校では、得ることのできない交友関係を求められたのでしょう。
その甲斐あってと申しましょうか、千里様は見事に成績優秀者となられて、近隣で有名な進学校に入学されたんです。
初めて制服姿を拝見した時には、それはもう感動致しました。
あの方が後継ぎでしたら、こんなに不安な思いをすることもなかったでしょうに。
ええ、紆余曲折の挙げ句、婿養子となられたのは下の早百合お嬢様の夫でしたわ。随分早いご結婚とお子様でしたから、多分その辺りの…。
え?まぁ、事情をご存知ですの。
では、取り繕う必要もございませんわね。ええ、早百合様が義理の兄になるはずの人を寝取ったんです。それをご両親が渋々ながらも受け入れてしまったわけで。
要は優秀な後継ぎでいらした千里様から、なにもかも奪ったんですよ、早百合様という方は。
結果、千里様はお家どころか、この街からも出て行ってしまわれました。
は?千里様がご実家に見切りをつけて、早百合様に押し付けたと言われるんですか。
…そうかもしれませんわね。この土地に閉じこもって生きるよりは、自由に大きな世界へ羽ばたいた方が良い、そう考えられるのも無理はないかもです。あの方なら、どこへ行ってもやっていけるだけの力をお持ちですから。
ですが、残された方にしてみれば…正直不安でしかありませんわ。お婿の洋二様は確かに優秀な方ではありますが、新見家の当主に据えるのは些か…。
それでも、千里様が家付き娘として後を継いでいらっしゃれば大丈夫だったのでしょうが、早百合様では、ねぇ。
あの方は頭の良し悪しではなく、もっと根本的なところで残念なんです。今この時の気分だけで突っ走って、先のことを考えないと言うか
そうでなければ、あんな真似はしないでしょう。まさか、お姉様の婚約者を寝取るなんて。
わたしが洋二様に安心できないのもそこですわ。あの人は普段の業務はそつなくこなすのですが、どこかちょろいと言うか、簡単な罠にあっさり引っ掛かる所がありますから。
え、なにがおわかりになりませんの?
はぁ、それは…そもそもの話、どうして早百合様が千里様の婚約者に手を出したかとういうことですよね?好きになったからとか、そういうことではなくて、ですか。
そうですねぇ、こう言ってはなんですが、早百合様は千里様に対して、とても複雑なコンプレックスを抱いておられまして、おそらく、それが原因ではないかと。
なんと申しましょうか、よくある姉妹の対立とはどこか違うんです。優秀な姉に嫉妬して、と言うならまだわかるのですが、アレはそういう類のものではありませんわ。
どうも、千里様がお持ちの物や人間関係が、途轍もなくうらやましいと言いますか、欲しくなるようなんです。
そこがわかりかねるところですわ。旦那様も奥様も、お嬢様方の扱いは平等でしたもの。
そりゃあ上のお嬢様は後継ぎですが、だからと言って差別したりということはありませんし、買い与える物に格差があるといったこともなかったですよ。
なのに、なにかとお姉様を羨まれて、全く同じ物を買っていただいた時も、お姉様が選んだ方を寄こせと騒いだりするんです。
ですから、アレは洋二様に惚れたというよりは、千里様が好いている男性に惹きつけられたと言うべきではないでしょうか。
ええ、もし千里様が他の男性を連れてきていれば、そちらに手を出したと思いますよ。
あのご姉妹のことは長く見てまいりましたから、色々気づくことはあるんです。
先ほど言った、物を欲しがるようなことは幼い内だけだったのですが、中学生頃になってきますと、自分の方が姉より上だと言わしめるような行動が始まりましてね。
いえ、そんなことは。
早百合様はいわゆる、やればできるタイプの方ですわ。ほどほどのレベルではありますけど、大学にだって合格されていましたもの。
ですがそれは、やらなければなにもできないということです。天才型とは程遠い方なんですよ。
努力とか真摯に取り組むとか、そういうことが苦手な方でしたから、どうしても、ねぇ。
ではどうしたかと言いますと、つまりは身を飾ることに夢中になられたんです。
ええ、それはもうすごかったですよ。
まだ若い――いえ、幼いくらいでしたのに、やれメイクだファッションだ、アクセがどうの付け睫毛がこうのと、それはもう派手な装いをされて。
ご両親も一応は物申されたんですが、あの癇癪癖が出ましてね。
ええ、幼い頃から、自分の思い通りにいかないと大泣きして困らせるお子でしたわ。そうやって大声で騒いで自分の望みを通そうとするのは子供の特権かと思ってましたが、早百合様は十代半ばになってもそれをやめようとしませんでしたの。
――ある意味、今でもかもしれませんが。
そのうちとうとうご両親も早百合様を止めるのはあきらめられてしまいまして。
以来、あの方はすっかりギャル系に走ってしまいました。
それでなにをするかと言えば、装いだけでなく、その…男の子とも派手にお付き合いをするようになって。
ええ、そう言った派手なタイプの男性版ですね。
そういう彼氏を侍らして、千里様に上から目線で見せびらかすんですよ。『さゆりはモテるんだからね』とか『お姉ちゃんは彼氏の一人もいないもんね、寂しくない?』とか言って。
大学に入って、洋二様とお付き合いをするようになるまで、千里様に浮いた話はありませんでしたからねぇ。
あの年頃の娘なら、美しく華やかな事と異性に人気があることはステイタスですもの。安直ではありますけどね。
ですがまぁ、そういう男性は軽薄なモノですわ。一時派手に恋愛ごっこをしても長続きするようなものじゃありません。
早百合様が高校三年生になる頃には、もう何人もの”元彼”がいましてね。
なんだかんだで、別れてもすぐに次が見つかって、恋人がいない時期というのはほとんどなかったようでしたけど、真摯なものじゃありませんよ。
いえ、その――一度その辺りをうかがってみたことがあるんですけど、早百合様曰く『彼氏がいないなんて、みっともないじゃない』だそうで。
あれは恋愛というより、流行りの服やアクセサリーを着こなすのと変わらないものだったんじゃないかと。
その根底にあったのは、お姉様への対抗心なんでしょうね。
だから、千里様が大学で恋人をつくられてあっさり婚約にまで漕ぎつけられた時、自分の薄っぺらさに気づいたんではないでしょうか。
そこで己を見つめ直して行動を改める、なら良かったのですけど、やったことは姉の婚約者を奪うことでしょう。
先ほども申しましたが、早百合様は千里様のお相手だったからこそ洋二様に惹かれなさったんです。
ですから、千里様のものでなくなった洋二様には、もう魅力を感じられなくなったのではないでしょうか。
お家を出ておいでの時は、お子様と生活のために。戻って来られたら、婿養子として置いておかなければならない状況になって。
要は、好きでなくなっても別れられない状況だっただけなのでは、と。
そうでなければ、またあの遊び癖と言うか、浮気の虫が騒いだりはしないでしょう。
本当に困ったお方でですわ。
しかも、選りによって本家の後継ぎだった方に言い寄るなんて。
正直あの方のどこが良かったのかわかりかねますが、わたしが見たところ、またお姉様絡みでの勘違いなんでしょうね。
この先が思いやられます。このまま旦那様が引退されて、早百合様と洋二様が事業を受け継いだら、夫の仕事すらどうなることか…。
本当に、心配ですわ。