5回目 支社
おはよう。
いや、その…この週末、いろいろあってね。
え、なんで知ってるの?
そりゃ確かに、一緒に飲みに行って…その、そーゆーことになったんだけど、さぁ。
だからぁ、そこんとこの記憶が、曖昧と言うかなんと言うか。気が付いたら、怒涛の勢いで流された後だったのよ。
――ああもう、わかったわよ。
えーえー、そうですよ。昨日までの土日、あの人と一緒だったのよ。だからなんだと…。
ちょっと、それはまだ気が早いってば。
アレは云わば酒の勢いと言うか、溜まりまくってた鬱憤を晴らした後のハイ状態と言うか。とにかく、正気じゃなかったわけで。
え?
んなっ!ちょっと、冗談でしょう?
いやぁぁ、なんでそんな!
まだ始業前じゃない、どうして早々と婚約話が支社中に通達されてるのよ。
ちっ、違うわよ、未だそんな具体的な事は全然…。本当だってば、わたしの事情は知ってるでしょう、そう易々と――え、告訴騒ぎにしたくないって、どういう…。
べ、弁護士事務所の紹介なんていりません!なんで今度も破局の予定で話すのよ?
そ、そりゃあ今までの事を思えばだけど。
いやそんな、そういう意味じゃあないわ。え?囲い込まれたってどゆこと?
わたしは別にそんなつもりでいたわけじゃないし、どうせすぐに…。
あ、電話だわ。ちょっと待って。
はい、新見です――あら、久しぶり。本社はどう、最近?
は?はぁぁあ!
な、なんでそんな、いやちょっと待ってよ。
しゃ、社長にまで話が行ってるって、え?常務がどうしてそんな。仲人って、常務がぁ?!んな無茶な。わたしはまだそんなこと。
そっ、そんな、いつの間にそんなことになって。いやだからちょっと待ってよ、わたしはねぇ――なによ、今電話中で、は?三河営業所から?――ゴメン、後で掛けなおすから。
あ、お久しぶりです所長、いえ、おかげさまでなんとか。
なっ、どっどうしてそれを?いえ、間違ってないわけじゃなくて…ないこともないと言うか、まだそんな具体的な話と言うわけでもない、ような。
ですからぁ、わたしは別に決めたんじゃなくてですね。
いや本当に待ってくださいって、え?
そっ、そりゃあ確かにそうなんですけど、でもですね。
あ、所長、所長ってば、待って下さい、誤解しないでぇ。
…ちょっと、なに笑ってるの。だから、囲い込まれたって一体何なのよ。
あの若さで怒涛の出世をした理由ですって?
そりゃあ根回しの良さと、確実に相手を取り込む周到さのせいでしょ…う。
え?
それって…。
そんな、あの男が支社長になれた理由で、わたしも取り込まれたってことなの…。
逃げられないなんて…はは、そんなまさか。まさか、よね。
うそぉぉお!