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先輩くんと後輩ちゃん

作者: 石田彩真

今回は短編を書きました!

これから少しずつ書けたらとは思ってます!

「お前ら冬休み中トラブル起こすなよ、面倒だから」


 それだけ言い残し、教室から出ていく先生。

 ようやく二学期から解放されたクラスメイトたちは、友達と冬休みどこで遊ぶかを話し始めたり、一目散に教室を出ていく人たちがちらほら。

 俺も机の中に何も残ってないのを確認して教室を退室した。

 終業式を終え今日から楽しい冬休み……なんてことはなく、友達付き合いのない俺は今のところクリスマスや年末年始、冬休み全体通して予定は空白のままだ。

 そんな未来が捻じ曲がることを少しは期待しつつ、ため息を吐き出していると、パタパタと廊下を走る音が近付いてくる。

 それを耳で捉えながら俺は早歩きを遂行した。


「ちょっと先輩、なんで逃げるんですか⁉︎」


 今の廊下に響き渡る声で常に陰に潜む努力をしている俺が表に晒されてしまい、八方から注目を集めてしまう。

 それを恨めしく思うように、先ほどよりも大きなため息を吐きながら声がする方へと振り返った。


「……なんだよ、後輩」


 そこにいたのはやはりというかなんというか後輩こと、更科春香だった。

 漫画とかでいう黒髪美少女、客観的に見れば十人中十人がそんな評価を下すレベルで可愛い顔立ち。なんなら、俺主観で見てもこれが俗にいう黒髪美少女ってやつか〜って、出会い当初は思っていた。

 しかし蓋を開けてみれば「おせっかい」「小言が多い」など、「お前は姑か!」とツッコミたくなるような後輩である。

 約半年前、俺が校舎裏で弁当を食べてた時にいきなり話しかけてきた後輩だが、なんで話しかけてきたのか聞くたびにむくれるので、いつしかその話題を振るのさえやめてしまった。

 今でも理由が気にならないと言えば嘘になるが、そんなの現状ではどうでも良い。

 それより今は──


「ちょっと来い」

「あっ……」


 俺は後輩──更科の腕を引っ張り注目されてるエリアから一目散に逃げ出した。




× × ×




「ふぅ、ここまで来れば大丈夫か」

「…………」


 昇降口付近にある自販機の前で立ち止まり一息つく。

 後ろを振り向くと無言で着いてきてくれていた更科は何故か頬を赤くしてそっぽをむいている。

 俺がなんぞやと首を傾げると更科は右手で指を差しながら小さく呟いた。


「その……、手」


 言われてそちらに目を向ける。

 と、俺と更科の手が目に入った。割ときちんと繋がれてしまっている手が。

 あの場から逃げるために掴んでいた腕からいつの間にか手を握ってしまっていたらしい。


「っ……、わ、悪い!」

「い、いえ、大丈夫です」


 慌てて手を離す。

 手の温もりが消え少しだけ惜しく感じつつも、俺はそれを誤魔化すように両手をポケットに突っ込んだ。


「痛くなかったか?」

「……はい、暖かかったです」


 微妙に噛み合っていない会話。

 間が空き、気まずい雰囲気。

 俺は自販機に目を向け、財布を取り出す。


「なんか飲むか?」

「良いんですか……?」

「おう」


 「じゃあホットレモンティーで」と答えたため、それをポチッと押す。

 俺も迷った挙句、特に飲みたいものがなかったので同じものを購入した。


「ありがとうございます」

「いや、別に……」


 暖をとるように温かいペットボトルを頬に当てて嬉しそうな様子を見ていると俺までにやけそうになるのは、普段高校でまともに会話する相手が彼女だけで、俺が彼女と過ごすのを楽しいと思っているからだろうか。

 自分の内心がイマイチ分かってないが、それよりもようやく落ち着いてきたところで更科に伝えなくちゃいけないことがある。

 どちらからともなく下駄箱に足を進めながら俺は更科に言葉をかけた。


「なぁ、そろそろ校内で俺のこと呼ぶのやめてくれない?」

「嫌です」


 即答だった。

 そりゃもう潔いくらいに。


「だって先輩、私が近付いたことに気づくとすぐ逃げようとするじゃ無いですか」


 ……………………ソウデスネー。

 うん確かにそうだな。

 かれこれ半年以上の付き合いになれば完璧でなくとも足音で多少は更科だって分かることがある。

 その足音を聞くたびに俺は歩く速度をあげ逃げようとするが、彼女が大声で呼び止めるため停止を余儀なくされる。

 それがここ最近のテンプレになりつつあった。

 ここで無視して歩き続けられないのが小心者の俺らしいっちゃらしいが、彼女もそれを分かっているのだろう。

 なんかそれはそれで後輩に見透かされてる気分で恥ずかしいな。


「そもそも先輩が逃げ出さなければ私は大きな声で呼び止める必要ないんですよ?」

「……だな」

「むしろ先輩は私に気づいた時点で声を掛けて然るべきです」

「でも別に話すことないしなぁ」

「先輩は私と話すのが嫌いなんですか?」


 急に萎れ声を出す更科。

 その言い方はずるい。

 なんなら少し寂しそうな表情を浮かべてるのがずるさに拍車をかけている。


「や……、嫌なんてことはこれっぽっちも無いけどな?」

「なら良いじゃ無いですか」

「けど、お前だって友達付き合いあるだろうし、たまに友達との会話中に俺のところに来ることだってあるだろ」

「そ、それは……、見つけたら先輩に声掛けたくなっちゃうので」


 なにそれ、俺から後輩を惹きつける甘いフェロモンでも出てるの?

 ……いやでも話しかけてくる相手は更科くらいだし、更科限定か?

 …………それはそれで犯罪臭が凄いな。

 ってかその照れ笑いやめて、俺まで恥ずかしくなるから。

 せっかく気まずい雰囲気を持ち直したのに逆戻りしそうになるからさ、と思っていたがそうはならず、タイミングよく下駄箱にたどり着いたので更科は靴を履きに自分の下駄箱へと向かって行った。

 俺もそれを見届けてから靴を履いた。

 そして更科がこちらに来るのを待っている。


「お待たせしました!」

「……おう」


 お待たせしました、か。

 いつから更科と自然に二人で帰るようになったんだっけか。

 細かいことは覚えてないが大雨の日、俺の傘に更科を入れた時からだった気がしないでも無い。

 元来一人が好きな俺はこいつが下校時待ち伏せしてることを嫌味たらしく否定したり逃走しようとしていたくせに、今は座って待機する体制が整ってしまっている。

 それだけ更科との下校が自然なものだと思い始めてるってことだろうか、……分からん。


「? どうしましたか、先輩」

「いや、なんでもない」


 どうして今更こんなことを考えるのかも分からん。

 もうすぐ今年が終わるから頭の中で今年の出来事を整理しようとしているのかもしれない。そして大体今年何かあったとしたら、常に更科といた記憶があって、夏休みも頻繁に更科と出掛けたり、強制連行されたりしていたから──。


「あの、先輩。私の顔に何か付いてますか?」


 凝視しすぎていたのだろうか。

 更科はペタペタと自分の顔を触り、鏡で汚れが付着していないか確認していた。

 それすらも絵になるような美少女が日陰者の俺といるのはやはり不思議である。が、半年以上の付き合いがあれば慣れてくるのも必然で。


「そんな探しても何もついてないぞ」

「……? 先輩、騙したんですかっ⁉︎」


 いや騙してないし、勝手に勘違いされただけなんだけど。

 まあそんな問答をするのは時間の無駄なので深くは突っ込まず、腰を上げて伸びをした。


「うしっ、帰るか」

「はい、帰りましょう」


 俺が足を進めると自然と横に並ぶ更科。

 そして夏休みの終業式の時と同じくこう言うのだろう。


「先輩、冬休みもいっぱい遊びましょうね!」


 俺はその発言に内心で苦笑し、表面的には心底嫌そうな顔で対応する。と、「なんでですか!」と声を張り上げ肩をバシバシ叩いてきた。


「いや俺来年から受験生だしなぁ……」

「なら今回の冬休みが満喫できる最後の長期休暇じゃないですか」


 言って俺の目の前に立つ更科。

 そしてこちらに手を向けてくる。


「覚悟してくださいね。私は先輩を誘って誘って誘いまくるので!」

「……たまには休みも欲しいけどな」


 俺の冬休みの予定は空白どころか真っ黒に塗りつぶされるらしい。


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