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無能おっさんの異世界奮闘記  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
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第94話 一般人モニター募集中

 ある日の午後、研究所にて。


凡太は、加速靴の速度調節で手間取っていた。機能調整時は実際に研究員を何人か集めてテストを行う。研究所職員はほとんどが特待クラスの卒業生で、一般人より魔力量が多く、常人以上の実力者なので、一般人向けの商品にするには一般人のテスト協力者が必要になる。

最近はある程度、靴の問題点の洗い出しや解決を済ませた後で、トマスに了承を得てから、町に出て協力してくれそうな人を探すようになった。

協力者の条件は、長時間拘束されても大丈夫で、魔力量が一般的な人。この世に長時間拘束されても大丈夫な人などめったにいないので難題である。こんなときこそ返報性の原理の出番だ。人に恩を売ることで協力せざるを得ないような流れに持っていく。凡太の本心では恩着せがましい行動は大嫌いなので避けたいところだったが、解決案もなく仕事も進まないのでやむを得ずこの方法を取ることにした。


(恩を売りやすそうな人を探すなら困っている人を探せばいい)


凡太は直感でそう判断し、眉間にしわを寄せている人や急いでいる人を観察する。声をかけないのは、不機嫌で忙しい時に話しかけられたらイライラされるだけだからだ。気づかれない様に後をつけて、その原因を探る。

 これを2週間続けた。その中で原因がはっきりした人物が一人いたので、今日はその人の困り事を解決すべく行動を開始する。

 その人物の名前はマリア・エケニス。金長髪の30歳の小柄な女性だ。シングルマザーでレベッカ・エケニスという14歳の娘が一人いる。凡太が町で最初に彼女を発見した際、目の下のクマがひどく、歩く足にも元気がない様子だった。彼女はエライカ社の食品加工工場で朝の8時から夜の23時まで働いていた。アパートまで徒歩で20分かけ帰宅。家の中での作業は想像だが、そこから掃除・洗濯をこなし、朝・昼・晩の食事を作り置きしてから1時30分に就寝(家の明かりが消えるのはこの時間帯なので)。そして、7時30分家を出て工場に向かう。休日は週に1日だけ。この世界に労働基準法は存在しないので、1日15時間労働というとんでもないブラック企業も罰せられないのだろう。

この工場は社長1名と従業員5名でまわしており、エケニスさん以外の従業員も重疲労状態だった。すぐに辞めないのは、睡眠不足になるほど思考力が低下していくので、自分にはこの仕事しかないと自己暗示をかけて逃げられなくなってしまっているのだろう。この工場は社長による脱税や社員への食品偽装の強要など悪い噂しかなく、王国の経済発展に貢献しないようなことばかりしているので正直潰れてもいいと考えた。

なお、他の従業員は独り身で、子育てをしながらのマリアに比べ、疲労度はまだましな方。マリアの方は早急に対処しないと過労死するレベルだったので、今回の恩売り対象としたのだ。



凡太はメアリーに直談判しに行った。


「エライカ社の従業員を一般人モニターとして形だけでも雇って頂くことは可能ですか?」

「どういうことだい?」


凡太はメアリーにエライカ社のブラック企業ぶりと従業員の状態を話す。


「国民の安泰を第一に考えるこちら側からしたらみすごせないね。いいよ、君の要求通り、従業員を研究所で雇おう。それより、形だけってどういう意味なの?」

「一気に5人雇うのであれば莫大な雇用費がかかると思います。そこで、雇用費削減の為、私の今後研究所で稼ぐ生涯給金を全て彼らの雇用費として使ってほしいのです」

「なるほど、そういう意味ね。君の気持ちはありがたいけど、こうしたことを見過ごした国に責任があることだし、雇用費用の件はこちらで何とかさせてもらうよ」

「そうはいきませんよ!最近は魔物対策とか、研究所の増設で財源にあまり余裕がないことを知っています。だから、私の給金を使えばいいのです!」

「こちらでなんとかする。分かったね?」

「は、はい…」


 凡太はメアリーの威圧感に押しつぶされて、弱弱しく返事する。


「よく一人でそこまで調べたね。ここまで人の為に尽力できるのは偉いと思うよ」

「あなたは何を言っているのですか?私なんかよりエケニスさんの方が100倍偉いんですよ。まず、仕事帰りの疲労困憊状態から始める家事がいかにきついかから説明しますね。まず、洗濯――」

「分かった、分かった!その辺はまた今度ね」


メアリーによる強制終了で、凡太はそのまま部屋を後にした。


「研究だけでなく企業調査までやってくれるとは、彼は本当に良い人材だね」

「彼も凄いですが、メアリー様がいち早く彼の素質に気づいたことも凄いと思います。私には正直彼がここまでやる人だとは思いませんでした」

「そうかい?会った時からそんな感じがしていたからそこまですごいことじゃないと思うけど」


 あるあるネタのように話すメアリーだが、それができるのは彼女くらいだろう。

 この後、魔法研究所での工場・従業員の受け入れ準備が早急に開始される。新しく一般総合部門という、一般人を研究員として雇い、自身らがモニターとなることで一般人向けの商品生産の効率化をはかる部門ができる予定だ。

 なお、エライカ社はこの一週間後に倒産することとなる。

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