第93話 ルールの攻略
凡太とデンの試合後日、ランキング戦のルール変更が発表された。変更箇所は負け判定の項目。降参宣言が可能になるのは試合開始5分後になった。さらに、ダウンや気絶が、わざとだと判断されたものは負け認定されず、後日再試合することに。また、試合前の申告敗北も禁止される。以上、試合を長引かせるための処置がとられた。
凡太は他の特待生との圧倒的な力量差に対し、自暴自棄になっていた為、このルール変更が自分への嫌がらせにしか見えなかった。実力が拮抗している者同士が戦えば、試合をやっている側も観ている側も白熱し、双方にメリットがあって有益だ。しかし、実力差がかなりある者同士が戦えば、試合は一方的になりつまらないだろう。はっきりいって時間の無駄だ。向上心の塊のような特待生なら、この無駄な時間がなければ、もっと有益な時間の過ごし方をしているはず。なんとしてもこの無駄は省かなくてはならない。こうして、次のランキング戦までに打開策を練る決意をした。
そして、次のランキング戦の日がやってくる。
凡太の試合の番になり、入場する。相手は35位のマルコ・ボローという中背・瘦せ型の18歳の男性だ。
対峙する二人。凡太が顔を見られないように俯きながら不気味なニタリ顔をしていることから、策はあるようだ。
「はじめ!」
審判の開始合図と共に凡太がマルコに接近しながら――
「体魔変換・全開!」
いきなり全力モードになる。
マルコは、デンと凡太の試合から凡太の危険性を知っており、距離を取ろうとしていたので、不意をつかれた表情をした。
隙ができたマルコに向かって念動弾を放ちつつ前進していき、マルコの懐に潜り込む。マルコが攻撃されると誰もが思ったその時、マルコがそれを予想していたかのように、右アッパーを凡太の顔面に当てる。とてつもない速さと威力だった為、凄い勢いで後方の壁に向かって飛んでいく。そして、団長戦のように壁に衝突し、そのままめり込んでいく。今回は壁を突き破ることなく、3mほどめり込んだところで静止した。
審判が凡太に近寄り、気絶を確認。
「勝者、マルコ・ボロー」
審判が勝者宣言をしても、マルコや観客はまだ呆然としており、闘技場は静まり返ったままだ。それもそのはず、開始から5秒しかたっていなかったからだ。
観客席の学園長が、誰もが呆然とする中で、いち早く現実に帰ってくる。そして、瞬殺試合の異様さの分析を開始する。
(彼の魔力増強技と半透明の弾を放つ技は、サムウライ村に伝わる奥義だろう。昔、文献でその内容が書かれたものを読んだ記憶がある。問題はなぜマルコ君がカウンター攻撃をしかけられたかということ。あの時の彼の表情はタイラ君の動きを予測している感じではなかった。動いたというより、動かされた感じ…。そうか!条件反射を利用したのか!)
学園長の言う条件反射というのは、脊髄反射のこと。凡太が念動弾を命中させたのはマルコの右肩関節当たりの腱。念動弾により抹消神経が刺激を感知し、脊髄が筋肉に指令を出す。それにより、無意識に腕が上がり、アッパーが放たれたのだ。要は脚気検査の腕版だ。
(あの異常な威力は彼の強化魔法によるものだろうか。ただの条件反射による威力のない攻撃をあれ程までの高威力の攻撃に変えるということは相当な強化量であったに違いない。素晴らしい…)
凡太の強化魔法の並外れた効力を心から称賛する。
(なぜマルコ君を強化したかは、彼が最初から短時間で負けるつもりだったと考えれば合点がいく。気絶することが敗北条件に入っているから、自身が確実に気絶できる威力に達するまで強化したのだろう。しかも、試合後のマルコ君は自分が強化されたことに気づいていない様子だったし、自分に攻撃の威力が移行した瞬間、強化魔法を解いたと考えられる。おそらく強化魔法を使用した証拠を隠ぺいする為…。こんなことして一体何の意味があるんだ?私は頭がおかしいとよく言われるし、自覚もしている。その私からしても彼は私以上に頭がおかしいと思うなぁ…)
学園長は、凡太の頭のおかしさが、自分の頭のおかしさを超えたことで初めて人に対してドン引きする感情を覚えた。
(しかし、なぜ彼はそこまでして負けようとするのだろう?デン君との試合の時もそうだった。彼の方が圧倒的に実力は上のはずなのにどうしてだ?彼の戦う姿がもっと見たくてルールをすぐに変更したのにすぐそれに対応し、攻略してみせた。何やら彼と試合はしてないけど負けた気分だよ。本当はまたルール変更しようと思ったけど、彼の対応力ならまた攻略されるのが落ちだろうし諦めるか。彼の負けようとする理由は分からないままだけどその内分かるでしょう)
学園長は闘技場を後にした。
凡太の怪我は運よく重症(?)だったので、治療魔法で回復することができ、すぐに動けるようになった為、研究所の仕事に戻った。
この試合以降、凡太の事がちょっとだけ伝説になる。試合は全敗。そのすべてが5秒以内の瞬殺KOによるものだったからだ。これは一朝一夕にマネできるものではないし、マネしたくないことだ。なぜなら、試合後は毎回病院送りにされるからだ。
凡太の異様さに気付いている特待生や騎士団は陰で彼を称賛し、実力差があって気づけない普通学生や一般人は彼を批判し罵った。




