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無能おっさんの異世界奮闘記  作者: 成田力太
第5章 ラコン王国編
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第92話 敗者の気持ち

 デン・ガーシェは闘技場を出ていく凡太を見て驚きの表情をしていた。そして、体力・魔力がたっぷりある状態にも関わらず、力が抜けた様にその場に両膝を着く。


 どういうことだろうか?

 その疑問を解く為、凡太とノッポ達の喧嘩の場面まで遡る。



~~~



(あの人だかりは何だ?)


 デンは人だかりの原因が気になり、その中心に注目する。凡太とノッポ達がもめており、喧嘩が始まろうとしていた。


(彼は確か最近特待クラスに入ったタイラさんだっけ?)


 凡太は特待クラスの中で少し有名になっていた。誰も成し遂げることができなかった線越えをして試験をクリアしたからだ。さらに、潜在魔力がないという情報も知名度上昇に発車をかけた。

 これらのこともあり、デンはこの喧嘩に興味を持ち、観戦することにした。


 凡太は強化済みのノッポや子分のパンチをかわしていく。

 

(相手は強化しているのに自身は強化無しでかわすか。なかなかやるね)


 凡太の回避に感心した後、急に殺気を感じてその方向を見る。


(あの人も最近特待クラスに入った人だっけ?一体何をするつもりだ?)


 デンは包帯男の殺気に警戒を高める。

包帯男がノッポの正面に高速移動し、剣を縦振りする。


(まずい!あんな攻撃うけたら即死だ!)


 自身も高速移動し、急いで止めに入ろうとしたところで、凡太が白刃取りして縦振りを止める。包帯男は止められた瞬間に高速移動し、元の立ち位置に戻り、棒立ちする。


(あのスピードの攻撃を強化無しで止めるか…)


包帯男の強さに驚く以上に、凡太の対応速度に驚く。あのレベルの攻撃は強化魔法を自身にかけないと対応不可能な速度と威力だったからだ。

デンが驚いている間に凡太は後続のノッポ達の攻撃をかわしていく。かわし終えた後、間髪入れず、包帯男がノッポの正面に再び高速移動し、首元に突き攻撃をする。剣の平地に凡太が念動連弾を放ち、攻撃をノッポの首元からそらすことに成功する。そして、ノッポのパンチが凡太の腹に命中。


(喧嘩相手を護りながら喧嘩するなんて…。前代未聞過ぎる)


凡太の行動に終始驚く。そして、異変に気付く。


(彼は魔力が無かったはず…。なぜ急に魔力が上昇したんだ?それにあの拳から放たれた技はなんだったんだ?)


疑問が増える一方、解読の為に凡太の分析を続ける。そして凡太の異常な疲労に気づく。


(魔力を無から作り出した時に生じた疲労かな?あの技も関係しているかも…。それにあの男の攻撃を、護りながら対応しているのだからこの疲労は仕方ない。というか、このままではもたないだろうし、早く喧嘩を止めないと。でも俺の実力では包帯の人の攻撃は確実に止められるかは怪しい…。…そうだ、騎士団の人を呼ぼう)


 デンは騎士団員を呼びに行った。

 数分後、団員とデンが到着し、喧嘩は無事終了した。

 この喧嘩以降、デンは凡太を警戒し、尊敬するようになる。



デンは家に帰り、ドンに今日の凡太の話をする。


「その話、嘘じゃないよな?」

「本当だよ」

「喧嘩相手を護りながら喧嘩するっておかしいだろ」

「おかしいけど実際に起こったんだって」

「だとしたら次のランキング戦は気を引き締めて挑まないとな」

「そうだね。とにかくやれるだけやってみるよ」



~~~


 時は試合当日。

 デンは闘技場で凡太と対峙する。

 

「はじめ!」


(さぁこい!)


気合を入れて、凡太の未知の初撃に備える。


「体魔変換・開」


凡太が開始早々技を発動する。


(この技で魔力を生成していたのか。どういう原理か分からないが、とてつもない量の魔力が生成されていく。俺の本気と同等…いや、それ以上はあるぞ)


いきなりの魔力生成・上昇に驚く。


(参ったな。一応ランキング上位者の威厳は護る為に勝つつもりだったけど、怪しくなってきた。上位者が新入りに負けるだなんて笑えないし、それだけは避けたい)


 デンが凡太を自身以上の実力者と認識し、本気を出す為に強化魔法を自分にかけようとしたところで――


「体魔変換・全開!」

(今度は何だ!?)


 謎技の発動により、凡太の魔力量が先程の数十倍に膨れ上がったのだ。


(なんてことだ…。さっきのが全力じゃなかったのか?なんでこんな高いレベルの人が学園の生徒なんだよ!)


 凡太の理不尽で圧倒的な魔力量を目の当たりにし、自暴自棄になる。八つ当たり気味になったことで熱を放出し、思考力を少し回復させた。


(これほど凄まじい魔力量を持っている人間は今までに見たことがない…。そもそも人間の持てる魔力量の限界を遥かに超えていないか?)


 思考回復したものの、目の前の人間離れした人間に圧倒され萎縮していく。第6感による魔力計測の結果により、体中の細胞が“早くこの場から逃げろ”と告げる。

 そして、確信する――


(この人に勝てるわけがない…。降参しよう…)


 その言葉はデン全細胞の総意である。今や無気力に立ち尽くすだけとなったデンが、降参宣言すべく、口を開こうとすると――


「降参です…」

「勝者、デン・ガーシェ!」

(はぁ!?)


 突然の凡太による降参宣言と審判の勝者宣言に、訳が分からなくなって切れ気味で心の中で叫ぶ。

 状況が理解できないまま、試合は終了し、勝者となるはずだった圧倒的強者が、何も言わずに去っていく。ひどく落ち込んでいるようだ。その様子を見て、デンは状況の謎を理解した。


(俺が弱過ぎたからだ…。戦うにも値しない、弱者を傷つけてはいけない。そんな哀れみから、彼は降参することを選んだんだ…)


 デンは力なく両膝を地面に着く。試合に勝って勝負に負けたという言葉があるが、今回は試合に勝って勝負に完膚なきまでに大敗したという表現が正しいだろう。

 試合後はドンや友達に励まされるが、彼の気分は沈んだままだった。再び気分が戻るのに2週間かかったという。

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