第90話 魔法研究所
「…さっきはありがとう」
「は?」
予想外の包帯男の台詞に、思わず素が出るが、すぐに切り替える。
「あなたの実力なら彼らを簡単にあしらえたと思います。出過ぎた真似をしてすみませんでした」
「…俺はそんなに強くない。…君の方が強い」
(嘘つけぇ!)
あれほどの高速攻撃を何回も行って息一つ乱さない実力を持っておいて、その返しはないだろう。本音を言いたかったが、流されそうだったので、
「褒めて頂きありがとうございます」
と、素直に受け取ることにした。
「…授業で会ったらよろしく頼む」
そう言って去っていった。結局彼の事は謎のまま。圧倒的な実力があることが分かった程度だ。
午後の研究所での仕事までは時間があったが何もする気になれず、余暇を過ごした。
午後13時。城から歩いて5分の場所にある魔法研究所に到着。外観は大学の研究練に似ていて3階建てだ。外には口に髭をたくわえた金髪白肌で白衣の男が立っていた。
凡太の姿に気が付くと歩み寄ってきて、
「君がタイラ・ボンタ君か?」
「はい、そうです」
「私は君の上司になったトマス・ジェーソンだ。よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
握手をかわす。近くで見ると身長は凡太と同じくらいだった。
「では、早速案内がてら仕事の説明をさせてもらうよ。着いてきてくれ」
「はい!」
各研究室での研究内容を紹介してもらう。制御が難しいとされる飛行魔法の簡略化の研究や農作物の成長を早める魔法の研究等、魔法の改良や開発が7割。残りの3割は、魔力を込めることで冷凍食品の解凍や生食品の加熱処理が可能な電子レンジのような箱型の商品の開発や強化魔法の効力を溜めておける札の改良など、商品の開発・改良だ。戦闘魔法研究は少なく、国民寄りの生活に役立つような魔法を研究が多かった。見た事のない装置が並んでいたりや広い設備を目にして、国の経済の主力となる施設ということを改めて実感する。
粗方研究所の案内が終了し、仕事の説明に入る。
「最初は私の仕事を手伝ってもらおう」
トマスはそう言って、運動靴のような動きやすそうな靴を持ってきた。
「これは魔力をこめることで加速する靴だ。これをはくことで、鍛錬をつんでいない一般人でも高速移動が可能になり、長距離の移動時間が短縮できる」
「高速移動にはかなりの鍛錬時間を要するのでこれはありがたい。乗り物使わなくて済むようになって、しかも速いなんて優れものですね」
「だろ?ただ、問題が山積みなんだ。加速時の摩擦で靴が焼けてなくなったり、速度調整が難しく制御不能になることが多々起こる」
「高速移動後の衝撃に耐える機能も必要ですね」
「確かにそれも必要だな。理解が早くて助かるよ」
高速移動時には瞬間的に膨大な運動エネルギーが発生し、止まる時にはその運動エネルギーをすべて足で打ち消す。鍛錬を積んだものなら止まることは可能だが、一般人では不可能だ。よって、魔力で加速の為の運動エネルギーを発生させたと同時に打ち消す為のエネルギーも発生させ、止まる指令が出た時に止まれる様にしておかないと加速することができない様にするインターロック回路のような安全策が必要だと考えた。
「とりあえず、問題点を一式書きだしませんか?それから解決できそうなものを1個ずつ潰していきましょう」
「分かった。そこのホワイトボードを好きに使っても構わないぞ。それとこの机の用紙も自由に使ってくれ」
こうして夕方まで問題点の洗い出しが続いた。凡太は修行時から効率重視にしていた為、効率厨のイメージがあったが、本性はその逆で地味でコツコツした非効率的な作業が好きなのだ。その為、陰で努力をしている人を見かけると好感を持ちやすい。凡太はトマスに対し、初めは厳格なイメージがあり距離感を持っていたものの、洗い出し時に彼の努力の片鱗に振れ、好感を持ったことで距離感がなくなっていった。
「今日はここまでにしようか。食堂に行こう」
トマスに連れられ、研究練内の食堂に向かう。
メニューは唐揚げ定食やうどん定食など庶民的だった。食堂での食費は給料から天引きされているので、研究員の食堂利用は無料である。凡太はうどん定食、トマスはそば定食を頼みそれぞれ注文し、受け取った後、空いているテーブルに着く。
「そういえば、トマスさんも特待クラスだったんですよね?しかもトップ卒業だなんて凄いです」
「7年も前の事だ。今の試験内容の方がレベルが高くなっているはずだから、トップ卒業での実力の目算はあんまりあてにならないよ」
「そうなんですか」
(絶対嘘だ。実力のない人物がメアリー様からヘッドハンティングされるわけがないもの)
凡太は、どう考えても実力者であるトマスの謙遜発言に苦笑いをしつつ、食事を終える。
食事後は宿泊施設を案内してもらった。研究員の寮が研究所のすぐ隣に隣接しており、研究員はそこで生活していた。こちらも利用料金は給料から天引きされている。
凡太はトマスの部屋が空いているということで、そこで共同生活することとなった。10畳2LDKで寝室にはベッドが3つあったので3人部屋のようだ。トマスは転勤してきたばかりの為、この部屋のベッドは1つ空いたままである。
2人ともそれぞれ風呂に入り、雑談した後就寝する。
こうして、ラコン王国での新たな生活が始まった。




