第9話 村防衛戦開幕
時刻は朝9時くらい。天候は晴れ。
凡太達は敵が攻撃をしかけてくるであろう北の防壁の高台で待機していた。早朝じゃないのはありがたい。しかし、緊張してほとんど寝れなかった。本来なら眠って体力・気力を回復させている時間を緊張と恐怖で過ごしたため体力・気力は回復するどころかゴリゴリ削られた。
(うん、今日も絶不調!)
戦ってどんな感じで始まるのだろうと思っていると、北の方から声が聞こえてきた。
「えーこれから斬空波攻撃を開始する。我々からの真心のこもったサービスを心行くまで堪能あれ」
しゃべっていたのはアークだ。高台からは姿は見えないが、拡声魔法があるらしくそれで遠くからでもこちらに声が届いていた。
「いよいよか」
バンガルの一言を聞き、各自気持ちを落ち着かせる。
そして、来るであろう衝撃に備える。
「あ、やべ。うんこし忘れた」
スグニという空気の読めないアホ一人を除いて。
そして時はきた。
「撃てぇぇ!!」
アークの気合のこもった声と共に、相変わらず目で捉えきれない空気の刃が飛んでくる。
ザンッ!!ザンッ!!
音を立て切られたのは村の東にある林の木であった。
「ふー。とりあえず成功したみたいだな」
凡太の安堵の言葉を皮切に歓喜・歓声をあげていく村人達。この村に最初から来られたのは本当に幸運だった。そう確信する凡太の横へ興奮したバンガルがやってきた。
「なぁどうやったんだあれ。教えてくれよ!」
(そういえば、村人達が秘密にしたままだったっけ。最終日まで秘密にしておくとか、口堅すぎて逆に引いたよ)
そう思いつつバンガルに種明かしした。
「夜明け、村の東の林に村人さん達にお願いして真空壁を何重にも作ってもらったんですよ。あ、真空壁はあの農作物守るために使っている空気の壁のことです。その壁は斬空波を引き寄せる性質があるので、今回はそれを使って軌道をそらしたってわけです」
「凄いな!こんな手品みたいな防護策をしかけてるなんて。やっぱり命預けて正解だったわ」
「まだ気が早いですよ。戦は始まったばかりです」
はしゃぐバンガルを沈めるように冷静さを貫く凡太。そう、戦はまだ始まったばかりである。
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一方、ガンバール村から1km離れた北の森。そこで陣取るサムウライ軍は動揺していた。
「えーい、なぜ当たらん!なぜ当たらんのだ!」
望遠魔法を使い村からそれる斬空波を見ていた、アークが顔を真っ赤にして怒っている。
あの後、斬空波の集中砲火を3、4回と続けるがすべてそれてかわされた。
「まぁ敵にも相当の魔法使い、知恵者がいるということでしょうな」
そんなアークの反応を見てニヤリと笑ってこの言葉を放つヤミモト。
ムッとヤミモトをにらみつけるアーク。
「して、ムサシマル殿。このあとはどう攻めましょう」
大男ノーキン。こちらも慌てた様子もなく、ガンバール村の防衛ぶりを賞賛するように、にこやかに聞く。
「まず、斬空波をこの戦でこれ以上使用することは禁ずる」
「逆に斬空波が利用され、こちらに返ってくるカウンター攻撃を警戒してですね」
「左様。未だかつて斬空波をあのように防いだ前例を知らぬ故、敵に相当な知者がおり、その者はさらに高度な策を練っておるかも知れん。よって、うかつに踏み入るのは愚策となるだろう」
「冷静かつ迅速な分析。さすがはムサシマル殿。それでは、遠距離攻撃はやめ、突撃戦を実行したいのですが、よろしいでしょうか」
「構わんぞ。敵が道中に罠を仕掛けていないことは前日からの偵察で分かっておるからな。それにこのまま睨み合いを続けるのも時間の無駄よ。故に突破口は自分たちで開くしかあるまい。存分に力を振るってこい、パウワよ」
「御意」
そう言って甲冑姿の軍団100名を連れ、ガンバール村へと向かった。
サムウライ陣営に残るのはムサシマルとアークと数名の護衛だけとなった。
(そういえば今朝、空気壁魔法を村の離れたところで使う者たちがいたと報告があったな。関係なさそうだと黙認したが、まさかあれが関係しているのか?まぁ良い。確証が持てぬ中いくら考えても机上の空論で終わるもの。そんなに重要ならいずれ明らかにになるはず。今は目の前の戦に集中するのだ)