第89話 たった5分
(今度はどこから来る?)
凡太が次の包帯男の攻撃を警戒する。
しかし、どうも様子がおかしい。
包帯男によるノッポへの即死攻撃をたった2回防いだだけなのに、かなり疲労していたのだ。
自分の身を護るのと他人の身護るのとでは、勝手が大分違う。高速移動からの攻撃を虚像で反応し、反射対応するだけでも精一杯なのに、そこから他人の身を守ることは不可能に近い。包帯男の初撃時、凡太は咄嗟に虚像の発生源をノッポにすることを思いつく。ノッポも自分の体の一部とイメージし、歪な虚像を作成。これが運よく機能し、ノッポの危険が自分(凡太)の危険と体が判断した為、脊髄反射が可能となり、対応することができた。うまく機能しなければノッポは即死だったので、大分危ない橋を渡っていた。
他人を体の一部と考えることは、発生源を拡大するということ。その分だけ虚像探知における魔力放出量も多くなり、かつ微調整も必要だ。また、慣れない虚像イメージにより、脳の情報処理機能はパンク寸前。よって、魔力放出量の需要増加による体魔変換での体力消費と脳の酷使により、大幅に体力が削られる。これが、凡太の重疲労の理由だ。
なお、体魔変換・開を使わないのは理由がある。包帯男のような強者は魔力感知の精度が高い為、魔力が高い者が現れた場合、力を開放してくる可能性があったからだ。今回は可能な限り、時間稼ぎする事が目的。手加減状態を崩させないことが最優先なのだ。
包帯男がノッポの背後に高速移動して、首を狙って剣を横振りする。
(首落とされる!その前に姿勢を落とすんだ!)
凡太がノッポに足払いをかける。ノッポは前に転ぶ形となり、なんとか横振りをかわす。その際、ノッポの頭頂部の髪が少し切られる。
(さっきより抜刀速度上がってないか?ということは、段階的強化パターンか。予想的中なんだけど、全然嬉しくねぇ…)
この攻撃により、これから地獄の回避が続くことが約束される。これに対し、凡太は苦笑いするしかない。先程通り、包帯男は5mほど離れた定位置に一瞬で戻って、何事もなかったように棒立ちしていた。もちろん息を切らしておらず、表情は見えないが余裕そうだ。
「ちっ!足払いを仕掛けてくるとは小癪な。だが、その程度では俺にダメージを与えることはできないぞ」
「足を折るつもりで仕掛けたのですが、全然ダメージを受けていないのはさすがですね」
「貴様の攻撃が弱すぎるだけだ。それより、もう息が上がっているではないか。情けない奴だ」
凡太の称賛に少し気分を良くするノッポ。さっきからその情けない奴に命を3回も助けられている事等、知る由もない。
そこへ子分2人の数十発のパンチが凡太めがけて放たれる。かわす余裕がなく、全弾命中。凡太は苦し紛れに大振りの蹴りを放つがかわされ、距離をとられる。
「あれ?今度はパンチよけないんですかぁ?」
「きっと、さっきの回避は大分無茶していたんだよ。察してやりなよ」
子分2人がクスクスと見下すように笑う。
凡太の蹴りは2人がよけられるようにわざと放たれた。包帯男の攻撃の際、近くにいたら巻き込まれる危険があるからだ。
(配慮しながら彼らの攻撃をかわすのは無理だ。詰んでるなぁ…)
攻撃する側は余裕綽々。こちら側はダメージが蓄積していく一方。凡太は、一足先に自分の気絶した未来を想像し、微笑する。
凡太の苦悩のことなどお構いなしに、次の包帯男の攻撃が始まる。帳面から心臓一突き狙いだ。
(畜生、やれるだけやってやる!)
ノッポの右肩を押し、即死回避。凡太のやけくそ足掻きがループに入る。
いったいどれだけ時が流れただろうか。
凡太の脳内時計では2時間は経過していた。しかし、現実の時間経過はたったの5分。苦しい時間ほど長く感じる。相対性理論の実証である。
包帯男の即死攻撃→ノッポの即死阻止→子分の攻撃。この1サイクルは10秒。5分で30サイクルをこなしただけだが、慣れない戦闘での体力と気遣いの酷使により、凡太の体力は限界を迎えた。
現在は立っているのがやっとの状態。次の包帯男のサイクル開始合図でノッポは即死である。凡太は、申し訳ない顔でノッポを見る。本人は自分がもうすぐ死ぬことを微塵も知らない様子で戦闘態勢に入っている。周りの人も観戦モードのまま。ここが今から殺人現場になることを1人も予想していないだろう。
凡太がその周りの様子を見てさらに諦め顔が濃くしていると、遠くから救いの神がやって来る。騎士団員(学園の警備員も兼ねる)だ。この騒ぎを聞きつけてきてくれたのだろう。
「君たちここで何をしている…ん?タイラ殿ではないですか。その打撲は?」
「大したことないです。私が彼らに肉弾戦闘の極意を無理言って教えてもらおうとしただけですよ」
「そうですか…」
そう言って、団員はノッポ達を睨む。さすがのノッポ達もこれにはビクついた。
「本来なら学園での一方的な暴力行為は禁止なので厳重処罰ですが、あなたに免じて引きあげましょう」
「ありがとうございます」
「メアリー様から、面倒な人物と聞いていてよかった。何か理由があって暴力行為を隠蔽しようとしているのだろう」
「…?」
最後の台詞は凡太に聞こえないようにボソッと言い、去っていった。
「一気にしらけた…。お前ら帰るぞ」
「は、はい」
「貴様、次に会った時は覚悟しとけよ」
ノッポ達が去っていった。それと同時に野次馬も消えていく。この場に残るは凡太と包帯男だけとなった。
(まずい。公衆の面前で殺人未遂をやり続けた人物だ。俺がこの後、殺されてもおかしくないじゃないか)
凡太は包帯男を警戒するもそれに対抗するだけの体力が残っていなかった。5m離れていた包帯男が歩いて距離をつめてくる。そして凡太の目の前に。
間近で包帯男を見ると、異様さと威圧感が半端ではなかった。それはまるで、これから始まる殺戮ショーの演出を際立たせる様だ。
(終わった…)
諦めた次の瞬間、包帯男がボソボソと何かしゃべる。
その内容を聞き、驚愕の表情になった。




