第88話 無能な男と無口な男
基地外ダッシュ男の体当たりをくらう形となったノッポは、起き上がりながらその男に怒っていた。
「貴様、ふざけているのか?」
「ふざけていませんよ。出し切ることに集中していると周りが見えなくなるってガチ練の常識でしょ?そんなことも知らないんですかぁ?」
「知るか!」
ノッポは凡太の煽りジャブをまんまとくらい、怒りのボルテージを徐々に上げていく。
「さてはあなた相当弱いですね?真面目に努力している人なら知っていて当然のことなので、それを知らないのは不真面目な弱い人だけです」
「僕が弱いだと?」
「ええ、その通りです。現に不意をつかれたとはいえ、私のダッシュであれだけ派手に吹っ飛ばされたじゃないですか。足腰が弱い証拠です。もっと鍛えないと駄目ですよ」
凡太はそう言って、ドヤ顔しながらスクワットを何回かする。
「これだけふざけておいてただで帰れると思うなよ…」
ノッポの言葉を聞いて、ノッポと子分2人が凡太を囲む。標的は包帯男から凡太へ完全に切り替わったようだ。
(よし!引き剥がしに成功。これで無駄な死体を出さなくて済みそうだ。このまま逃げたいけど、そうするとこいつらは彼にまた絡みそうだな。今後も俺の方に絡むように念の為、もう少し煽っておくか)
「ただで帰さない?何かくれるんですか?何かなぁ、楽しみだなぁ」
「ああ、楽しみにしていろ。ここからは一方的に制裁させてもらうぞ」
「制裁って道徳に沿って行われるものじゃないんですか?」
「ふざけた奴に対して道徳はいらないだろうが。二度とその口が開けないようにボコボコにしてやる」
怒りによる震えが、行動へ移行。ノッポが右肩をひいて拳を振りかぶりって凡太に殴りかかる。それは凡太にあっさりかわされる。
「おっそ…。もう少し真面目にやってくれませんか?」
「ぐ…。安心しろ、今のは準備運動だ」
そう言って自身に強化魔法をかけ、本気で殴りかかってきて何発も放つが、すべてかわされる。
「お前達!見てないでとっとと加われ!」
「は、はいっ!」
子分達はノッポの命令にビクッとしつつも、自身に強化魔法をかけてから乱闘に加わる。こうして、凡太は3人の攻撃をかわすことになったが、魔改造的のスピードに比べれば雲泥の差がある為、簡単にかわしていく。
(強化魔法を使ってこんなに弱いわけがない。いくら性格が悪くても弱者を力で虐げないのはさすがだな)
ノッポ達の寛大な弱者を敬う姿勢に、大したことがない人達だと誤解していたことを心の中で詫びる。
(しかし、団長に続いてまた手加減かぁ…。修行してちょっとは張り合えるレベルに近づいていたと思っていたけど、差は相変わらずなわけね。こんなんで特待クラスでやっているのだろうか…)
今後の特待クラスでの生活を想像し、不安にかられたところで同級生である包帯男を見る。凡太は、包帯男がノッポ達を狙ってくることも一応警戒していた。凡太の参入後は、ノッポへの寸止め攻撃はなくなり、静かに棒立ちしてくれていた。
(このまま大人しくしていてくれよ…)
心の中で祈る。ノッポ達の包帯男への敵対視を自分の方に粗方向けるまで挑発回避をしようと思っていた為、その間はじっとしていてほしい。
それを訴えるような目で包帯男を見ようとした瞬間、虚像探知が反応。凡太はとっさに包帯男の縦振りを白刃取りして何とか止める。包帯男が急にノッポへ攻撃を仕掛けてきたことに驚く凡太。しかし、もっと驚いたことがある。
(この人…今度は確実に殺す気で振ってきやがった)
凡太が止めなければ、脳天が割られていたところだ。片膝をついて白刃取りした姿になっていることから、威力は相当なものだったことがうかがえる。
「どうした?今更謝っても遅いぞ」
その姿が謝るポーズに見えたノッポの攻撃をかわす。当たる寸前のところでかわされ、舌打ちする。すぐさま後続の子分二人に連撃されるが、これもかわし切る。一段落したところで包帯男をみると棒立ち状態だった。彼の戻りが速すぎる為、ノッポは未だに自分の命が狙われたことに気づいていない。
(あと何本止められる?あれが本気じゃなかったらどうする?)
先程の一振りを止めた両掌が痛みでまだジンジンしている。包帯男が強者であることを証明するのに十分な威力であった。強者と認識してからは、凡太のバトル漫画脳がフル回転し、最悪の展開を構築していく為、妄想に入ろうとしていた。
しかし、包帯男は待ってくれるほど優しくないようだ。再び高速移動。今度はノッポの首元に剣先が向かう。ノッポの近くにいた凡太は至近距離から剣の平地に念動連弾を叩き込む。剣先はノッポの首元をそれて空を刺す。そして、包帯男は何事もなかったかのように、棒立ち状態に戻る。
「どこを狙っている?さては、まだまだ余裕ということか?ふざけた奴だ!」
ノッポは、凡太がわざと自分の目の前で正拳突きの空振り動作をしたようにみえたらしい。怒りが乗った拳が凡太の腹に命中する。包帯男のノッポへの攻撃に対応する為、つねにノッポと隣接せざるを得なくなったので、かわす余裕がなくなっていたのだ。この後の子分2人の追撃は距離があった為、かわすことに成功する。
手加減パンチとはいえ、ノーガードでの微強化パンチは痛いはずだ。凡太の顔は苦痛に歪んでいた。しかし、この苦痛はノッポの腹パンによるものではなく、今もまだ痛みの引かない両掌から発生しているものだった。
ここで自動考察モードになっていたバトル漫画脳が今後の展開予想を知らせる。
“あの一撃が本気であるはずがない。今後はより状況が悪化するだろう”と




