第87話 無能達と真の無能
学園内の教材倉庫で、特待生に無料配布されている強化学の教科書をもらい、学園を後にする。凡太が朝に学園に来たのはこの為で、筆記テストはついでみたいなものだった。
今日の午後から研究所での仕事が始まる。それまでの空き時間は、教科書を読み込もうと思い、学園内の広場の木陰に座った。目次をみて面白そうな題材を探していると、人のガヤつく音が聞こえてくる。その音の方に目をやると、数十人の人だかりができており、その中央に4人の男がいた。背の高い男(以降ノッポ)が全身包帯の男に絡んでいる。話し内容は分からないが、ノッポが憎たらしい顔をしながら話しているので快い内容ではないようだ。ノッポの隣にいる二人の小さい男達はノッポの言うことに媚びるように相槌をうち、同調していた。2人は子分ということだろう。ノッポと子分2人は銅色バッジを胸につけており、普通クラスの生徒だと分かった。
包帯男には見覚えがあった。凡太が特待クラス入学試験を受けた時にいた受験生だ。胸に銀色のバッジをつけていることから、試験に合格していたようだ。
特待クラスと普通クラスは仲が悪い。ブレント学園は、名門ということで他国に知られているらしく、実際王族や貴族などの血統の良い人間が多く入学していた。しかし、合格基準が特殊な為、特待クラスには良血統の人間が少なく、庶民が多い。良血統の人からすれば、自分の方が潜在能力が上で、かつ教養も兼ねており優秀だと思っている為、この結果に不満で学園側がひいきしていると勝手に考えている。ここで、敵視するのが学園側になっていれば、生徒間は平和だったのだろうが、彼らはプライドが高い為、上下関係にはうるさい。よって、名門という格を与えてくれている上位存在の学園側を責めることはできなかった為、その腹いせに特待クラスの低血統者が責められることになったのだ。
凡太は、人間の優劣を決める上で血統は大事だと思っている。現にレオやレイナは高血統であり、努力家で人格者なので非の打ちどころがない。優秀な人物の子供は、親と遺伝情報が類似する為、優秀になる確率が高い。だが、あくまで確率の話だ。本人に向上心がなければ、努力せずに腐っていくだけなので優秀にはなれない。才能だけであれこれできるのは漫画とかゲームの中だけの話で、現実は高血統に対して甘く設計されていない。よって、人間の優劣を決める上で最も大事なことは向上心を持つことだ。凡太はそう思った時に、アイの姿が真っ先に浮かんだ。血統なんてなくても、あそこまで自分を高められて、今もなお発展途上にいる人間はそうはいまい。出来過ぎた主人公のように一度も心が腐らなかったわけではなく、劣等感に押しつぶされ、腐りながらも努力を続けた。簡単に努力をして強くなったように思われがちだが、アイは挫折期間が長い。だからこそ、この結果が出せていることは凄いし、尊敬に値するのだ。
(包帯男はノッポ達の腹いせに付き合わされているってことね)
凡太は状況を理解し、͡この出来事が急に馬鹿馬鹿しくなった。そして、ノッポ達を哀れに思う。包帯男は実力で入学試験を合格した。自分のように訳の分からない感じで合格していない。となれば、特待クラスと普通クラス。実力の差は歴然だろう。ノッポ達に心の中で合唱をしつつ、包帯男の力量を探る為、遠目から観察する。だが、包帯で体が覆われている為、筋肉・マメの状態などが分からない。ゴリゴリの筋肉質ではないので、魔力持ちで強化量が大きいタイプだろうか。分析は憶測ばかりになりそうだったので諦める。
分析時のいつもの癖で探知用の虚像をつい発生させてしまい、慌てて消そうとしたが、消せなくなった。虚像に反応があったからだ。凡太の虚像は高速移動するものに反応する。つまり、何かが高速移動していたということだ。その反応場所を追っていくと包帯男とノッポの間の空間に辿り着く。さらに反応の探知に集中すると、ノッポの首元と包帯男の立ち位置の間で何かが往復している。その何かは剣だった。包帯男はノッポの首元に向かって剣を振って寸止めし、剣先を鞘に戻した元の姿勢に戻るという動作をとてつもないスピードで繰り返していたのだ。おそらく師匠やレオなら目でとらえられるスピードなのだろうが、常人の凡太は目でとらえることができず、探知虚像でようやく認識できるくらいのスピードだ。ノッポはそんなこととは知らずに悪絡みを続ける。包帯男は、ノッポの視覚情報が信号化されるところで自然体に戻っているので、ノッポにはずっと棒立ちしているようにしか見えていないのだろう。
(もう絡むな。マジで殺されるぞ)
包帯男の心配が一転し、ノッポの心配へと変わる。包帯男の表情が分からず、心中も読めない以上、いつやられてもおかしくない。
すぐにノッポをやらないことから、包帯男は悪い人ではなさそうだ。むしろ、ノッポのくだらない悪態にわざわざ付き合ってくれているので良い人ではないだろうか。そんな人がこんなくだらない奴の相手をする必要はないし、拘束される時間がもったいない。凡太は、包帯男とノッポを切り離す方法を考える。
(あれで行こう)
どうやら方法が決まったようだ。
「だから、お前みたいな奴が特待クラスなのはおかしいんだよ。目障りだからとっとと退学してくんない?」
「そーだ、そーだ」
「……。」
全身包帯という男から気品が感じられないことを良い事に罵倒を続けるノッポ達と無口な包帯男。周りの人間がしかめ面して見物しているところをみるに、先程からこのやり取りが続いているようだ。そんな嫌な空間に何かが近づいてくる。
ドンッ!
ノッポに誰かがぶつかり、両者尻もちをつく。
「すみません。100mダッシュ中で、勢い余ってぶつかっちゃいました」




