第86話 筆記テスト
特待クラスには授業がない。戦闘と知識という2部門があり、その中の科目ごとに実技テストか筆記テストが出題される。それぞれの部門で5項目以上テストに合格すれば卒業となる。実戦と筆記、どちらのテストも1時間以内に終わり、結果も30分以内に知らされる為、実力さえあれば、最速2日(学園でのテスト実施時間は8時から17時の為)で卒業可能だ。テスト結果は学園内の掲示板で公開されていて、入園許可書を持っている者や学生なら誰でもみることができる。会社の人事が必要人材の確保の為に利用することもあるそうだ。
卒業後の就職先は、合格した項目から適性のある職業がピックアップされるのでそこから選ぶか、ヘッドハンティングされるかで決まる。
特待生には“特”と書かれた100円玉サイズの銀色のバッジが与えられ、身に着けていることで学園を自由に出入り可能。ちなみに普通クラスの生徒は銅色バッジだ。
学園を覆うように探知魔法がかけられており、不審な人物は警備員に捕えられる。なお、警備員は騎士団が兼任。学園内で悪事を働いた場合、逃げ切ることはできないだろう。
学園ではテストを受けること以外に、テスト対策授業を受けることもできる。各項目の授業の予定は掲示板に書いてある。授業の他に個別対策相談も完全予約制だが請け負っており、万全の体制が整っていた。
凡太はこの独特な学園のシステムが気に入った。現世での学校生活では30人くらいが1つの部屋に押し詰められ、どこがゴールかよく分からない勉強を義務教育だからといって強制的にやらされることに納得がいっていなかった。その30人の中にはすでにそのゴールの知識基準を満たしている人(勉強していないのに100点しかとらない人)もいたので、その人にとってその授業時間は無駄になるからもったいないと思っていた。
この学園ではゴール(テスト合格)がはっきりしていて、さらにゴールのゴール(適性就職先の選定)までつながっている。目的がはっきりしていてやりやすいので、これなら生徒も自発的に学習しやすいだろう。
凡太は知識部門の筆記テストを受ける為、8時30分頃に学園へ到着。定員50人くらいのテスト会場に入り、椅子に座る。筆記テストは100点満点中、90点以上で合格だ。試験時間は60分で、100問を解く。
凡太が最初に選んだテスト科目は強化学。強化学は、強化魔法全般の基礎知識や応用力を養う科目だ。人間だけでなく魚や虫、魔物などのあらゆる生物を強化対象として考える学問の為、幅広い知識が必要となる。当然人間と虫では同じ強化をしても、効力や反応が違ってくるのでそれぞれに適した強化調整が必要となる。なお、虫や魚にも魔法無効化能力があるので、凡太の生物ランクがこの世界で最底辺なのは変わらない。
“特待クラス・強化学試験会場”と書かれた教室に入ると、学校でお馴染みの学習机・椅子が20セットあり、すでに何人か座っていた。教団の所に試験管が座っており、凡太が入ってくると、空いている席の方を指さした。凡太はその席に座る。机の上には、表紙に“強化学筆記試験”と書かれた問題用紙の束が置かれていた。注意事項を読むと“カンニング可。ただし、試験管に見つかった場合、二度とこの科目の試験は受けられません”と書かれていた。凡太はあれこれ禁止と書かれた注意事項を想像していた為、このような遊び要素がある注意事項を見て、緊張が少し和らいだ。その後の注意事項も一応すべてに目を通し、筆記用具を出して、試験開始合図を待つ。
9時になり筆記テストがスタートする。1問目の問題文を読む。
問1:自分に強化魔法をかける場合、最初にどの部位にかけるのが適切か。その理由も述べよ。
(こんなの人それぞれじゃん。明確な答えなんてあるのか?)
いきなり答えが1つじゃない系の問題に直面し、ペンを進められない凡太。嫌な予感がして、問題用紙をパラパラめくり、各問題文を確認していく。予感は的中。すべてが問1のような系統の問題だった。
1問解くのに1分弱。これが100問あるのなら、60分では到底終わらない。試験不合格を悟った凡太は、周りの人に気づかれない程度に両手を小さく上げ、降参ポーズをする。不合格が確定し、緊張が一気に解けたので、好き勝手に解答することにした。答えがあっていようが間違っていようがどうでもよくなったおかげでペンがスラスラと進む。そうやって、流れるように書かれた問1の答えはこうだ。
“自分に強化魔法をかけない。理由は、自分が弱過ぎるから。したがって、自分の仲間を強化して、自身は囮に徹するやり方が最適だと考える。”
凡太らしい解答だ。採点者がどう思うかが楽しみである。
以降の問題もこのノリのまま解答していき60分があっという間に経過する。結果的に凡太は50問目まで進むことができた。
試験会場から出て、採点結果を待つ。
30分後、各試験者の名前と点数の書かれた採点結果用紙が、試験会場外の掲示板に貼りだされる。凡太は試験者の間から用紙を覗き込む。
‘’タイラ・ボンタ 22点“
(なんであの解答で点数が入ったのだろうか)
通常の筆記テストなら解答解説がされるが、特待クラスのテストではそれがない。一応テスト対策授業もあるが、このテストの傾向からみてそれで完璧に対策できるというほど甘いものではないだろう。これらのことから、凡太は自身の力でテスト対策の方法を考えださなくてはいけないことを悟る。
普通なら簡単に合格できないと分かれば、不安にかられるはずだが、凡太の目的は試験合格ではなく、対強敵戦における有用知識の吸収なので、点数や合否のことは大して気にしていなかった。




